第12話、勇者覚醒。
「ここですね」
「ねえ、巫女様、やめませんか?」
店員さんと話をした後、僕たちはその足でとある大豪邸の前に来ていた。店員さんは貴族の名前は知らなかったので、大商人の屋敷の方に来たのだ。巫女様はこのまま殴り込みでも掛けそうな雰囲気だ。
「何を言っているんです! 人々が困っているのを見て見ぬ振りをするなんて、神に仕える巫女として許されないことです」
「ですけど、修道女さんからは自重するように言われて」
「勇者様らしくもない! さ、びしっと一言、弱いものいじめをするなと言ってきて下さい!!」
「え、僕ですか!?」
巫女様は結局、最後は全部僕に任せるつもりだったみたいだ。ちょ、それはどうなの、巫女様……。
「ダメ……、ですか?」
巫女様はそう言って、僕の手をぎゅっと握って潤んだ目で僕の方を見上げた。両腕に挟まれたおっぱいの谷間が強調されて、僕の理性は一瞬でノックアウトされてしまった。
「だ、ダメなわけないですよ! 罪もない人々を苦しめるなんて太え野郎だ。僕が一発とっちめてやりますよ!!」
ということで、僕は自ら進んで大商人の大豪邸に殴り込みを掛けることになったのだ。
「頼もう!」
「何奴だ!?」
「何、怪しいモンではありません。私はただのエチゴのちりめん問屋の小倅です」
「小魚商人ブゼイがこんな所に何用だ!?」
え、そっち!? ちりめん問屋はちりめんじゃこ問屋じゃないんだけど……。
「ええい、お前じゃ話にならない。大旦那を呼べ」
「お前のような小童に大旦那様がお会いになるわけがないだろう。者ども、出会えぃ」
おっと、いきなりクライマックス展開になってしまった。これはもっと周到に行くべきだったか。でも、巫女様は期待の目で僕を見てるし、巫女様のセーラー服の中には期待がいっぱい詰まってはちきれそうだし。
「僕は殺生は嫌いだが、歯向かうやつは容赦せん!」
そう言いながら、特に抜く刀もないので、刀を抜く真似だけして手刀を構えて見せた。まあ、さっきのチンピラ程度だったら獲物を持っていても何とかなるだろう。
と高をくくっていると、屋敷の奥から数人が飛び出してきたと思ったらその手には黒く光る鉄の筒が……。
「って、そりゃ反則でしょ」
「撃てっ」
「巫女様、逃げますよ!」
手に持っていたのはピストルだった。僕は、慌てて巫女様を担いで影走りで屋敷から逃げ出した。間一髪、後ろで銃声が響いたけれど、僕たちはすでに屋敷の外に逃げた後だった。
「あれは、ご禁制のナンバーンのピストル!」
いやぁ、チンピラに地上げをやらせたり、違法なピストルで武装してたりとか、これはなんていう極道ですか? 商人って言ってたはずだよね!
さすがにまともなスキルもなしでピストルと素手でやりあっていたら命がいくつあっても足りはしない。転職前ならピストルなんて撃たせる前に完全に沈黙させる自信はあるけど。
「向こうがピストルを持っているなら、ちょっとやり方を考えないといけませんね」
「何か方法があるんですか?」
勇者の職でも使えるスキルでピストルに対抗できるものがあればいいんだけれど、と思ってステータス画面を開いてみると、スキルの欄にマークがついていた。何だろうと思って選択してみると、ダイアログが表示された。
勇者スキルの第1段階の解放条件が達成されました。
解放条件
・レベル6以上
・すべてを受け入れる仲間が1人以上いる
・仲間の命をスキルを使って救う
解放スキル
・スキル共有 - 勇者と仲間たちがスキルを共有し、互いのスキルを自分のものとして使うことができる
これは……、勇者はスキルを解放して成長させるタイプの職業なのか。解放されたスキルはすごく便利そうだけど、今の状況を打開するには……、って、この解放条件だと、巫女様はさっき影走りで逃げなかったら死んでたの!?
(やば。間一髪だったんだ)
そのことに気づいて、思わず背中に嫌な汗が溢れた。こんな可愛い巫女様が死んでたかもしれないなんてありえない。
「どうかしましたか、勇者様?」
「巫女様は、僕が守るよ」
「ゆ、勇者様! 私も、一生勇者様のそばにいます!!」
なんか、愛の告白みたいになってしまった気もするけれど、僕の本心なのだ。巫女様は絶対に傷つけさせない。
しかし、どうやって巫女様を守りながら越後屋の主人に会って悪代官の名前を聞き出すことができるんだろうか。巫女様も影走りができるようになったはずだから、2人で走って中に突っ込むという案もあるけれど、まだ中は警戒しているだろうし。
「勇者様、考えがあります」
僕が悩んでいると、巫女様がそう言って僕の肩をとんとんと触ってきた。
「直接代官と話をしましょう」
「え、悪代官がいるんですか?」
「まだ、代官が悪事を働いていると決まったわけではないですよ!」
「あ、ごめんなさい。そうですね」
うっかり時代劇のつもりで悪代官とか考えていたら口が滑ってしまった。
代官というのは国王や上級貴族に変わって所領の支配を任された下級貴族のことで、実質的な行政の長のことだ。もし大規模な地上げが貴族のバックアップがあるのだとすると、それに関与していなくても代官が何らかの情報を持っている可能性は高いと言える。
「でも、また会ってくれないかもしれないですよ」
「私が巫女だということを明かせば……」
「いえ、それはよくないんじゃないでしょうか。修道女さんが怒りますよ」
「ううっ……」
修道女さんには自重しろと言われているわけで、一言文句を付けるだけならともかく、さすがに身分を明かして介入するのはアウトじゃないかと思う。巫女様も、さすがにそれはそう思ったようだ。
タイトルに「おっさん」と入れると日間ランキングに乗るって本当でしょうか?
そしたら、本作の主人公は元300歳のおっさん忍者なので「おっさん」ってタイトルに入れても問題ないですか?
前回お知らせした通り、来週の更新はお休みになります。
Twitterの投稿頻度も下がると思いますが、次回更新の頃にはまた復活します。
よろしくお願いします。