第22話、解決。
身代わりのスキルは、スキルを掛けた相手に自分のHPを分け与えることで、相手のダメージを肩代わりするスキルだ。このスキルはHP以外の怪我や状態異常などのバッドステータスを肩代わりすることはできないけれど、回復スキルの使い手がいない状況下での応急措置として有用だ。
「取りました」
「分かりました。じゃあ、僕が使いますね」
「いえ、私が使います」
「え?」
修道女さんにスキルを取ってもらってすぐに僕が巫女様にスキルを使おうとすると、修道女さんに止められた。
「今、勇者様が行動不能になったら、誰が巫女様を最後まで守れるのですか? ここは私に任せてください」
HPの最大値はレベルやステータスに差があっても変わらないので、HPが半減している相手に身代わりを使えば、相手のレベルが自分より高くても低くても、自分のHPを半分失うことになる。なので、身代わりスキルは低レベルであるほど効果的で高レベルになると高コストになるのだ。
僕がここで身代わりを使うとHPが大幅に減って今後の行動に支障が出る可能性がある。商人にもう抵抗の意思はないようだけども、いきなりピストルを撃ってくるような人間がいる場所なので、僕の行動に制約が出るのは万が一ということもあると修道女さんは言っているのだ。
でも、それは僕の代わりに修道女さんがリスクを背負うということも意味する。
「大丈夫です。勇者様なら巫女様も私も守ってくださいますよね」
「当たり前です」
僕が大きくうなずくと、修道女さんは巫女様に身代わりのスキルを使った。すると巫女様の表情は大分穏やかな表情になり、代わりに修道女さんは苦し気な表情になった。
「大丈夫ですか?」
「へ、平気です」
修道女さんは苦しそうではあるけれど大丈夫そうだ。一時的にHPが減っているだけなので、安静にしていれば回復していくはずだ。むしろ巫女様の方はHPが回復して一時的に落ち着いているけれど、銃創は残っていて流血も続いているので早く治療しないといけない。
さっきまでは修道女さんが簡易的に手で押さえて止血をしてくれていたけれど、修道女さんのHPが減少して腕力が低下しているので、さっきより流血が多くなっている。
「く、商人は一体何をしてるんだ」
「し、神官様」
ちょうど商人のことを思い出し、どこにいるのか確認しようと立ち上がった時、ドアが開いて商人が入ってきた。手には包帯、ガーゼなどの救急キットと痛み止めの薬を持っていた。
「じゃあ、それをここにおいて、この辺に伸びてる連中を連れてすぐに外に出ろ」
「は、はいっ」
僕は向こうで倒れていたチンピラの親玉を持ち上げて商人に投げつけ、残りのチンピラも全部部屋の外に引き上げさせた。そうしながら、僕は救急キットの内容を確認して応急処置の準備を整えた。万一毒などを忍び込ませられることがあるといけないので、焦る気持ちを抑えながら慎重に確認した。
毒見というスキルがある。これは自らの身体で毒の有無を確認するスキルだ。どのスキルを発動すると、対象物に毒性があるかどうかがすぐにわかる。代償として、毒があった場合には毒の強さに応じてHPが減少する。ただし、HP減少以外の副作用は存在しない。
全職種で低レベルから取得できるけれど、ステータスが低いうちは致死性の毒でHPが全損して死ぬということもあり得るので気を付けないといけない。高ステータスになればそんなことはないのでそれなりに安全に使えるスキルだ。
救急キットと痛み止めに片っ端から毒見を掛けてチェックしたところ、どれにも毒は含まれていなかったので、安心して巫女様の応急手当を始めた。まず、銃創の確認から始めないと。
ビリビリッ
僕は銃弾の貫通した脇腹の神官服を思い切って引き裂いた。見たところ、銃弾は貫通していて、銃創も主要な臓器の密集しているところを通ってはいないようだった。巫女様のきれいなお腹にこんな傷を作るなんてとまた怒りがこみ上げて来たが、今は治療に集中する時だ。
僕は救急キットを使って巫女様の銃創の消毒を行い、ガーゼと包帯で止血をしていった。忍者としての経歴から人体の止血法は熟知している。てきぱきと手当てを進めてすぐに巫女様の銃創の出血を止めた。HPの減少も止まったようだ。
「巫女様、これを飲んでください」
最後に巫女様に痛み止めの薬を飲むように差し出した。
「勇者様が飲ませてください」
「じゃあ、口を開けて」
「そうじゃないです」
巫女様はまだ続く痛みに脂汗を流しているくせに、口を尖らせて甘えた声を出してきた。
「口移しで飲ませて」
こんな時に何を言っているんだと思ったけれど、あからさまに痛そうなのにあえてそんなことを言う巫女様の心情を考えて、あえて何も言わずに痛み止めを自分の口に入れると、巫女様に覆いかぶさって唇を重ねた。そして、舌を使って巫女様の口内に薬を押し込んだ。
「ありがとうございます」
すると、ちょうど外に人が集まって騒がしくなってきているのが耳に届いてきた。どうやら、神殿から人が来たようだ。これで神殿まで無事に戻れば一安心だ。
その後は、神官の方たちの手を借りて分社に戻り、そこで1晩安静にした後に竜車で神殿まで戻った。
神殿に戻った後は、傷が治るまでの間しばらく外出禁止となってしまったので、その後どうなったのかは後から代官に説明を受けるまで把握していなかったけれど、事はこんな感じで進んだようだ。
まず、例の巫女様をピストルで撃ったチンピラの親玉は、門前町の守護の宇津木だったようだ。僕は顔を知らないし、巫女様も分かっていなかったみたいだけれど、修道女さんは分かっていたようだ。
その宇津木だが、神殿の巫女を禁制のピストルで自ら撃って大けがをさせたと言うことは大問題となり、王家の知るところとなって守護の地位と当主の座を降ろされ、蟄居させられることとなった。
その後任として別の御家人が任命されたが、その御家人はすでに別の領地を持っているため門前町には来ず、代官に全権を任せる方針を取った。そして、終始かやの外だった代官は、御家人が変わった後も留任となった。この人事には王家の意向が反映されたと聞いた。
宇津木と結託して再開発事業を進めていた丸金屋にも累は及んだ。当主は投獄され、商売は娘が継ぐこととなった。ただし、今はイエードの支店で商売の勉強をしているところで、突然のことに困惑しているらしい。商売の事情に詳しい幹部も何人か解雇されたため、経営の立て直しが急務のようだ。
修道女さんのHPは1日安静にすることで回復した。巫女様の傷の治癒には時間が掛かるが、負傷を聞きつけた王家や各地の御家人から傷によいものが次々と届けられ、着実に回復は進んでいた。
傷口も塞がって激しい運動でなければ普通に生活できるようになって、最初に巫女様がしたいと言ったのはお風呂だった。あの後、お風呂も禁止となって毎日タオルで体を拭く生活だったので、久しぶりにさっぱりしたいのだと思う。
「勇者様、見てください」
お風呂に入ってすぐに巫女様がお腹の傷を見せて来た。一糸まとわぬ美しい姿態の中に、一点、生々しい傷跡が残っていて、僕は何とも言えず胸が押しつぶされるような気持になった。でも、どういうわけか巫女様はにこにこしていた。
「これは私の勲章です。私が勇者様を守った証なんですから」
「ごめんなさい。僕があの時油断しなければ」
「違いますよ。私は勇者様に守られるだけの存在じゃないんです。だから、ありがとうって言ってください」
「ありがとうございます、巫女様」
巫女様はそれに対して直接返事をせずに、僕を巫女様の胸の中にぎゅっと抱きしめた。久しぶりに巫女様のぬくもりを肌で感じた。最近は安静のために夜のお勤めもお休みだったからだ。
「勇者様」
「巫女様」
そして僕と巫女様はお互いの目と目を情熱的に見つめ合い、その距離が徐々に縮まって言って、とうとう2人の唇が……。
「巫女様、勇者様、自重してください」
触れる寸前に修道女さんに止められてしまったのだった。




