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侵入ってみた

 衝撃を吸収するサスペンションがないからか、地面の舗装が満足でないからか馬車での旅は散々なものだったが、なんとか地獄の行程を終えて、集落の入り口付近で馬車から降ろして貰った。


「あぁ……もう絶対乗りたくない」


「クロウさん、残念なお知らせです。帰りも乗ります……」


 もういっそ殺せ。そんな考えが頭を支配する程度には最悪の気分だった。

 朝方ロンマリアの街を出たのだが、依頼元の集落についたのは夕方近くになった頃。


「出る前に聞いた話じゃ三時間程度で着くって話じゃなかったか? 俺の気のせいじゃなければ倍近くかかった気が……」


「その感覚は正しいですよクロウさん……」


 夕焼けに染まった集落を見ながらユミィがいう。

 まぁ前の世界のかっちりとしたタイムスケジュ―ルを求めるのは酷というものだろうがそれにしても、だ。


「とりあえず歩きたくもないですけど村長さんの家に行ってみましょう」


 どうやら木の柵でなんとなく囲われている範囲が集落であるらしい。

 なんとなくというのはその柵が途中で壊れていたり、そもそもその存在がなく、途切れていたりする為だ。


「あそこで畑をいじっている人に聞いてみようか」


 そう言って俺達は集落の中で野菜でも作っているのであろうおじいさんに声を掛ける。


「すみませ―ん、冒険者なんですけど村長さんの家はどこですか?」


「あぁ、そりゃそりゃあ難儀な事で……アングの爺はあそこにある一番大きな家だぁ」


 そう言って指で示す方をみるとたしかに他の家と比べてやや大きめの家があった。

 ありがとうございます、とお礼を述べると俺達は村長の家へ向かった。


「ごめんくださ―い」


 村長の家の入り口で大きな声を出して待つことしばし、ようやくその粗末な扉の奥から村長と思しきおじいさんが顔を出した。


「おぉこれはこれはお若い方々、なんの用ですかな?」


「俺達はロンマリアの街から依頼を請けて来た冒険者です」


「これはこれは。どうぞ中へ入ってくだされ」


 そういって村長の家の中に通された。

 一言でいうと質素。けれど大部分の物が木で作られたその家はなにか暖かみみたいなものを感じた。


「今は街からの近道が塞がっておりますで、もう少し時間がかかると思っておりましたが」


 そういいながら村長は俺達にお茶を出してくれる。


「ああ、そういう事だったんですね!」


 ユミィが納得したように手を叩く。

 俺達が地獄の時間をやや長めに味わったのは普段使う街道が塞がっていた、という事情があったようだ。

 それなら遠回りしてでも運んでくれた乗合馬車に感謝だな。


「道の崩落かなんかがあったんですか?」


 俺がそう聞いてみると村長は首を振った。


「多分……アイツラがやったんでしょうなぁ」


「アイツラというと……ゴブリンですか?」


「はぁそういう事になりますな。近頃やたら増えよったもんで道を片付けようにもアイツラが邪魔をして来まして一行に進みませんで困っておった所です」


「なるほど。近くに巣が出来たから増えたのだろう、という事ですね」


「はぁ、そういう事ですなぁ」


「分かりました。それでは巣を見つけたらその場所を報告する、という事でいいですか?」


 俺が念の為に確認をするとそれで「だいじょうぶだぁ」と言ってくれた。


「もうじき暗くなりますんで、今日はウチでお休みになって明日調べたほうが良いかもわかりませんな」


 確かにさっきの時点で夕陽が集落を包んでいたから、街灯もなさそうなこの集落には一足先に夜の(とばり)が下りるだろう。


「では、今日は周囲をちょっと見回ったら早めに切り上げて戻ってきます。こちらで泊めてもらえるんですか?」


「ああ、もちろんですとも。ただ、ベッドは一つしかないですんでどっちかは床になってまうかもしれませんが」


「ありがとうございます! 全然大丈夫ですよ!」


 ユミィが嬉しそうにそう言った。

 俺は村長さんの言葉に従って床に寝るからな。床に寝るぞ。


 村長の家を出ると、そのまま集落の周りを見回ってみる事にした。

 集落の入り口こそ街道に隣接しているが、それ以外の方向は森と隣接していた。

 その為、ちょっと集落を出るだけでかなり視界が悪いという事が分かった。


「あのさ、ユミィ……ちょっと試してみたい事があるんだけど」


「はい、なんでも試してみて下さい」


 そういってユミィは目を閉じると唇を突き出して少し顔を上にあげた。

 なんだかユミィがどんどん積極的になってきている気がするな。

 俺が童レベルをあげるまでもうちょっと待って欲しいというのはワガママか?

 まぁ何にしても何でも試していいという事なので遠慮なく。


(マギ―、俺以外の人間にも<寄生>出来るんだよな?)


 そう心の中で問いかけると、ビビっと左目が痛んで何かが抜け出た。たしか魔力だったか。


 ――もうそこの目を閉じている娘に見られても問題ないのであろう?ならば答えよう。<寄生>はもちろん可能だが……何をする気だ?


(俺がやってるみたいな視界拡張をユミィも出来るようになれば不意打ちとかに対応出来るんじゃないかな?って思ったんだけど)


 ――そういう事なら可能ではあるが……。今その娘に<寄生>している濃度で無理だな


(え、今ユミィに<寄生>しているのか?)


 ――あぁそれどころかお前の周囲の人間には大体<寄生>しているぞ


(…………なんの為に?)


 ――お前の一部でもある俺が<寄生>する事でお前に好意だったり親近感を持つようになるからな。余計なトラブルを起こさない為だ。


「じゃあユミィの……いや、ユミィが俺に向けてくれる好意も……お前が<寄生>している所為だっていうのか!?」


 俺は思わず大きな声を出してしまった。


「クロウ……さん? ってあれ、その女の人誰ですか?」


 女の人? 女の人って誰の事だ? と視線を移してみるとそこには全裸の女性が立っていた。

 真っ直ぐな黒い髪が腰まで伸びて切れ長の目が知的な雰囲気を醸しだしている。

 そしてよく見るとその体からは蔓みたいなものが伸びていて……俺の左目に繋がっているようだ。


「マギ―……? お前女だったのか? というか性別とかあったのか」


「お前、そんな事も分からなかったのか? 俺はずっと女だ、ずっと(・・・)、な」


「え? え? これってクロウさんの……魔眼の力、なんですか?」


 ユミィが驚いた顔で俺に聞いてくる。あれ、ユミィにも会話が聞こえているようだ。


「ああ、もう隠しておく必要もないんだろ? であれば普通に会話くらい出来るさ」


「そんな事、今はどうでもいい! それよりさっきの質問に答えろっ!」


 ユミィは、はて?とでも言うように首を傾げている。

 こんなに可愛いユミィが突然現れた俺に……俺なんかに好意を持ってくれるなんておかしいと思ってはいたんだ。


「いや、それはない」


「ああ、そうだろう……だって俺なんか……!? ち、違うのか?」


「ああ、流石に親愛にもなるような情を持たせるにはそれなりに<寄生>しなければな。まぁやれといわれれば可能ではあるが」


「やるな! それは……やっぱりなんか違うだろ。でもそうか……違ったのか……はは」


 俺に好意を持ってくれている人が誰かに意思を操られてそうなっているんだとしたら……それに一喜一憂している俺がいたとしたら……そりゃ滑稽すぎるだろ。

 そうではないと分かって俺の肩から力が抜ける。


「俺はお前の中に在るから感じるんだが、お前は自分に対して自信がなさすぎるぞ。自分が相手からどう見えているかを声にはださずともいつも気にしているだろう?」


「クロウさん、そうなんですか?」


 ユミィが心配するように聞いてくる。

 ああ、そうさ。前の世界で失くしてしまった自信はそう簡単には取り戻せない。

 誰に対してもなるべく第一印象からそう思われないような態度を心がけてはいたけど……分かってしまうのか。


「なんでですか? クロウさんはカッコよくて、優しくて……強いのに」


 そうさ、いつだってユミィがこうやって失くしてしまった自身の自信を少しずつ取り戻させてくれる。


「で、結局のところ視界拡張はどうするんだ?」


「そ、それは……」


 しかし<寄生>する事でユミィの意思をも操れるとしたら……それはもう悪だ。

 俺は自分の足元を睨みつけて思案する。

 そして、出した結論をマギ―に伝えようと顔を上げる。


「……まず、服を着て貰えないかな?」


「……ふん、童貞め」


 あれ、ちょっと待って。さらっとひどい事言ったよ。

 自分でさえもオブラ―トに包んでいたのに……包みきれていたかは別にしても。


「これで文句はないだろう? で、結論は?」


 そういってマギ―は豪奢(ごうしゃ)なドレスをその身に纏った。

 肩や腰など所々に邪悪な意匠が見え隠れしているのがマギ―らしいか。


「ああ、頼みたい。ただユミィが良いと言ったらだ」


 そうしてユミィに俺の一部……いや魔眼を<寄生>させてもいいか、と尋ねる。


「クロウさんの一部を……? は、はいっ! 喜んでっ」


 そうして了解を取った俺はマギ―に許可を出す。


「でも勝手にユミィの意思を曲げることは許さないぞ。くり抜くからな」


 許可を受けたマギ―はその指先から触手のようなものを伸ばしユミィの身体に這わせる。


「あ、あぁっ……そんなぁ……」


 ユミィは途端に顔を紅潮させると苦悶の声をあげ……いや、苦悶か?

 足元から身体の表面を撫でるように絡みついた触手はついにユミィの顔へと到達した。


侵入するぞ(はいるぞ)


 マギ―はそう言うとユミィの目から体内へと入り込んだ。


「ひゃんっ! うぅ……ん」


 ユミィは身体をくねらせると艶かしい声をあげ、ぺたんと地面に座り込んだ。


「こんなのはじめて……す、凄いですぅ……」


 俺は何かいけないものでも見ているかのような気がしたので思わず目を逸らした。

<寄生>するってのは毎回こんな……!?


「いや。お前が見たいかと思ってな……サ―ビスだ」


 こいつ、なんて事してくれてんだ。

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