第5話、無人島に2人きり。
どうにかこうにか小島に着いた時にはもう日が傾いていて、これから海を渡って向こうに戻るのは難しくなっていた。そこで、今夜はこの小島で一夜を明かすことにした。
「ここってもしかして無人島ですか?」
「……かもしれませんね」
小島に人気はなく、どうやら僕たちはこの離れ小島で二人きりということのようだ。
僕たちは上陸してからずっと背中合わせでお互いの姿を見ないようにしていた。僕は全裸、巫女様は僕の水着を下だけ着けて上は丸出しなのだから、視線を向けようものならお互い見てはいけないものを見てしまうのは必然だからだ。
とはいえ、いつまでもこのままというわけにもいかないので、何か身に着けるものを探さないと夜の寝床の準備もままならない。
僕は近くにあった蔦のようなものを紐にして腰に回し、大きな葉っぱをそこに吊るしてふんどしのようなものを作ってみた。葉っぱの表面がざらざらしていて敏感なところに擦れるけれど、仕方ない。
さらに巫女様にも同じ材料を渡して、葉っぱのブラジャーの作り方を教えてあげた。
「勇者様、うまくいかないです」
巫女様は思いの外不器用だった。いや、葉っぱでブラジャーを作る経験などこれが初めてだろうから、これで不器用というのはちょっとかわいそうな気もする。ともかく、巫女様は何度挑戦しても葉っぱのブラジャーを作ることができなかった。
「勇者様、お願いします」
お願いします、と言われても、僕が作ったらばっちり見えちゃうよ!? とはいうものの、巫女様はいつまで経っても作れないことにすっかりしょげていて、手伝ってあげないことにはいけない雰囲気になっていた。
「じゃあ、まず、両手を挙げて」
せめて直視を避けるように後ろ向きで両手を挙げて貰うと、うなじから背骨にかけてのラインがきれいに出て、肩甲骨が浮き出ているのが大変だった。しかも、立派なものは両脇にはみ出していて、背中側からでも輪郭を見ることができたのだ。
うっ、これは、葉っぱに擦れてじんじんする。鎮まれ鎮まれぇ!
僕は理性を総動員させながら、後ろから手を回して蔦の紐を胸の辺りに掛け、後ろで縛った。
「じゃ、こっちを向いて」
「は、はい」
ごくり。
巫女様はおずおずと両手で胸を隠しながらこちらを振り向いた。全然手で隠しきれてない!
「あの、そんなじっと見ないで下さい」
「ごめん。じゃあ、始めますよ。ちょっと目を瞑って」
見ないでと言っても、これから始めることを考えれば見ないなんて不可能なので、恥ずかしがらなくていいように巫女様の方に目を瞑ってもらうことにした。これは巫女様のためであって、決して邪な気持ちからではないので注意するように。
「はぅん」
「大丈夫ですか?」
「ちょっとびっくりしただけだから。続けて下さい」
僕は巫女様の肌になるべく触れないようにしながら、葉っぱを蔦の紐に付けていった。
「終わりました。目を開けていいですよ」
「あ、すごい。ちゃんと隠れてますね」
「あ、あんまり動くと」
「きゃっ」
はしゃいだ巫女様がぴょんぴょん跳ねた拍子に隠していたものがばっちり見えてしまった。葉っぱのブラジャーは紐に葉っぱをくっつけて垂らしているだけなので、激しく動くとひらひらしてめくれ上がってしまって中身が見えてしまうのだ。
「でも、これで落ち着いてキャンプの準備ができます。勇者様、ありがとうございました」
こうして僕たちは日が完全に暮れるまでの間に、なんとか寝床になりそうな場所を確保して、火を起こすことができたのだ。因みに、火を起こすのは忍者の修行で得たスキルを使った。忍者は海は苦手でもサバイバルの能力は高いのだ。
それから、葉っぱのブラジャーは、横から見ると下手をしたらつけている方がやばいということが分かった。横乳がはみ出しているなんてレベルの話ではない。は、鼻血が。でも、巫女様はその事実に気がついていないので、これは僕の胸に留めて墓場まで持っていくことに決めた。
明日になって明るくなったら、もうちょっとしっかりしたブラジャーを作ろう。後、僕のふんどしも。この状態で海を泳いだら、結局また同じ結果になってしまうのは目に見えている。
「あ、巫女様、これ食べますか?」
「え、これ、なんですか?」
「薪を探している時に見つけた木の実です」
時間がなかったので、大した量は集められなかったけれど、空腹を紛らわせる程度の量は集めた。これも忍者スキルの力だ。ちなみに、これが高レベル忍者になれば、山兎の2,3匹数分で見つけて兎肉にでき、さらに肉を焼く煙を避けるため生肉を食べるスキルも所持している。
「美味しいです。よかった。一緒に遭難したのが勇者様で」
「巫女様?」
「勇者様……」
巫女様のきれいな瞳が、焚き火の炎にゆらゆら揺れながら、僕をじっと見つめて来た。そのあまりのきれいさに、僕はそのまま巫女様の瞳に吸い込まれそうな気持ちになった。
巫女様がほんの少し僕の方へとにじり寄って、僕の膝に手を置いた。その手の熱さに僕は心臓がドクンと跳ねたような気がした。喉がからからに乾いて言葉がうまく出ない。
「私、勇者様とずっと一緒にいたいです」
「巫女様」
焚き火の炎に照らされた巫女様は美しく、葉っぱ2枚だけに覆われた半身は扇情的で、僕はどうにかなってしまいそうだった。
「僕も巫女様とずっと一緒にいたいよ」
「でも、勇者様はいつか私を捨てるんです」
「捨てないよ。僕はずっと巫女様と一緒にいるよ」
「いいえ。勇者様はいつか事を成すために神殿を出て行かれる定めなのです。でも、私は巫女ですから神殿を離れるわけにはいきません」
話しながら巫女様はどんどん僕の方へと近づいてきて、今や僕と巫女様の間は唇が触れそうなところまで近づいていた。巫女様の柔らかな肢体の一部はもうすでに僕の体で押しつぶされている。
「キス、してください……」
巫女様はそう言って目を瞑った。僕は吸い込まれるように唇を重ねようとして……
「キェーーーーーー!!」
突然近くで鳴いた鳥の声に2人で驚いてお互いの体をぎゅっと抱きしめあって辺りをきょろきょろと伺い、何もないことに安堵してお互いの顔を見つめあうと、どちらからともなくふふっと笑いあった。
「巫女様、もう一回やり直し」
「はい、勇者様」
その夜、僕たちは誰もいない小島で初めての愛を確かめ合った。
しばらくはゆっくりしたペースで更新して行こうと思います。よろしくお願いします。