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よくあるそんな話

「はい、知ってますよ?」


 俺はユミィに全てを打ち明けた。

 それで嫌われて、また一人になっても仕方がないと思ったんだ……けど。


「別の世界って言われてもよく分からないけど、違う国の人なんだろうなっていうのは思ってましたよ。違う国と違う世界って私にとっては正直あんまり変わらないですし。それに魔眼っていうのもなんとなくそうだろうなぁって」


「え、なんでそう思ったんだ?」


「だって昨日の夜やってたじゃないですか。再現しますよ?」


 き……聞かれていたのか。


「マギー! マギー! くそっ、我が魔眼よ! 其の眼を開け! とか、ですね。それから……」


「ごめんなさい、許してください。もうそれ以上はやめて下さい、死んでしまいます」


「ふふっ、これでもし本当は魔眼を持っていないとしたら、それこそ怖いですよ」


 それは確かにそうだな。いや、でも俺は前の世界でもやった事があったか。

 まぁそれは忘れる事にしよう。


「お話ってそれだけですか?」


「あとは魔眼持ちはお互いに争うから俺の側にいると危険だとかいってアリーシャさんが心配してたな」


「うーん、でも結局街のみんなの反対を押し切って冒険者になっちゃいましたし、危ないのは今更じゃないですか? それにクロウさんが居なかったら私はあの森で命を落としていたかもしれませんし」


「じ、じゃあ……?」


「はいっ! これからもよろしくお願いします! あ、でも危ない時は守ってくださいねっ」


 こうして隠し事がなくなった俺はユミィと心から繋がれた気がした。

 あ、でも俺が触手男子だっていう事はまだ伝えていないな……女の子には拒否感がありそうだけど。

 まぁユミィなら何でも受け入れてくれるんじゃないか、そう思った。


「それじゃご飯でも食べにいきませんか?」


「あ、銅貨四枚しかないや……全部洋服で使ってしまった。いいよ、ユミィは一人で食べてきてくれ」


 俺はまぁ一日くらいご飯を抜いても大丈夫だろう。

 どうにもならなかったらツマネキ草でも集めてきて齧ってやる。


「いや、そういうわけにもいかないじゃないですか! 私もさっきのプレゼントで持っていたお金は殆ど使っちゃいましたけど……ご飯くらいだったら大丈夫そうですよ!」


「そ、そうなのか……なんだか悪いなぁ。俺は結局どっちの世界でも誰かに助けられて生きているみたいだ」


「そんなの誰でもそうですよ。みんな誰かに助けてもらって生きているんですから! その代わり明日からは目一杯頑張らないと、野宿です!」


「わかった! じゃあ明日は頑張るって事で、今日はご馳走になる」


 そういって俺とユミィは下の階に降りていった。

 やっぱりギルドの一階では思ってたとおりに食事が出来るようで、安くてボリュームのある料理を二人で楽しく食べた。

 途中で仕事中のアリーシャさんが視線を寄越してきたので俺は親指を立てておいた。


 次の日、俺達は朝の早い時間からクエストが掲示される板の前に来ていた。

 ちなみに今日は床で寝る事を主張してなんとか認められたので睡眠は充分だ。

 まぁちょっと体は痛いし天国を味わえなかったのは残念ではあるけど体調としてはほぼ万全と言っていいだろう。


「クロウさんはどのクエストがいいですか?」


「俺としては剣も買ったしユミィの守りも少しは安心出来るものになったし、ちょっと稼げそうな依頼がいいかな」


「そうですねぇ、やっぱり稼げそうな依頼となるとなかなか危険そうですから……」


「あ、これなんてどうですか?」


 そういってユミィが指したのは近くの集落からの依頼だ。


 ーーゴブリンの巣の探索


 そこにはそう書いてあった。


「これは集落の近くでゴブリンが大量発生しているから近くに出来たであろう巣を探してほしいっていう依頼みたいですね」


「ほう、探索だけならそこまで危険じゃない……か?」


 それに探索だったら昨日のARみたいな機能を使えるかもしれないな。


「報酬は……金貨二枚みたいですけど探索中に討伐したゴブリンの権利は貰えるみたいなので案外ボーナスが期待できるかもですね」


「よし、じゃあその依頼を受けることにしようか」


 そうして、俺達はゴブリンの巣を探索するというクエストを受注したのだった。

 なんだかこっちに来てからゴブリンばっかり狩っている気がするけど……まぁまだ経験が足りない俺達にはそれくらいが丁度いいだろう。

 マギーはもっと良いものを食わせろと文句を言うかもしれないけど死んでしまったら元も子もないからな。


 アリーシャさんに行ってきますという報告をして俺達はギルドを出る。

 それにしてもアリーシャさんはいつもカウンターの向こうで忙しそうにしているけどいつ寝ているんだろうか。


「あ……」


 そんな事を考えていた俺の横でユミィが固まる。


「ん? 急に止まってどうしたんだ?」


「集落には馬車で行くらしいんですけど、そういえばさっきの朝ごはんで馬車代がなくなっちゃいました……」


 おう……。俺というお荷物がいるからユミィの懐がどんどん寂しくなっているようだ。

 うーん、俺も何かしてやれないだろうか?と頭を回転させるといい事を思いついた。


「なぁユミィ……服って高いだろ? じゃあ俺が着てきた服も売れないかな?」


「なんですって? あんないい素材でいい匂いの服を売ってしまうなんてとんでもない!」


 ……とんでもないと言われてもなぁ。


「まぁクロウさんがそれでいいなら我慢しますけど……ぐすっ」


 という事で部屋に戻って服を取り、この前行った古着屋に売りに行った。


「こ、こりゃあどこのもんだい!?」


 そういっておばさんは驚いていたけど壊れた時に直しようがないし、着る時にボタンの部分が面倒くさいという事で金貨一枚での買い取りになった。


「いくらなんでも安く買い叩きすぎですよね!」


 店を出るとユミィがぷんぷんしていたけど多分定価の三倍くらいで売れたぞ。


 集落へ行く乗り合い馬車の到着時間までまだあるという事だったので、ついでに大きめの肩に掛けられる袋とちょっとした保存食と怪我した時のための傷薬を購入して用意が完了した。

 街の中にある乗合馬車の停車場へ行くと、少し前に到着したであろう馬車の中はすでに八割ほどの人が座っていた。これが全て埋まると出発になるそうだ。

 少し待つと乗りたい客がやってきて、席が全部埋まった。


「それでは出発しますね」


 馬車の前方に乗る御者がそういった。

 前の世界でもほとんど遠出した事がなかったからちょっとした旅行みたいで楽しみだ。

 一番近い集落という事で三時間ほどで着くらしいけどまぁそれまでは楽しもう。


 と、思っていました。


「あぁ……もうだめだ……ユミィ……すま、ない」


「ちょっと、クロウさん! 馬車の揺れくらいで……あ、私も駄目だ……」


 二人して三時間ほどちょっとした地獄へ行きました。



 ーーーー 其の頃 別の場所では ーーーー



「なんだよなんだよなんだよぉぉっ……惨苦の魔眼っていうからどれほどのものかと思って楽しみにして来たのに。こんなもの? ねぇこんなものなの?」


 燃えるような赤い髪をした少年が足元に転がる僧侶を足蹴にしている。

 地面には雪がうっすらと積もっていて辺りの寒さを連想させる。


「私はっ! そんなものに頼ったりしないっ!」


「ほうほう、確かに君の所の宗教は魔眼の存在に否定的だったよねぇ。それなのに魔眼を貰っちゃうなんてなんて皮肉っ! なぁ、あったろ? あはは、信じてた教義が根底から崩れるなんて残念無念だねぇ」


「くっ! 忌々しい悪魔めが!」


「それじゃあ貰っていくね? いいよね? 仕方ないもんね。ごめんねとは言わないよ? だからありがとう(・・・・・)


 少年は動けない僧侶の左眼に指を食い込ませる。

 そしてズブズブと無遠慮に眼窩(がんか)へと指を侵入させる。


「ぐあああぁぁぁっ」


 しばらく楽しそうに眼窩の中を指で蹂躙した少年は、満足したように何かを切るような音を響かせてその瞳をくり抜いた。

 すると瞳であったものは形を変えていく……。


「ふーん、こうなるんだ? これを集めればいいだけなら案外簡単だねっ」


 そうして目的を果たした少年は足元の亡骸には目もくれず歩きだす。


「次はどこに行こうかな? 強く臭うのは……やっぱりこっちか。じゃあ行くか、ルクサンドへ」

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