第9話、勇者の巫女。
翌日、僕は巫女さんと修道女さんにお願いして神殿にいる他の修道女の人たちを全員集めてもらった。集められた修道女は30人弱にも上った。修道女さんと他の修道女の呼び方の区別が難しい……。
「これから皆さんには勇者の能力調査の実験に協力していただきます」
いきなり目の前に見たこともないものが出現するので、びっくりされないように勇者の能力調査の一環だということにした。詳しい説明は適当にごまかして、巫女様と修道女さん以外にはステータス画面は見せないことにしている。
30人弱の修道女を順番に呼んで、1人ずつアプレンティスに登録していった。登録作業なんて一瞬かと思いきや、全員初めての経験なので1人1人フォローしていると案外時間が掛かった。
その後お礼を言って解散して、後で巫女様と2人でゆっくり確認していくと意外なことが分かった。修道女さんは何か別の用事とかで今は部屋にいない。
「あれ、職業に修道女って人と巫女見習いって人がいますね」
「巫女見習いですか?」
「そうなんですよ」
スキルや他のステータスにも違いはなさそうなので、おそらく違いは転職先なんだろうと思うけど、転職可能職の一覧には巫女は乗っていない。やはり、巫女になるには何か特別な条件が必要に違いない。
「うーん。特別な条件」
「もしかして、勇者様と、あの、私が、け、結婚したり、したら、引退ってことで代わりの巫女が任命されたりしないですか?」
「け、結婚ですか?」
「は、はい。あ、あの。もし嫌でなければですけど」
「嫌な訳ないじゃないですか!」
「勇者様……」
「巫女様……」
巫女様の顔を見つめると、潤んだ目で見つめ返してきた。新婚旅行で諸国漫遊とかって考えてたけど、新婚旅行ってことはその前にこの可愛い巫女様と結婚するってことなんだよな。
僕と巫女様の視線がお互いに離れられなくなって、だんだんその距離が近づいて、やがて唇が重なり合った。僕が巫女様の肩に手をまわすと、巫女様の手が僕の背中をしっかりと抱きしめた。そして、僕たちはそのまま体を倒して……。
「見つけました!!」
その時、突然部屋のドアが開いて修道女さんが入ってきた。
「な、な、何やってるんですか、こんな昼間から! 自重してください!!」
「し、修道女さん、これは、その」
「巫女様!」
「……はーい」
修道女さんに言われて巫女様がしぶしぶ僕の体から離れると、修道女さんはため息を吐きながら僕の対面の椅子に腰掛けて、台車に乗せて来た本をテーブルの上に積み上げていった。
「これを見てください」
「何ですか、これは?」
「歴代の巫女様に関する記録です」
「こんなにあるんですか?」
「これは一部だけ持ってきただけで、実際にはもっともっとありますよ」
そう言いながら、修道女さんは持ってきた本をぱらぱらとめくって次々に開いていった。
「記録の中には巫女様が引退した時と次の巫女様が選ばれた時のことも書いてあります。なので、それを調べれば何かヒントが得られるのではないかと」
「すごい。修道女さん、賢い」
「さすが!」
「ほ、褒めても何も出ませんよ!!」
そんなことを言っているが、修道女さんは顔がにやけていて喜んでいるのが丸わかりだ。
「それで、巫女様が引退する時には、必ず神託が下りています。ということは、必ず意思の間の中で引退しているんです」
「そうか。意思の間の中にいることが転職の条件なんですね」
「はい!」
というわけで、巫女様を連れて拝観殿に来て、巫女様に一人で意思の間に入ってもらった。意思の間には巫女様しか入ってはいけないので、僕と修道女さんは拝観殿で待機だ。
巫女様が意思の間に入ると転職可能職一覧が増えた。そのほとんどが一般的な上級職だったけれど、その中に勇者の巫女という変わった職業が含まれていた。さらに、どの職も必要ポイントが高く、巫女様の持っているポイントではまだ転職ができなかった。
「何か分かりましたか?」
隣から修道女さんが問いかけて来た。修道女さんは自分のステータス画面を見ることはできるけど、巫女様のステータス画面を見ることはできないから、何が起きているか分からないのだ。
「巫女様は勇者の巫女っていう職業になれる可能性があるみたいです」
「それは勇者様の何かということですか?」
「名前からすればそうなんだと思います」
ステータス画面で分かるのは職業の名前だけで、実際に何ができるかは転職してみないと分からない。前の世界では転職者の調査から職業事典というのが作られていたけれど、こっちの世界でそれはないし、あったとしてもユニークジョブについては結局情報はないからどうしようもない。
「勇者様!」
修道女さんと話していると巫女様が意思の間から出て来た。
「私、勇者の巫女というのになりたいです。でも選択してみたのですが、ポイントが足りないと言われてしまって。どうすればいいんでしょう?」
「それは僕に考えがあります」
「本当ですか!?」
実はアプレンティスという仕組みにはポイントを融通する機能がある。師匠が弟子にポイントを無利子で貸し出すことができるのだ。貸し出すことができるポイントには上限があっていろいろ複雑な計算があるのだけど、巫女様の場合は巫女様自身が持っているポイントと同数まで僕が貸すことができる。
ただ、それでもまだ勇者の巫女になるにはポイントが足りない。これだけ転職のハードルが高ければ、歴代の巫女がなかなか転職できないのも無理はない。ただでさえ年を取るとポイントを稼ぎにくくなるうえに、神殿のほとんど外に出られない生活をしているのだから。
「そのためには巫女様はまずもう少しポイントを稼ぐ必要があります。なので、これからは僕と一緒に修行です」
「分かりました!」
こうして、僕と巫女様の修行生活が始まったのだった。
修行と言っても、毎日規律に則って規則正しく禁欲生活をするというのとは違う。むしろその逆である部分も多い。なぜなら、ポイントを稼ぐには特別な経験をすることが必要なのだ。禁欲的で規則正しい生活をしていても特別な経験をすることなできない。
「勇者様、何をすればいいんでしょう?」
「そうですね。巫女様はデートをしたことはありますか?」
「デ、デートですか!? ないです! デートするんですか?」
「はい。これまで経験したことのないことをするのはポイントを得るのに一番効率的なんですよ」
というのは建前で、本音は僕が巫女様とデートしたいのだ。もちろん、ポイントを得られるというのは本当のことだから嘘はついていない。
さあ、巫女様と二人きりのどきどきらぶらぶデートに出発だ。
Twitterやってます。できるだけ毎日何かつぶやくようにしているので、よかったらフォローしてください。
https://twitter.com/tomo161382