第一章 第三十一葉 Q次の●の中に当て嵌まるものを選びなさい 友情●恋慕 選択肢 >,=,<
皆様御機嫌よう。過激に可憐に華麗な華、クラーネ・フォン・セレファイスですわ。
本日はメザマレック公爵子ことサイモン様に会いに来ております。
「こんにちはクラーネさん。」
「ええ、御機嫌ようサイモン様。」
「ところで何の用?
って言ってもどうせイース絡みなんだよね。」
「ーーーッ、違います。」
サイモン様の目が何故か恨めしいような失望したような目に一瞬見えましたが、気のせいだと思います。
「それじゃあ僕に用事があったの?」
「ええ。もっともコレはメザマレック家に、という部分も大きいのですが。」
「だったら僕じゃなくて父さんや姉さんにいうべきじゃないかな。
――――――――――――ごめんごめん、意地悪言って悪かったね。」
「いえ、正論ですわ。
お気になされなくてもサイモン様に非はありませんから。」
「うん、僕もそのつもりだから気にしてないよ。
所で用件は何かな。」
「ええ、カルコサズハリ―――――――――――――――」
「それは無理だよ。」
「未だ全てを言ってはいませんけれど?」
「そうだね。でも内容は解かるよ。
『カルコサズハリ家との和解』だよね。」
「ええ、そうですわ。国の為にも4大貴族がいがみ合っていては良くないのではなくて?」
「国の為…ね?
―――――――――――――白々しいなあ。
ランテゴス王国こそが4公爵家の対立による力の削ぎ合いと牽制を望んでいるのは解かってるんでしょ。」
「さあ、そうでしょうか?
国を治める者は国家の安寧を願うものではなくて?」
「自分が国を治めるもので居られることの安寧が前提において、ね。
エルトダウン事変でランテゴス王家は警戒度を更に高めたようだしね。」
「…自分の手は汚さずにビアス王国にランテゴスへの戦争を準備させたメザマレックが言えたことでは無いのではなくて?」
「でもそれで結局カルコサズハリの領地が増えたんだよね。
わざと弱小国家や地域に自分の国に戦争を仕掛けさせて自国民を救う名目で介入して併合したり権利を奪う。
そういう話を予め王国に通しておけばお咎めなんてないさ。
その話がカルコサズハリに伝わったかどうかまでは知らないけれどね。
それに未だに旧カルコサズハリ王国民からは僕たちは裏切り者扱いされて暗殺者が来ることもあるんだ。」
裏切り者。
それはどちらの意味ででしょうね?
どちらの意味でもとれるので判断に迷ってしまいますわ。
だって、どちらが勝ったとしてももう片方には伝わっていない盟約が生きてメザマレックは利益を得るのですから。
「でも返り討ちにしてきたのでしょう?」
「最近来た暗殺者は手ごわかったね。
しっかり四肢の骨を砕いたのに逃亡されちゃった。」
「それは凄いですわね。」
「そうだよ、危なかったんだから。
ちょうど巫女様がいなかったらもしかしたら殺されていたかもね。」
「…巫女様?」
「そうそう。紳樹の巫女様だよ。
偶々此処に来ていて僕の支援をしてくれたんだ。
おかげで追い払えた。巫女様に感謝だね。」
「そうですね。ところで脇道に話を逃がしておくのはこのくらいにしておきましょうか。」
「…厳しいね。結論はNOだよ。僕にはそれを一存できる権限がないし、
それができたとしてもカルコサズハリと仲良くするのは感情的にも現実的にも無理だ。
それに、4公が接近する理由って反乱以外に浮かばないんだけれど、実際どうなのかな。」
「私達は皆『正しき血筋』に従う公爵家ですわ。」
「…ふうん?
ところでその提案に乗った場合、僕に旨味はあるのかな。」
「欲しいものがおありで?」
「…そうだね。例えば、だけど。
もしここでクラーネさんっていったらどうする?」
ここで私がその提案に乗ればイースは皇帝になれるのでしょうか?
その時はサイモン様と私でイースを支えて―――――――――――
「…言っておくけど冗談だから。あんまり面白く無さそうな感じだしね。」
面白くない…?
それはどういうことなのでしょうか?
私では不満―――――――――――それはあり得ない事です。
サイモン様の美意識が腐り果てている―――――――――――――――まさか、エルトダウン家の美術観ではないでしょうし。
私が美しすぎて気後れする―――――――サイモン様はそういうキャラクターでもないですわよね?
「取り敢えず冗談は置いておいて、僕が手に入れる旨味は何か教えてくれるかな。
餌もない針には魚は掛からないよ?」
「…それこそ二重に契約すればよいのではないでしょうか。
それぞれに都合のいいことを内密に契約するのは御家芸ではなくて?」
「ふ~ん、…それは君の方からも公爵家の結束が誰かしらの不利益になっているのを認めた様な発言とも言えるんじゃないかな。」
「さあ? ですがそれが何かとまでは決まったことではありませんわ?」
「確かにそうだね。
でもそれでいいのかな? 僕には『正統なる血統』が何のことかは解からないけれど、
君がそれを口に出したという時点でそれ自体が大きなヒントになっている気がする。
具体的には……おおっと、それを口に出すのは危険だったね。」
「ええ。不用意な発言は大火傷の元ですわ。」
「僕から言えることは3つだけだよ。
1つ、僕には何の力もない。
2つ、カルコサズハリとは相容れない。
3つ、――――――――――――――――――――――――僕はイースの親友だってこと。」
つまり、
「それは…。」
「勘違いしないで欲しい事は、
メザマレックは今は父さんが、そしてこれからは姉さん達が動かしていくことになるってことかな。
若しくはキクランオーシャから来る義兄がね。
メザマレックはパイプ役だから、パイプとしての仕事が決まっている姉さん達の方が僕より力があるのさ。
それ相応の利益があるのならメザマレック家の非主流派としてなら動いても良い。
もし失敗したとしても僕の独断ということで終わるからね。
もしもの時の為に家を二つに分けてどちらかを残すという事自体は悪い案じゃないから通ると思う。
…そうだね、僕からつけれらる条件は、
そちら側として動かせるメザマレック家の戦力は僕を中心にした非主流派のみ。
そちら側が勝った場合には敵に回った姉さん達主流派に対する一切の不利益の免除。
この条件でなら僕は動けるよ。力不足かも知れないけどね。」
いえ、それで十分ですわ。
「イースの友人としての貴方に、そして私の友人としての貴方に感謝します。」
「友人…かあ。うん、それでいいや。
友人として動かして貰う事にするよ。そちらには公の立場として契約してもらうことになるけれど、
其処の所は勘弁して欲しいな。」
「ええ、此方から持ちかけた話ですから足元を見られても仕方ない案件ですわ。
どうも有り難う御座います。
ところで、話に夢中になってまだ手を付けていなかったのですが、このお菓子はキクランオーシャのもので?」
「そうだよ。ランテゴスのものとは若干方向性が違うけど僕は好きかな。」
「正直言うとキクランオーシャのお菓子は、
ネバネバしていたり味の薄くてボロボロ崩れる味は兎も角食べ易さは良くないものと思っていましたが、
これはドレスも汚れにくくて食べやすいお菓子ですね。」
「気に入ったのならお土産につけるよ。
ああ、そろそろ姉さん達の所に行く時間だった。
多分姉さん達は待つのが嫌いだから姉さん達の方から此処に来ると思う。
そうなるとこの話も表立ってはできないし、色々面倒なことになるよ。
姉さん達はクラーネさんの事を気に入っていて僕と結婚させようとか考えてるんだから。」
「あら、それは随分と気に入られているのですわね。」
「姉さん達も学者肌だから、家事や裁縫だけを学んできた御令嬢よりも学者仲間の方が良いらしいね。
姉さん達の趣味を僕に押し付ける必要性が解からないよ。
全く、勘弁して欲しいよね。」
「それは大変ですわね。では、その『面倒』が起こる前に帰らせて頂きますわね。
では、御機嫌よう。」
「うん、さようならクラーネさん。」
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クラーネが去った部屋で少年は顔に張り付けた笑顔を消して呟いた。
「冗談じゃ、無かったんだけどなあ。」
彼は親友に対する友情と同等、
いやそれ以上に大きくなった嫉妬を持て余していた。