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第13話、策士。

 身分を明かすことなく代官と会って地上げの話を聞き出して、できればその場で改善の措置を取ってもらう、あるいは改善の約束を取り付けるというのは相当な難易度の芸当だ。


「じゃあ、私は通りすがりの赤の他人ですが、勇者様は勇者様だと名乗ってもいいんじゃないでしょうか?」

「うーん。どうなんでしょう……」


 それもかなりグレーゾーンな気がするけれど、巫女様が名乗るよりはましな気がする。ただ、僕が名乗ったところで果たして代官は会ってくれるのだろうか?


「大丈夫です。勇者様は英雄ですから」


 それは僕のことではなく、先代までの勇者のことではないだろうか?


「ね、勇者様。……お願い♡」

「任せてください!」


 そんな潤んだ目と魅惑の谷間でお願いされたら、断るなんてとんでもない! やってやりますとも!!


「頼もう!」

「何奴だ!?」

「何、怪しいモンではありません。私はただのエチゴのちりめん問屋の小倅は世を忍ぶ仮の姿、その正体はトッショ神殿に居候する新人勇者である。代官殿にお目通り申し上げる」

「勇者様ですと? しばしお待ちくだされ」


 代官屋敷の門番は、さすがにトッショ神殿の勇者のことは聞き及んでいたのか、そのように名乗りを上げると門前払いをされることはなく、ひとまず取次ぎに応じてくれた。


「代官様はお会いになり申し上げます。こちらへどうぞ」


 しばらくすると門番とは別の人が出てきて、屋敷の中へと誘われた。後をついていくと、和室にソファーが置かれた部屋に案内された。どうやらこれが応接間ということらしい。


 出された玉露を飲みながらしばらく待っていると、代官らしい人物が部屋に入ってきた。


「これはようこそいらっしゃいました、勇者様。そして、そちらの方は巫女様でいらっしゃいますか?」

「いいえ、違います。こちらは僕の世話をしてもらっている『みと』と言うものです」

「……、分かりました。みと様でいらっしゃいますね」


 もう「みく」様じゃなくて「みと」様でいいや。それの方がらしい。ただ、偽名を使っても、この代官はすでにみと様の正体が巫女様であることは気付いているのではないかと思う。気づいていて、あえて気付かないふりをしているようだ。


「して、本日のご用向きは何でしょうか?」

「単刀直入に言うと、今、門前町で行われている地上げの件についてです」

「地上げとは何のことでしょう?」

「街中の用地取得のために、やくざ者を使って不公正な立ち退きを迫っていることを知らないですか?」

「は? やくざ者、ですか?」


 これは、代官が知っていてとぼけているのか、それとも本当に知らないのか、どちらだろうか?


「しかも、地上げを主導している商人はご禁制のピストルまで所持しているんですよ」

「まさか……、本当ですか?」


 代官は僕の顔を見て、それから巫女様の顔を見て、これが冗談ではないということを悟ったようだった。


「いや、しかし、それは……」


 そして、何か思い当たることがあったのか、巫女様の顔をちらちらと見ながら表情を急速に青ざめさせていった。うーん、やっぱり、勇者のネームバリューよりも巫女様のネームバリューの方が圧倒的に強いじゃないか。やっぱり、みと様で正解らしい。


「何か心当たりでも?」

「いえ、これは私の一存では……」

「宇津木殿の差し金ということでございますね」

「は、いえ、それは……」


 巫女様の言葉に、代官は言を濁した。ところで、宇津木というのは一体誰のことだろう?


「では、宇津木殿に直接話を伺いましょう。宇津木殿は今もイエードですか?」

「いえ、今は丸金殿の屋敷に滞在しておられます」

「なるほど。そういうことですか」


 なるほど、分かった。丸金というのはさっきピストルで撃たれた屋敷の商人のことだ。そこに宇津木というのが滞在しているということらしい。ということは、黒幕は宇津木ということだ。


「あの、巫女様、ではなく、みと様」

「どうしました?」

「くれぐれも、穏便にお願いいたします」


 黒幕が分かってしまって穏便というのも難しいことだとは思ったけれど、形だけは頷いて僕たちは代官の前を辞した。代官はもっと詳しい事を知っているような気がしたけれど、それ以上のことを僕たちに話す気はなさそうだったからだ。


 まあ、詳しいことは丸金の下にいる宇津木というやつに聞けばいい。ところで、宇津木というのは一体誰のことなんだろう?


「宇津木殿はこの街とその周辺の所領の守護をなさる御家人でいらっしゃいます」

「そうか、そっちか」


 御家人というのは上級貴族の別名で、守護とは所領の管理を王家から許された貴族の肩書のようなものだ。実際の行政は守護から任命された代官が行っているので、守護自身は名誉職のようなものだが、代官の任免権を持っており、所領においては代官の権力も及ばない無敵の人である。


 守護が商人にお墨付きを与えているとなれば、代官の権限で地上げやピストルの所持を取り締まることは不可能だ。言葉を濁すはずだ。


「宇津木殿が絡んでいるとなると少し慎重に動かなければなりませんね」


 さすがの猪突猛進ガールの巫女様でも、相手が御家人となると「少し」は慎重にする方がよいと思ったらしい。しかし、ここで手を引くつもりは毛頭ないようだ。


「しかし、巫女様。相手が守護だとさすがにこれ以上手を出すことはできないのではないですか?」

「いえ、そうでもないのですよ?」


 そう言って目を細めた巫女様は、すでに何かを企んでいるようだった。


「でも、その前に、もう少し情報収集をしておきたいところです、勇者様っ♡」


 言いながら僕の腕に腕を絡めてむにゅりと柔らかな2つのスライムを押し付けて来た巫女様はたいそうな策士だと思った。これで、もう僕には巫女様に逆らう選択肢は残されていない。


 加えて巫女様は、僕の耳元に唇を寄せて甘い声で囁くのだった。


「勇者様のかっこいいところ、見せてください♡♡」

「任せてください、巫女様!」


 巫女様のためなら、昼でも夜でもいつだってかっこいいところを見せてあげますよ!!!

身分制度などに日本史用語っぽいものが出てきていますが、日本史とは関係ありません。混同しないようよろしくお願いします。

後、イエードは江戸ではないし、トッショは東照でも、エチゴは越後でもありません。


総合評価500ポイント達成、ありがとうございます。

今、私はイラストの練習をしていて、500ポイントの記念に挿絵を一枚描こうと思っています。被写体は巫女様と修道女さんで。

完成まで多少時間が掛かるかと思いますが、完成したらこちらに公開したいと思います。

ちなみに、作者の画力についてはtwitterの方でご確認ください。

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