表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/23

第17話、謎のお告げ。

「おうおうおうお、はよ店長出せやこら」


 僕たちが茶屋に入ると、以前見たチンピラ2人組が顔に包帯を巻いてまた難癖を付けに来ていた。


「巫女様は少し離れていて下さい」


 また、いきなりピストルを取り出されて発泡されたら大変なので、僕は巫女様に距離をとってもらってからチンピラ共に話しかけた。


「君たちはまたこんなことをしているのか」


 僕はチンピラ共に冷静に声を掛けた。僕は知的な忍者なので、言葉遣いも上品であるべきだからだ。


「お、お前。現れよったな」

「今度は前みたいにはいかんで」


 チンピラ共は僕の顔を覚えていたらしく、ぱっと距離をとった。そして、一斉に懐からピストルを取り出したのだ。


 が、僕の方もそれは想定済みだ。


 向こうが茶屋でチンピラを叩きのめしたのが、商人の屋敷に現れてピストルを見て逃げ帰った人物と同じだと気づいていないはずがなく、ならばピストルを持ち歩けば対抗できると考えてもおかしくはない。


 ということに僕が気づいていないと思っていた想定の甘さがチンピラ共の敗因だ。


 ピストルを懐から取り出すのと同時に、僕は影走りで一瞬で距離を詰め、指ごとピストルを蹴り飛ばした。体術で圧倒的に負けているのにこの間合いでピストルの照準を合わせられると思っているのか。


「くそ、覚えとれや、お前」


 と言いつつ、おっかなびっくり退散していく様子は滑稽でもあったけれど、ああもしつこく絡んでくるのは悪質だし、次はどんな手を考えてくるか分からないので厄介だと思った。


 でも、ここで二度と絡んでこられないくらいに叩きのめしても別のチンピラが来るのだろうから、逃げていくチンピラを追い回しても仕方ない。臭いものは元から絶たないとダメなのだ。


「勇者様、素敵でした!」


 離れているように言った巫女様が、戦いが終わるや否やすかさず飛び出して来て腕を絡めて来た。意識しているのか無意識なのか、押し当てられた双丘で二の腕が幸せな感触に包まれた。


「勇者様ですか?」

「違います。ゆうじです」


 チンピラに難癖をつけられていたのは、前の時と同じ店員さんだった。巫女様の言葉が聞こえたせいで、また僕のことを勇者と呼んだので、再度訂正しておいた。危なく身バレするところだった。


「そうでした。ゆうじ様。そちらは巫女様……」

「みとです」

「あれ、みく様ではなかったですか?」

「そうです」

「どっちですか?」

「……、みとみくです。みとが名字でみくが名前です」

「なるほど」


 どうやら、巫女様の方も切り抜けたようだ。この店員さんは勘が鋭いから気を付けないと。


「まだ、あいつらが来ていたんですね」

「はい。一昨日ゆうじ様に追い返していただきましたけど、昨日も今日もまたやってきて全然変わりません」


 誰も客のいない茶屋に入って前と同じ葛切りとあんみつを頼むと、今度は店員さんも僕たちの隣の席に座って一緒に話し始めた。どうせもうお客さんは来ないから休んでいてもいいのだそうだ。


「お茶、注ぎますね」

「ありがとうございます」


 ポニーテールの可愛らしい店員さんに隣に座ってお茶のお酌をしてもらうのはなかなか気分のいいものだと思った。


 ごほん。忍者たるもの色仕掛けに溺れることのないよう日頃から鍛錬しているので、このくらいでデレデレしたりはしないのだ。隣で対抗するように葛切りを勧めてくる巫女様もいることだし。


「ところで話は変わるんですが、この辺りは道が細いですけど、広くしようという話はないのですか?」

「それは、一度上がったことはあったのですが……」

「その件については私の方から話しましょう」


 声を掛けられてふと見上げると、そこには杖を突いた高齢のおばあさんが立っていた。


「おばあちゃん。寝てなくていいの?」

「いいんだよ。私の体のことよりももっと大切なことがあるんじゃ」

「おばあちゃん……!」


 なんか、急にすごくシリアスな展開になってきたぞ。巫女様も店員さんに対する対抗意識は一旦収めて話を聞く態勢に入っていた。


「ごほごほ。失礼。さて、何から話をすればいいのですやら」


 おばあさんは咳き込んでいて何か体調が悪そうだったけれど、それを押して話を始めた。


「道を広くしたいという話は昔からありましたのじゃ。が、参拝客が増えてきてから、本格的に道幅を広げる話をこの辺のものが集まってしたことがありました」

「それでどうなったんですか?」

「ごほごほ。許可が下りなかったのですじゃ」

「どうしてですか?」

「巫女様のお告げがあったそうですじゃ」


 僕は思わず巫女様の方を振り返った。巫女様はびっくりした顔で首を振っていた。


「私はもう長く生きておりますが、こういうことで巫女様のお告げが下りたのは初めて聞くことで、そんなことがあるのかと掛け合ったのですじゃが、お告げを侮辱するのかと言われてしまいましてな」

「それは神殿の人ですか?」


 自分のお告げのせいかもしれないと思ったのか、巫女様はおばあさんに聞き正した。


「いえ、その話を聞いたのは代官様のお役人の方でしたのですじゃ」

「そうですか」

「それでその話は立ち消えとなったのですじゃが、最近になって急に丸金屋の遣いと名乗る者が来て、お告げに依ってこの辺りは丸金屋が買い取って道幅を広くして建物を立て直すから立ち退くようにと言い放ったのですじゃ」

「え、じゃあ、前のお告げはどうなったのですか?」

「そうなのですじゃ。その遣いとやらに何度その話を聞いても、新しいお告げだとしか言わないのですじゃ」

「神殿で確認すればいいのではありませんか?」

「神殿の方と直接話すには、代官様に取り次いでいただかないとダメなのですじゃ。これまで何度かお願いしておりますが、返事は全く帰って来ないのですじゃ」


 むむ。これはあからさまに怪しい感じがしてきた。この話は代官のところに行ってじっくりと確認しないといけないな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ