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第11話、巫女様、みく様、いえ、みと様。

「あなたたち、やめなさい!」


 巫女様はそう言って、関西弁の男2人と店員さんの中に割って入らない形で仲裁するような位置に仁王立ちした。でも、なんか誰一人仲裁したりされたりする雰囲気にはなってない。


「なんや、おまえは」

「あなたたち、この方が困っているではないですか。もう少し落ち着いて話せないのですか?」

「関係ない奴はひっこんどれや」

「きゃぁ」


 そう言って、男の一人が巫女様の肩を突き飛ばしたので、巫女様はよろよろよろけて倒れそうになった。


「大丈夫、巫女様」

「勇者様!」


 僕はよろけた巫女様の背後に影走りで駆け寄って、やさしく肩を支えてあげた。が、これで僕もこの騒動の当事者になってしまったわけで、さてどうしたものか。まあ、見たところ雑魚チンピラっぽいし、転職した勇者の力を試す相手としてはちょうどいいかも。


 とはいえ、僕は脳みそまで筋肉でできた暴力男ではない。あくまでも人前では力を隠し、必要な時にだけ人目を忍んで実力行使をする忍者なのだ。今は勇者だけど。だから、ここは知的に冷静に話し合いから始めよう。


「とりあえず、君たち、もうすこし落ち着いて話をしたらどうかな? 一体、何をそんなに怒っているのか説明したまえ」

「うるさいわ、黙っとれ!」


 そして、有無を言わさず僕の頬に右ストレートが真っ直ぐ決まった。思わずよろける僕の体。


「勇者様!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「……」


 ぶちん! だめだ、もう我慢の限界だ!!(もう?)


「てめぇら、ざっけんなよこら。やってやろうじゃんか。ぎったんぎったんにしてやるからな。ほえづらかくんじゃねーぞ!!」


 ということで、店内で暴れるとお店の迷惑になるということで、この無礼なチンピラどもは表で成敗することとなった。


「勇者様、私もやります」

「これは僕が買った喧嘩ですから、僕が最後までやります」

「勇者様」

「おい、いつまでいちゃついとんじゃ、こら」


 目礼も、始めの合図も待たずにいきなり殴りかかってきた。全く礼儀のなっていないチンピラだ。


 転職前なら蠅が止まって見える拳も、さすがにレベルがリセットされてはそこまで楽勝ではない。とはいえ、落ち着いていれば余裕で避けられる。職業補正がなくなっただけで、基礎ステータスは維持しているので雑魚チンピラ程度なら赤子の手をひねるようなものだ。


 ものの5分も立たないうちにあっさり叩きのめして、男たちは腫れあがった顔で逃げ帰っていった。


「さすがです、勇者様!!」


 巫女様は興奮してぴょんぴょん跳ねながら僕の手を握ってきた。跳ねるたびに体のある部分が上下に揺れるので無傷で勝利したのにノックアウト寸前だ。


 ふと見ると、店員さんの方も熱いまなざしを僕に向けている。この様子なら、個室サービスの内容にはかなり期待してもいいかもしれないな。こんど巫女様に黙って来てみようか。


「あの、ありがとうございました!」

「お礼は……こちらに言ってください。僕はこの人を助けただけですから」


 よく考えたら、僕たちはお忍びのデートだった。そのためにセーラー服まで調達したのだ。ここで勇者と巫女が騒ぎを起こしたなんてことがばれたらよくない。ちゃんとあらかじめ偽名を決めておくんだった。


「あ、失礼しました。ありがとうございました。えっと、勇者様と巫女様ですか?」

「そ……」

「いえ、違います」


 巫女様が肯定してしまいそうになったので、慌てて口を押さえて否定した。


「僕の名前は「ゆうじ」で、この子の名前は「みく」なんです」

「あ、ゆうじさまとみくさまですね」

「そうなんです」


 どうにかごまかせたらしい。


「(巫女様、そういうことでお願いします)」

「(分かりました)」


 巫女様には耳元でささやいて念を押しておいた。巫女様も理解してくれたようだ。


「じゃあ、みく様、そろそろ行きましょうか」

「どこへ行くんですか?」

「そうですね、次は芝居小屋でも見ませんか?」

「ここはこのまま放っておくんですか?」


 え、巫女様、まだこの件に関わるつもりですか? と聞き返す間もなく、巫女様は店員さんの方に向かって言った。


「詳しい話を聞かせてください。微力ながらお力になれるかもしれません」

「え、でも、そこまでしてもらうわけには」

「いえ。袖すりあうも他生の縁です。ぜひ、力にならせてください。そうだ、2階に個室があるんですよね。そちらでお話ししましょう」


 ということで、僕と店員さんは巫女様に押し切られる形で2階の個室に行って話をすることになった。あれ、確か前に諸国漫遊で世直しとか言ってたけど、これじゃまるで巫女様が主人公の流れじゃない? まるで、みこ様でもみく様でもなくて、みと様じゃないか!


「実は、あの人たちが来るのはこれが初めてではないんです」


 個室に入って腰を落ち着けると、店員さんはゆっくり事情を話し始めた。


「さる大商人様が貴族様と協力してこの辺りの土地を自分たちのものにしようとしていて、この店を売るように迫られているんです。それを拒否したら、毎日のように柄の悪い人たちが店に来て乱暴を働くようになって……」

「ひどい。そんなの許せません!!」


 どこかで聞いたことのあるような話だけれど、巫女様はいたくご立腹のようだ。とはいえ、確かに質の悪い奴らだし、僕も店員さんが可哀そうだと思う。こんなかわいい店員さんを困らせるなんて、確かに悪い奴らだ。


 でも、僕たち、本当はデートに来たはずなのに……。


「分かりました。私が行って止めるように言ってきます」

「ええっ?」

「はい?」


 今、何を言ったのですか、みと様?

私用にて、来週はおそらく更新できますが、再来週はお休みします。

その次の金曜日からは平常更新に戻ります。

よろしくお願いします。

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