ダメに決まってるだろ?
助けてください、そう声を掛けてきた少女をとりあえず自分たちの部屋へ連れてきた。
何かから隠れるようにしていたので俺とユミィで隠しながらなんとか部屋までたどり着いた。
一心地ついて目の前の少女を見るとボロボロの服を被るように着ていて、服は少し濡れていた。
うーん……非常にワケありそうだ。
「えっと……」
俺はこういう時、なんて声をかけていいか分からなかった。
これがコミュニケーションを養って来なかった俺の限界だ。
「助けていただきありがとうございます」
目の前の少女は非常に優雅な所作で礼を言う。
言葉が出てこなくて気まずくなりそうなところを助けてもらったのは俺だというのに。
「ああ、それはいいんだけど……君は?」
と、俺が聞いた時だった。
突然マギーが左目から飛び出してきた。
前まではチリッだとかピリッだとか痛みを感じていたのに、最近殆ど感じないからビックリする。
「それは俺とお前の親和性が高くなっているからだろうな。それはそうとこの女……」
そう言われて目の前を見ると突然出てきたマギーに驚いたのか少女は目を見開いていた。
そしてその目は俺と同じオッドアイで……。
「間違いないな、この女は魔眼持ちだぞ」
「……えっ?」「ええっ!?」
俺と少女は同時に声を上げた。
その時、部屋のドアがノックがされてユミィが入ってきた。
「はーい、下でお茶を貰ってきましたよ……ってマギーちゃんがはみ出てるけどいいんですか?」
「マギーちゃん……はみ出てる……。小娘、口の利き方を教えないといけないようだな」
マギーの気迫が籠もった瞳にユミィがたじろいでいる。
「まてまてまてまて、そんな事よりもっと重大な単語が出ただろう!?」
慌てて俺は止めに入る。
美少女の前で美少女が触手に巻きつかれる所は見たくない。
……いや、見たいが今はダメだ。
「マギー、魔眼持ちっていうのは本当か? なんで分かる?」
「……俺は……会ったことがあるからな」
目の前の少女は警戒心を顕にしながらどこで会ったのかを考えているようだ。
「この娘に、ではなく……まぁ……なんというか……前の持ち主に、だ」
「ま、前の持ち主だって? それじゃマギーってもしかして……」
「あぁ以前の魔眼大戦から生きている……というか参加してると言ったほうがいいか」
その言葉に驚いたのは俺だけではなかったようで、目の前の少女も口をあんぐり開けている。
目を開いたり口を開いたり忙しそうだ。
「あの……」
一足先に衝撃から立ち直った少女が声をあげる。
「貴方も魔眼持ちなのですか?」
「も、っていうことはやっぱり君もそうなのか?」
「はい」
そういうと少女は姿勢を正すと俺を真っ直ぐに見て……微笑んだ。
「私はリリアーヌ・フォン・リオンハート……と申します」
この言葉に驚いたのはユミィだった。
「リオンハートって…… ルクセレス様の……!?」
「はい、私はあの方の子孫にあたりますね。正確に言うとひいひいひいひいお祖父様がルクセレス様になります」
「ひいひいひいひい……」
ユミィが指を折りながら数えているが、まぁ子孫だという事でいいだろう。
「それは本当なのか?」
「ええ、これで証明になりますでしょうか? ご確認を」
そういって見せてくれたのは華やかな装飾が施された一振りだった。
その短剣の鞘に刻印されていたのは龍がなにかを足で掴んでいるような紋章だ。
「これは……確かにルクセレス様の……王家の紋章ですね」
ユミィが短剣を食い入るように見つめている。
それじゃあ……本物の王女様なのか?どうしてこんな所に?
「どうして……ですか」
おっとどうやら声が漏れてしまっていたらしい。
「逃げ出してきたのです」
「逃げ出して……一体何から?」
こんなやんごとなき身分の子が逃げるものなんて相当だろう。
これは俺とユミィじゃ荷が重いか……と唾を飲み込んだ。
「もちろん……家からですわ」
「い……家?」
俺と同じ様に息を飲んでいたユミィはその答えにはぅ?と吐息を漏らした。
けど家から逃げるっていうのはどういう意味だろうな。
「私の家は知っての通り、王家です。そしてこの国は百四十年前の魔眼大戦がキッカケで作られた国。だから魔眼を持つということがどういうことか……知っているのですよ」
「というと?」
「あら、そちらの高貴な御方からは何も聞いていないのですか?」
そういってちらりとマギーを見る。
俺もつられてマギーを見ると……こいつ視線を外しやがった。
「マギー……どういうことだ?」
そう聞いてもマギーは視線を外したまま……いやどこか遠くを見つめだしたぞ。
「あの、聞かせてもらっても?」
役立たずのマギーは放って置いて、俺はお姫様の方に聞くことにする。
あの遠い目をしているマギーに話させるのは難しいだろうからな。
「……ええ。同じ目を持つものとして、知っておいた方がいいでしょう」
そういって少女は話始めた。
「魔眼は神からの贈り物であり、神からの呪いである。お城の書物にはそう書かれておりますわ。これは私のひいひいひい…… ルクセレス様の言葉ですわ」
「贈り物はいいとしても呪い……とは物騒だな」
いや<寄生>も大概物騒なのだが。
「そして、全ての魔眼を集めるとどんな願いも神が叶えてくれると書いてあるのです」
魔眼は7つ、8つか?それを集めると願いが叶う……7つの(目)玉を集めると願いが叶う……。
そんな龍玉伝説Zみたいな話があるか!と俺は心の中でツッコミを入れる。
「龍玉伝説Zって何だ……」
マギーがそんな事を呟いているがわざわざそんな所を拾わないで欲しい。
「そして140年前にルクセレス様はその時まだ小さかった娘と妻がいつまでも幸せに暮らす事を願ってこの国が出来た、という話でしたわ」
「それは違うな」
突然マギーが口を挟む。
「あいつはそんな事を願ってなどいない……そもそも願ってすらいない。だからこの国が出来たのはあいつの努力だろうよ」
マギーの目は懐かしそうに細められていた。
「そんなっ……でもそれなら……。ええ、納得できるお話ではあります」
「あと、お嬢さん。そんな話が伝わっているならこの話も知っているだろう? その瞳から魔眼を抜き出された魔眼は宝石に代わり、その者の心臓は石に変わる……つまり死ぬって事だ」
「え……ええ、ですからっ! 私は魔眼を持って生まれてきてしまったと分かったその日から……ずっとずっと籠の鳥でしたわ。狙われるかもしれないから、と部屋に閉じ込められて。ですが……ですがそれでは死んでいるのと何もかわりないではないですか」
「そう……か」
この目の前の少女は生まれてからずっと閉じ込められていたんだ。
俺のように閉じこもったのではなく。
そりゃ外の世界に憧れもするか。
「だからそこから抜け出したくて、機会を伺ってようやく逃げ出した所に偶然貴方達が。…………って偶然?」
「はは、そんな偶然ある訳がないだろう」
マギーがバカにするような笑い声を上げながら続ける。
「これは盤上の遊戯さ。お前達は駒に過ぎない……かくいう俺もな。逃げても逃げても因果が魔眼を結んでしまうのさ。そしてその因果ってやつは絡みついて解けないんだ」
「マギー……お前に何があった? 何を知っている?」
「お前はのんびり暮らしたいんだろ? なら知らなくてもいいさ。もし知る必要があるならばお前はそれを知るだろう。それが因果というもんだ」
「……そんな知ってほしい、話したいって涙を流しているのにか?」
「な、泣いてなどいないだろうが」
マギーは慌てて腕で目をこする。
「まぁそっちの体はな。心で泣いているだろう? 毎日毎日。お前が俺の事を分かるように俺もお前の事がなんとなく分かるよ。最近涙もろくなった気がするのはきっとそのせいだろ」
「いやそれはお前が弱いだけだ」
「ですよねー……」
そんな俺達のコントを見ていられないと思ったのか目の前の少女が声をあげる。
「あのっ……実は私からお願いがあるのです。……魔眼を持つもの同士で争うのをやめませんか? そうすれば皆穏やかに暮らせますし、私も閉じ込められる必要はなくなるはずです。私はそう皆様を説得しようと魔眼持ちの方をこちらから探すつもりだったのです」
なんて素晴らしい考えだ。
それはむしろ俺からお願いしたいくらいだ。
マギーの話を鑑みるに俺が望みを叶えるためにはこの目の前の少女の目玉をくり抜かねばならないわけで。
そんな事をするほどの望みなんて俺にはない、いやもう外に出たいという俺の願いは叶ってしまっている。
だからそりゃ当然……
「ダメに決まってるだろ?」
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