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第15話、門前町再開発計画。

 その部屋にはたくさんの書類が几帳面に整理されて戸棚や箱に収納されていた。


「これ、全部書類ですか?」

「そうみたいですね」


 ドラマなどでは商人は大金を持って豪遊していい加減な暮らしをしているような印象があるけれど、実際には現金や在庫、売掛買掛金の管理、取引先との交渉、プロジェクトの進捗報告、商品や店舗の収益性の分析、従業員の勤怠管理や給与計算などなど、とにかく大量の書類と数字をさばいていく必要があり、几帳面な性格でないとやっていけないのだ。


 なので僕たちのミッションも、床の間に置いてある桐の箱に入った巻物を手に取って、「こ、これは!!」と驚いて終わりというような簡単なものではなく、この几帳面に積み上げられた書類の山から目的のものを探し出す必要がある。


「よし。じゃあ、端から順に見ていきましょう。勇者様はそちらからお願いします」

「音を立てないように気を付けてください」


 そして、僕たちは隣の部屋で眠る商人に気づかれないように注意しながら、順番に書類を確認していった。スキル共有によって2人とも千里眼を使うことができるので、暗闇でも書類を読むことはできる。


 ただ、スキルを使用するとポイントが消費されるのが少し気がかりで、通常なら気にするほどの消費量でもないのだけれど、あまり長い間スキルを発動し続けると無視できない量になってしまう。特に、今は巫女様のポイントを溜めている時なので、巫女様のポイントを消費しすぎるのは避けたい。


 少しの間2人掛かりで書類を探してみたけれど、このまま全部調べていると終わるころには朝日が昇って来そうな気がする。


「ちょっと、いったん止めましょう」

「どうしましたか?」

「今、この屋敷に守護が泊まっているということは、きっと、地上げの件についても話したと思うんです」

「そうですね」

「ということは、関係する文書をその時に見てると思うんですよ」

「確かにそうですね!」

「自分が商人になってみて考えて、その文書をしまうのに、取り出しにくい奥の方にしまうとは考えにくいですよね」

「ということは、この床の間の桐の箱とか怪しくないですか?」

「…………怪しいかも」


 床の間の桐の箱とかありえないでしょと思っていたけれど、よく見るとあるし、あからさまに怪しいし。何でこんなところにこんな怪しいものを置いたんだ。


「開けてみましょうか」

「僕が開けます」


 もしかしたら何かの罠かもしれない。だったら、僕が盾にならないとだめだ。僕は巫女様を背中に隠して、慎重に箱の蓋に手を掛けた。


 そっと開けると、特に何の罠もなく箱は開いた。中に入っていたのは何かの図面だった。


「こ、これは!」

「何ですか!?」

「何でしょう?」


 図面は何枚かに分かれていて、かなり大きなものだった。どうやら全体図1枚と部分図数枚からなるようだ。


「まだ何かありますよ」


 大きな図面の下には、一回り小さな書類が隠れていたようだ。図面に気を取られていた僕の代わりに巫女様が見つけてくれた。


「勇者様、これです。これですよ。悪事のすべてがここに書かれてます!」

「巫女様、声、大きいですよ」

「あっ」


 慌てて口を手で押さえて身を縮こまらせた巫女様の動きは可愛いんだけど、今ので商人が起きたら厄介なことになる。僕たちは、いつでも影走りで床下に逃げ込めるように準備しながら、隣の部屋の様子に聞き耳を立てた。


「……大丈夫……みたいですね」

「よかった」

「でも、そろそろ潮時かもしれません」


 僕は図面と書類を桐の箱に入れると、箱ごと小脇に抱えて立ち上がった。これは証拠品として押収するのだ。


「撤退しましょう」


 そして、後をきれいに片付けると、外した床板のところから床下にもぐりこんで床板を元通りにはめ直し、見つからないように気を付けながら急いで宿へと戻った。


 明日、桐の箱がなくなっているのに気づいたら、きっと大騒ぎになるぞ。


 その後、宿に戻って短い睡眠をとって、どうにかこうにか朝早くに起きることができた。巫女様も何とか起きて来たけれど、見るからに眠そうだ。


「確かに少しくらいならハメを外してもいいとは言いましたけど、一体昨日はいつまで起きていたんですか!?」

「ははははは」


 完全に修道女さんは僕と巫女様が夜の大相撲を取っていたせいで眠いんだと思っているみたいだ。まあ、確かにそのせいで予定より遅くなってしまったという面もあるから否定できないけど。


「だめ、神殿に着くまでもうちょっとだけ寝かせて」


 巫女様はそう言うと、僕の膝に頭を乗せてすやすやと寝息を立て始めた。修道女さんはそれを見て、やれやれという顔で眉毛を下げて笑っていた。


「勇者様も少し寝てていいですよ。肩くらいならお貸ししますから」


 そう言って修道女さんは僕のすぐ隣に座り直したんだけど、何この両手に花状態。足元は巫女様の寝息がかかるうえに時々太ももをさわさわと触ってくるし、修道女さんの首元からはなんだかいい匂いがするし、視界には2人の谷間が絶好の角度で飛び込んでくるし、こんなの寝られないよ。


 と思っていたけれど、結局すぐに寝てしまって、気が付いたときには神殿だった。


「勇者様、寝ぼけて巫女様と間違えて変なところを触らないでください」


 巫女様と修道女さんの2人はすぐに仕事ということで慌ただしく去っていったけれど、去り際に修道女さんからそんなことを言われてしまって、僕は一体修道女さんの何を間違えて触ったのかと、しばし睡眠時の記憶を呼び覚まそうと必死になっていた。


 さて、部屋に戻って、僕は商人の家から持ち帰った図面をゆっくりと広げて確認することにした。


 どうやらそれは地上げ地区の再開発計画案の図面のようだった。図面と一緒に入っていた書類の方はプロジェクト計画書のようだ。もっといい加減な悪徳商人的なものを予想していたら、想像を超えてきちんとした書類なので面食らってしまった。


 プロジェクト計画書によれば、再開発計画の動機は、門前町が人気の観光スポットとなるにつれ、観光客が東側の通りに集中してキャパシティを終えた混雑になって来ているのに、西側の通りの方には観光客が流れて来ていないということらしい。


 その原因として計画書では、西側の通りは東側の通りより古く道幅も狭いため、観光客が敬遠して近寄らない傾向にあると指摘していて、そのために大規模な再開発で通りを広くして街並みを統一感のある門前町らしい雰囲気にして、第2の門前通りとするべきだとしていた。


 確かに、巫女様と入った茶屋の通りは、わざと人混みを避けて人通りの少ない道に入って行って見つけた店で、いいお店のわりに閑散としていた。回りの他のお店も同じような感じだったように思う。


「これは、ちょっとちゃんと調べないといけないかもしれないな」

twitterの方をフォローしている方はご存知と思いますが、イラスト描きました。扉絵イラストです。

第1話の冒頭に貼り付けて置いたのでもしよかったらご覧になってください。


それから、タイトルの方も少し変更しました。前に「おっさん」と入れたらアクセス数が増えるのかとあとがきに書きましたが、実際、入れてみました。

その結果、ただでさえ長いタイトルがさらに長くなってしまいました。

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