最高の報酬
本日二話目です。次は夕方頃に閑話を更新します。
ようやく森を抜けると村が見えた。
俺の背中の少女は揺られているうちにまた眠ってしまったようだ。
きっと家の人は心配で仕方がないだろうな。
女の子の家に近づくと……扉の前には何人かの村人と、それとお母さんがいた。
どうやら家の外で娘の帰りを待っていたようだ。
誰かが、俺達が戻ってきた事に気づき、お母さんの肩を叩く。
「ニーナッ!!」
娘に気付いた母親の呼ぶ声が聞こえたのか、女の子が背中でもぞもぞ動き出した。
「おかあ……さん?」
寝ぼけながらもそう呟き、やがて状況を把握したようだった。
「お母さんっ!!」
どうやら目が完全に覚めたようだったので俺は女の子を地面に降ろした。
すると、とててと走っていきお母さんにしがみついた。
「おかあさんっ! もう……あえないど……おもっだよぉぉ」
「ニーナ! 私のニーナ! よく無事で……」
魔物に拐われた娘を救い出して母親と再開させられた。
そしてそれをこんな自分が成し遂げられた。
前の世界では何もできなかった自分が、小さな女の子の命を守ることができたのだ。
それが誇らしくて、誇らしくて……俺は目尻を拭った。
「クロウさん……」
そう呼ばれたので横を見るとユミィの顔が大変な事になっていた。
「よがっだぁぁ、頑張ってよがっだでずぅ……」
「ああ、本当によかった」
俺はユミィの頭をポンポンとすると胸に抱き寄せた。
ああ、こりゃ前も後ろもひどい水溜りが出来そうだ。だけどそれは幸せの証だな。
再会の幸せを噛み締めて、ようやく我にかえったのであろう母親がこちらに近づいてきた。
「冒険者さん達、本当にありがとうございますっ!」
「いえ、無事に助けられてよかったです。その子……ニーナちゃんも怖かっただろうによく我慢してくれました」
そんなやり取りをしていると村長が走ってやってきた。全力疾走で。
「冒険者さん方っ! ニーナを……ニーナを救ってくれたというのは本当ですかな!?」
何人かいた村人が走って村長を呼んできてくれたのだろう。
「ええ、ギリギリでしたけどなんとか間に合って助けられました」
「なんと……なんと……」
村長もこらえきれなかったようで声を震わせている。
そうしてありがとう、ありがとうと村の人達みんなが口々に礼を述べた。
ニーナの為にこれだけの人が心配をしていたのだと思うと……いい村だな。
あ、そう言えば旦那さんの靴を借りていたんだった。
そう思って足元を見ると……ゴブリンとオーガキングの血が着いてしまっていた。
「あの、この靴なんですけど……ちょっとゴブリンの血が着いちゃいまして……すみません。洗って返しますので待っていて貰えますか?」
旦那さんの形見なのに申し訳ないな、とそう申し出るとニーナの母親はとんでもないとばかりに首を振った。
「それは是非差し上げます! 旦那も娘が守れて喜んでいるはずです」
そう言われてからも何度か断ったが、押し切られるように貰ってしまった。
有り難いが……いいのだろうか。
困っているとニーナちゃんがまたとてて、と俺の元に駆けてきた。
足元に来ると手を下に向けてブンブン振っている。
どうやらしゃがんで欲しいみたいだ。そう思ってニーナちゃんの側にしゃがみ込む。
「お兄ちゃん! ありがとっ」
そういってニーナちゃんは俺の頬にキスをした。
続けて隣にいたユミィの頬にもキスをして、ありがとうと言っていた。
……本当に、助けられてよかった。
それからも村の人がニーナを抱っこしたり、噂を聞きつけた主婦の方々が集まっておいおい泣いていたりとお祭りのような騒ぎが続いた。
そんな騒ぎのあと、俺達は村長の家に戻ってきた。
「……いッ……たくないっ!」
「本当ですか? クロウさん涙目ですけど」
俺達は先程の戦闘で負った傷の手当をしていた。
俺は肩と足を痛めており、ユミィは背中に大きな痣を作っていた。
「冒険者さん方……この度は本当にありがとうございます」
「村長さん、もう何度も聞きましたから! もう大丈夫ですよ」
俺はどうもお礼を言われるのがくすぐったかった。
それだけの事をしたんだ、と思ってみてもやっぱりくすぐったかった。
「いえいえ、何度言っても言い足りないほどです。それで……ゴブリンは沢山おったのですか?」
「ゴブリンは……20匹くらいでしたね」
「そ、そんなにも……」
「あ、でも殆どはオーガキングを倒したら逃げてしまったのでまだこの辺りの森にいるのは2、3匹ですね」
そのあたりはちゃんと光点で確認しながら帰ってきている。
村長はその言葉に安心した……次の瞬間、顎を外すことになった。
「オ、オ……オーガキングですと!?」
そう驚いていたが、目が飛び出すのではないかと思うくらい見開いた村長の顔の方が驚きだろう。
「ええ、どうもゴブリンを従えていたようでしたけど」
「疑うようで申し訳ないのですが、そんな話は聞いた事がありませんな」
「やっぱりそうなんですね……」
もしかしたら魔物が魔物を従える事もあるのかと思っていたが……やはり何者かの関与があった、という事なのだろうか。
それに加えて、マギーの<寄生>が効かなかったオーガキング、洞窟の奥にあった小部屋……そして何故ニーナが拐われたのか?
分からない事は沢山あるが……今は生還を喜ぶべきか。
「今回の報酬なのですが……」
そういって村長が切り出した。
これが村人から今集められるだけ集めたものになります、そういって村長は金貨、銀貨、銅貨まで含むお金を差し出してきた。
「オーガキングまでいたとなるとこんなものでは足りないかと思うのですが……なにぶん何もない村でして……」
村長はひどく申し訳なさそうな顔をしてそういった。
俺は少し考えたあと、そのお金の中から金貨を4枚取ってあとは村長さんに返した。
「二枚は元々の依頼の分、あと二枚はニーナちゃんを助けるという緊急依頼の分で頂きます」
「そ、そんなっ……それではあまりにっ……」
村長はそんな俺の選択に顔を青くした。
「ユミィもそれでいい? 勝手に決めちゃって悪いんだけど」
「ええ。オーガキングを倒したのはクロウさんですし、それにオーガキングの輝石もありますからね!」
「村長さん、そういう事でこれは村の人達に返しておいてもらえますか? あ、でも出来たらでいいのでこのお金の一部を使って村の外側にある柵……あれを修繕してもらえたらなって思います。ゴブリンは殆どいなくなりましたけど、また何かあった時の為に」
「お、おぉ……他所の街の冒険者さんがこの村の事を心配してくださるとは……。村長として今後必ず、必ずや整備して今度こそ子供を守れる、そんな村に……」
村長は涙でそれ以上何も言えなかった。
きっと俺がやった事は偽善だろう。
それでも村の人の貯蓄まで全て奪うような真似をするよりは気分が良かった。
だからそれでいいんだ。
それにお金に代えられないものも貰ったしな。
そう心の中で呟いて、頬を撫でた。
大事をとって村長さんの家でもう一泊した俺達は、翌日、乗合馬車に乗って街へと帰る事にした。
村全員での見送りを受けながら乗り込んだので、御者がギョっとした顔をしていたのが可笑しかった。
ニーナちゃんは馬車が出発すると途中まで走って着いてきて、馬車の速度があがると立ち止まり、そこで力いっぱい手を振っていた。
俺とユミィの姿が見えなくなるまでずっとずっと手を振っていた。
――――
「もう、あのオーガには失望だわ。あんなにワタクシの愛をあげたのに……でもいいわ、実験は概ね成功。人で試せなかったのはちょっと勿体なかったけど、それは次の機会にしましょ。それじゃ行くわよ、ポチ」
ポチと言われたドラゴンはその名を呼んでくれた主人に首を擦り寄せて親愛の情を見せる。
そして主人を背に乗せると西の空に向かって飛び立った。
「魔眼持ちの貴方……また近いうちにお会いしましょうね」
そんな言葉を空に残しながら。
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