第16話、再び戦場へ。
「巫女様、また門前町に行こうと思います」
「どうしてですか?」
「ちょっと調べたいことができたものですから」
僕は、仕事を終えて戻ってきた巫女様に今日図面と書類を調べて分かったことをそのまま伝えた。
「じゃあ、あの商人は悪徳商人じゃないということですか?」
「いえ、チンピラを雇って地上げをしたり、訪問客に対してピストルで撃ってきたりするのは良いことだとは思いません。でも、再開発計画自体は意味のある計画かもしれないということなんです」
「えっと、すると、どうすればいいんですか?」
「それを調べに行きたいんですよ」
ということなんだけれども、そもそもこの一件のことを知らせていない修道女さんにどうやって言い訳して門前町に行こうか、というのが目下の問題で、さてどうしたものかと思案していた。
「全部、修道女さんに話してしまうのはダメなんですか?」
「うーん。……、まあ、それもありですか?」
事が大きくなってきていて、いつまでも隠していられないようにもなってきたので、この辺で全部打ち明けてしま方がいいかもしれない。
ということで、他の用事を済ませて戻ってきた修道女さんに事の顛末を話した。
「何かこそこそしていると思ったら、そう言うことだったんですか」
「すいません」
「ごめんなさい」
「まあ、街中で騒ぎを起こしてはいないのでよいとします。でも、今度からは先に私に相談してください。お願いしますよ」
「はい」
「はい」
僕と巫女様が平謝りだったせいか、修道女さんは思ったほどは怒らなかった。むしろ、呆れた様子で肩をすくめているだけだった。
「それで、勇者様はまた門前町に行くのですか?」
「はい」
「巫女様も一緒に行くんですね」
「いえ、巫女様は残ってもらおうかと」
「仕事の方は私で何とかしますから、一緒に行ってください」
「え、でも」
「その方が、ポイントを稼げるんでしょう?」
修道女さんは僕に巫女様が同行することを強く推してきた。ちょっと意外だったけれど、よく考えると修道女さんは巫女様の転職に初めから非常に協力的で、事あるごとに便宜を図ってくれているので、今回も同じなのだろう。
ということで、門前町に行くのは僕だけじゃなく巫女様も同行することになった。でも、修道女さんは今回は同行しない。さすがに急すぎていろいろ調整がつかないのだそうだ。
なので、前にもまして念入りに自重するように言い含められた。例えば、今回は家宅侵入してスパイ行為をするのはアウトだそうだ。曰く、見つかったらどうするのか、だそうだ。さすがに巫女様が死に掛けていたことは内緒にしている。
門前町に行くには竜車を使うのが普通なのだけれど、今回は徒歩で行くことにした。巫女様がスキル共有で忍者スキルを使えるようになったので、スキルの練習を兼ねて影走りで走っていくのだ。ポイントは多少消費するけれど、巫女様の安全のためなので仕方ない。
ところで、巫女様にはスキル共有が有効だけれども、修道女さんには有効ではない。それどころか、他にもアプレンティスにした修道女の人が何人もいるけれど、そのどの人にも有効ではないみたいだ。どうやら、スキル共有の条件はアプレンティスであるかどうかとは無関係みたいだ。
なので、修道女さんが巫女様の仕事の代理をすることはできないのだけれど、どうやって乗り切るつもりなんだろう。
「じゃあ、巫女様、行きましょう」
「はい」
「くれぐれも自重してくださいね」
「分かってますよ」
「道端でとかはいけませんからね」
「しません!」
翌日、朝早くから僕と巫女様は門前町に向かって出発した。今回は、夜を控えめにしたのでちゃんと寝てすっきり起きることができた。
修道女さんは心配なのか何度も念を押していたけれど、これだけ念を押されると、押すなよ押すなよというやつかと勘違いしてしまう。というか、道端でとか考えてもいなかったんですけど!
「もし、どうしてもということなら、周囲1km以内に人がいないことを確認してから、人目を隠せる茂みの中に身を隠して、何かあったらすぐに対応できるように服は着たままで……」
「だから、しませんから!!」
妙に詳細なアドバイスに、もしかして修道女さんはそういう趣味の人なのか、とちょっと思ったけれど、すごく真剣な顔で語っているので、ちょっと真面目過ぎてずれているだけで、さすがにそういう趣味はないかと思った。
全く。夏服セーラー服の巫女様を茂みの中に連れ込んで、服を着たままで木に手を突かせて立ったままでそんな……って、修道女さんのせいで変な妄想が。コスモぉ!
だが、コスモのコントロールに精通しつつある僕は、道中、修道女さんが心配したようなことを起こしたりはせず、真っ直ぐ門前町を目指していた。巫女様と一緒に影走りで走りながら、巫女様の他のスキルの練習も並行して行った。影走りは他のスキルと同時発動することが多いスキルなので、この練習は有用だと思う。
そこで気付いたけれど、僕と巫女様でスキル発動時の効果に差があるようだった。どのスキルを使っても僕の方が効果が強いのだ。もちろん、僕のステータスは転職前のレベル90台まで上げた時のステータスが残っているのだけど、ステータスの影響を考慮してもスキルの効果がなお強い。
「さすが勇者様です!」
「そういう問題なんでしょうか?」
「だって、勇者様なんですから」
巫女様は迷いなくそう答えた。それは巫女様の欲目だろうと思ったけれど、ちょっと考えてみてその可能性もあるかもしれないと思い直した。
忍者が忍者スキルを使うと高い効果が得られるのはスキルの職業適性のためだけれども、この効果はスキルと職業が完全にマッチしないと得られない。
しかし、別の職業であっても似たような事ができる職業というのも存在する。例えば、戦斧使いと木こりは用途は違うもののどちらも斧を使う。なので、お互いのスキルを使うときは他の職業よりも多少うまく使えても不思議はないはずだ。
こういう効果は、近接職業適性と呼ばれていて、スキルごとに関連性の高い職業の不可視のリストがあって、それに含まれるとスキルの効果が少しだけ底上げされる。でも、リストは不可視なので、実際に使ってみて効果を確かめないと近接職業適性があるかどうかは分からない。また、職業が合致しないと取得できないスキルの場合、確かめることすら困難でもある。
前の世界では、よく知られた職業なら職業事典を調べれば近接職業適性を確認することもできるけれど、勇者は前世にはない職業なので情報が全くない。でも、勇者が忍者スキルに対して近接職業適性を持っていると考えれば辻褄が会うのではないだろうか。
さらに仮定の話をすれば、勇者と忍者スキルというあまり関連性の高くない組み合わせで近接職業適性があるのなら、勇者はすべてのスキルに対して近接職業適性を持っている可能性もあり得る。そんなバカなという感じだけれども、ユニーク職なのに強力なスキルを持っていない理由がこれならば納得できる。
ということは、勇者というのはつまり、仲間を作れば作るほど強くなるハーレム推奨職ということなのか!?
いや、別に女性限定にする必要はないんだけれど、「すべてを受け入れる仲間」という条件がどういう意味なのか、何を「受け入れる」のかということを考える必要があると思うんだ。
「勇者様、見えてきました」
いろいろと考え事をしていたら、どうやら門前町が近づいてきたみたいだ。ここからは一旦勇者の能力のことは脇に置いておいて、門前町再開発のことについて集中しないと。
「まずは、最初の茶屋に行きましょうか」
町に入って真っ直ぐに例の茶屋に行くと、そこにはいつか見たのとそっくりな光景があった。
先日、扉絵を描きましたが、他で連載している小説のキャラのイラストも描きはじめました。
ラフ絵や線画などの制作過程も含めてtwitterに投稿しているので、興味ある方は見てみてください。
モーメントにまとめてあるので、そちらでもご覧になれます。
https://twitter.com/i/moments/985332704148275200
イラストは総合評価がキリ番に到達した記念に描こうと思っています。
次は1000ポイントに到達したら、巫女様の夏セーラー服姿を描こうかな。