8.エピローグ
三日目 午前1時30分
「あ―――疲っかれた――!!」
「ずっと寝てやがったくせに…」
「だからただ寝てたわけじゃないって!」
そう言って七森は自分の見てきたことは説明する。
結菜も同じものを見たと言う。
「先代は、女が神域に入るとこの世ではないものを見ると言っていた」
そう言ったのは一気に老けたように見える村長だった。
今、四条達は、一旦村長宅で集まっている。
「なので雨音の下の娘が神域に入ったと言っていたのも、神域の森の端に少し入った程度だったのだろう。そもそも女を神域に入れないのはそのためなのだから」
「良かった… 春菜が罰せられることは無いのですね」
結菜はホッと表情を緩ませる。
「まぁ、しばらく―― と言っても数十年の単位でその制度は続けた方がいいかもな。しのの念が残っていないとも限らないし」
そう言う四条に対し、照冶が反論する。
「いえ、しのはもう消えました。――でも祀りは続けます。この村が今まで続いてきたのは彼女たちのおかげかも知れないのですから」
「ああ、そうだな。それが良いだろう」
もうしのの「しるし」は現れない。
しかし今までの感謝は捧げなければならないだろう。
それを次代の村長が分かっている。
ならばもう、四条に口を出すことは無かった。
その日はそのまま就寝となり、翌日には四条達は早々に帰宅を申し出た。
「四条先生、今回は本当にありがとうございました。何とお礼を言えば分からない位です」
「いや、こちらも良い取材をさせてもらった。これを題材に一本書けそうだ。もちろん実際の地名なんかは使わないがな」
「出版されたらぜひ教えてください」
「ああ、こいつが送るだろう。これだけ世話になってしかも――」
と七森を見る。
彼女の手には、持ち切れない程の新鮮な野菜が段ボールに入れられていた。
「こんなにしてもらって申し訳ないのはこっちだ」
と四条はため息をつく。
「えーだって先生どうせ野菜とか自分で買って食べたりしないじゃないですか!」
「だからと言って限度があるだろう限度が!」
澄水がまたクスクスと笑いながら七森を見る。
「や、ちょっと澄水さん! 違うんですからね!違いますよ!!」
「やかましい、帰るぞ!」
「誤解しないでくださいね――――!!」
そう言いながら七森は車の後部座席に野菜を積み込む。
「ありがとうございました――ー!」
最後まで元気に挨拶をして、村を後にする二人。
照冶たちは車が見えなくなるまで手を振っていた。
「さぁこれで原稿に専念できますねっ!ネタはあるんだから今度は早いですよね」
嬉しそうに七森が話す。
それ程前回待たせたことが苦痛だったかと、四条はほんの少し反省する。
「まぁ、そうだな。確かに今度は早く上がりそうだ」
「タイトルとか、もう考えてます?」
「ああ、タイトルは――――『 禊の村 』」