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第一章 第三葉 主人公ではない主人公 SIDEワカバ

私はティトゥス侯爵家のワカバ。

ティトゥス家の養女として引き取られたの。


私について一言で言うとメインヒロインって奴ね。

色々なことをすっ飛ばしてぶっちゃけちゃうと、気が付いたら乙女ゲームの世界にやって来ちゃいましたっていう定番のアレ。


気が付いたら湖の畔で倒れていてザ・貴族っていう服装の、しかもそれがバッチリ似合うイケメンに介抱されました。

傷んだ灰色の様な髪の色、混じり合わない妄執と諦感をかき混ぜた様な瞳。

窶れつつも何処か精力的な肌――――――説明書のとおりね。

そして特徴的なのは彼の持つ不気味な…もとい個性的な時計。たしか銘はドマリニーだったかクタートだったか……まあいいわ。

そんなマイナス要素を幾つか含みながらもトータルで見れば間違いなくイケメンな目の前の青年には見覚えがあったのよね。


結構昔にふんわか狂気色の乙女ゲームとして売り出された『大いなる木陰の物語』のキャラクターで、

主人公に婚約者の面影を見出だして拾った養父ティトゥス侯爵。

そして攻略キャラの一人でもある。プレイしていく上では一番好きなキャラだったけど、実際に関わるとダントツで最下位なキャラ。

他のキャラなら狂気がラドン温泉の放射能位だけど、このクロー・フォン・ティトゥスだけは狂気が崩壊した原発付近の様に滲み出ている。

その他大勢の軽いキチっぷりが微笑ましくなるくらいだ。


…因みに一番頭おかしいのはのはこのゲームの方向性にOKを出した責任者であるのは間違いない。

同じ会社の別のゲームも両手首の長いリボンが素敵なパッケージの背景で慈悲深そうに微笑む少女が微睡む世界の怨敵だとは思わなかった。




このゲームの特徴は、魔法ありのファンタジーな世界観に、メインヒーローに王子様を据えてくる等の最低限の王道を踏まえつつも、

ストーリーやイベント絵よりもアイテム収拾やステータスや魔法能力の向上、魔物の調教・育成、果ては町の発展など、

これって乙ゲーっ?て思わせるほど『それ以外』に拘っている点に尽きるかな。

それと仄かに滲み出る狂気。

吠えたり哭いたりする宝箱(ストーリーによっては人も喰う)を連れまわすのがこの世界の貴族のステータスの一つだったり、微笑んできた相手が宝箱だったり、

半年に一度は月が嗤う日があったり、太陽が実際に天戸隠れする日が7年に一回あったり、というかそのシーンで太陽に顔があったり、

天気が良い日は太陽が文字通りニッコリしていることを皆で喜び合ったり、

向日葵がアレだったり、時計が逆回りしたり悲鳴を上げたり、タコやイカを食べるのがゲテモノ扱いだったり、

宝箱の出産で感動したり、相手の宝箱の自慢トークを延々と聞かされたり、

ずっとやっていると宝箱が犬か猫の様に見えてきたり、

梅雨時期には蛙でできた河が近くに発生したり、特に詳しい理由も無く窓を見ただけで即死するバッドエンドがあったり、

主人公が狂信者にバラバラにされても水と朝日を浴びたら大丈夫だったり、

死体を花木の根元に埋めるのではなく死体に花木の種を埋め込んで埋め、

咲いた死体そっくりのミニチュアとなったマンドラゴラをプリザーブドフラワーにしたり押し花にしたりとか、

奥さんそっくりのマンドラゴラを好きになったら死体愛好家の誹りを受けたりとか。

そういうちょっとキチってる要素が随所に存在するの。


というか、攻略キャラの見た目以外はほとんど奇をてらい過ぎて乙ゲーかどうかも疑わしいのよね。

隠しキャラに関しても他の攻略対象を全員攻略したら解放とかそういう乙ゲー定番の条件ではなく、

戦闘シーンでの最大連続コンボ数などの乙女ゲーム的にどうでも良いとこばかりに力を入れたゲームで、

一部の隠しキャラの解放条件なんて、

一定ダメージを与えるとその最後の攻撃を与えた後の硬直解放時に強制的に敗北画面に切り替わるストーリーモードに入らないように、

一定のダメージに踏み込んだらそのまま相手のHPを削りきるまで攻略キャラと連携して連続コンボを決めるか、

周回で強化引き継ぎからのステータスカンストで私TUEEEEEからの一撃、

若しくは窮極魔法引き継ぎでオーバードライブからのアルティママギア(超必殺技)発動での一撃必殺で仕留めるとかして、

倒せないはずの敵を倒してしまうとストーリーが変化して本来攻略できないキャラクターが攻略できるという、

ここまで聞いた時点で乙女ゲームらしさの欠片も無いような、乙女ゲームの革を被ったアクションRPG。

昔テイ○ズで仲間の好感度次第でエンディングが変わるのがあったわね、響きあう物語の話だったかしら?

大体あんな感じよ。…主にアクションと恋愛の比率が。勿論多いのはアクションの方ね。

恋愛的な選択肢はそこまで難しくないくせに、格ゲーそのものな戦闘パートが理不尽に難しいとネットで話題になったゲーム―――


それが『大いなる木陰の物語』、通称『おこげ』。

因みに私はこのゲームの一番厳しいヘルモードを引き継ぎ無しでクリアした事がある程の腕前だった。





因みに本来ストーリー上では絶対に勝てない戦闘相手の一人がナチュラルに平民を見下す俗に言う悪役令嬢なクラーネ公爵姫。

負けるとゲームオーバーだけれど、普通にやったら勝っても敗北扱いにされる色んな意味でムカつくご令嬢。


通常技に比べてゲージ消費コマンド技がやたら強いゲームシステムに愛されたような

薔薇の杖(笑)による威力は低いものの長いリーチにも関わらず始動まで早い上に魔力ゲージ回収に優れた通常技と、

暫く大地に残り続けたり、弾けて追加攻撃を行う炎の魔法とそれに伴う硬直増加、

そして最高難易度のヘルモードだとやたらコンボを繋げて一度攻撃を受けると25%はゲージを回収してくる上に、

此方の攻撃はジャストガード(直前のギリギリのタイミングでガードする事で瞬間的に完全無敵状態になるシステム)を決めて、

魔力ゲージが溜まっていると其処からのガードキャンセルから敵側のリアクティブアルティママギア(ガード時から繰り出される隠し超必殺技)を15秒間もある専用カットインの後にぶちこんでくる。

まともに直撃すれば相手(つまりヒロイン)は死ぬ。

言うなれば火属性版エターナルフォー○ブリザードよね。


ヘルモードプレイ時では何度も戦闘前のセーブ地点からやり直したものだったわ。

毎度毎度暗転の後のカットインに入っては、


「貴女の様な存在を生かしては置けないわ。認めてはならないわ。

…森羅万象の一角、神樹の燃焼を使命付けられし大いなる力よ。

原色に最も近き貴き赤が命ずる。世界を構成する有象無象を灰燼と化せ。

レーェェェヴァテイーーンッッッ!!!!!!!」

と事実上のゲームオーバーを突き付けてきたのよね。ええ、何度も何度も。


この台詞が流れた後には敗北確定なので、

「貴女の様な―――――――」が流れた時点でリセットして戦闘前からリロード。

このゲームはゲームオーバーのムービーが長い上に、リロードが早いから最後まで聞いてやるつもりはないわ。

全く、何度「貴女の様な――」と聞かされたことか。



だけど当たれば引き継ぎでも無ければ体力全快時からでも即死する威力だったけれど、途中で気が付いた。

レーヴァテイン(通称レヴァ)は単発だから、飛び道具を当てる瞬間にこちらもジャストガードを入れて、

無敵状態を作ってそこから敢えてリアクティブアルティママギアを引き出せば相手の魔力ゲージを削りきって、

魔力0になってシステム上の仕様とCPUの思考の為に魔力に転用させる代わりに体力が減り続ける上に、

ガード性能(特に魔法攻撃に対して)が下がる魔力枯渇状態にしてやれば後は少しばかり自信家な杖を振り回すだけのご令嬢だったのよね。

そうなったら連続で攻撃する魔法でガードブレイクにしてカウンターレベルMaxから仰け反り技→

足払いで相手を転倒させて地面に倒れ込む前に昇龍コマンドでの対空で共に宙に昇ったら、

こちらが幹から解放される前の先行入力で空中で下から木の根が前方に向かって突き刺して行く魔法をぶちかますと丁度相手が気絶して、

ヘルモードだと3秒の硬直が生まれるので、

ダッシュで接近して落ちてくる相手に投げ技を単発で当ててやればそれで終わり。

若しくは通称レヴァに対してこちらもリアクティブアルティママギアを返してやれば良かった。


ベリーイージーモードならそんなことをしなくてもCPUの思考レベルも相手の体力設定値も使用できる技のランクも低いので、

ギリギリまで弱らせてから定型コンボを当ててやるか、

敢えてダメージを受けて魔力上昇状態から遅延魔法に合わせるように打撃を加えてやればそれだけで良かった。


こう聴いていると、乙女ゲームだという自信が無くなってくるでしょう?

話している私もそんな気がしないわね。

大丈夫、『おこげ』のユーザーはみんなそうだったから。


だって、雑談掲示板ではコンボのレシピやコンボ数に対するダメージ修正計算式、

簡単に倒すためのハメ技ばっかりが討論されていていたし、

アーケードで格ゲーになって池袋とかで全国大会とかあった位よ。

寧ろ、あのゲームの掲示板最大の話題が、30HITあたりから逆に修正値が反転してダメージが増加する事だったわね。

普通ああいう所だとキャラへの愛なんかを語ったりするんじゃないかしら?


…乙ゲーだとは最早誰も思わないわ。

元々格闘ゲームとして出来上がっていたから格闘ゲーム版の制作発表から登場までは早かった事に誰も突っ込みを入れないのには笑ったわね。

第一原作でもスチル埋めなんてほとんどのユーザーがやってないし。そもそも原作自体がネタ扱いされてるし、

寧ろアーケードからの参入組には男性キャラが多いからエロゲー発じゃない硬派系だと思った人もいるんじゃないかしら。







……さて、ここが『おこげ』の世界だとして私が気になるのはどのエンディングになるか、ということ。

ゲームならともかく、自分がそこで実際に生活していく中で命がけの戦闘を楽しむわけ様な戦馬鹿じゃないから、私。


確かこのゲームでは神樹の巫女として選ばれた主人公はバッドエンドだと狂気に狂ったり、邪教の犠牲になったり、先代の巫女の様に生け贄に選ばれて死ぬ…はず。

そして幾つかのハッピーエンドでも攻略キャラの為に世界の為に神樹ウルトゥームを封印、

若しくは再生させる為に、死んだり世界から消えたり神樹と一体化したりする。


それらは選択肢や運によって色々な要素が有るらしいけれど、地区大会8位の格ゲーマーと化した私の記憶には戦闘要素以外はそう多くは残っていない。

唯一覚えているのが隠しキャラのイース・フォン・エルトダウンのルートに入ってしまえば元々が高難易度のキャラであり、

派生ルートが少ないだけあってバッドエンドも無く、主人公の死亡ルートが無いと言うことだけね。

戦闘回数も少ない上に、主要な敵にはハメ技が通じるキャラも多いし。

仲間になったイースの支援が神がかった強さだからまず負けないし、ヤバくなったらガッツリ回復してくれるし。

――つまり、イースのルートに入ってさえしまえば、

ブラック企業から寿退職した、旦那が大手正社員の専業主婦のようにイージーモードのエブリデイが待っているってわけ。







イース・フォン・エルトダウン。

そのネタ染みた壊れ性能から人気投票1位な彼のルートだと、

新たな神樹の種を発芽させて新たなる可能性を建てる事で世界を救うことになる。


でもこのイースってのが曲者で、婚約者でこそ無いもののクラーネとは互いに憎からず想い合う仲で、

しかも彼が研究者となった切っ掛けはクラーネの妹コーザの病気だという。

神樹とクラーネの妹に何か関連があったような気がしたけど忘れた。だってストーリーは基本オートモードですっ飛ばしてたから。


それと確か、妹のコーザは格ゲー版でバージョン2.2から参戦してたはず。

マニアックな操作性だったし、私が使うのは正統派な操作性のヒロインかクローの二択だったから、

コーザは挙動の少ない飛び道具で牽制しながら詰めて行けば対処できるツタの様な灼熱の灰遣いだったことしか覚えていない。

確か、彼女の戦闘シーンは本編では存在しなくて没案で悪墜ちしてラスボスになるとかそういう設定を引っ張ってきたキャラだった。

それくらいしか覚えてないわね。あと二次創作的に腹黒キャラだったことかな。よく薄い本ではイースをNTRしてたわね。

…うん、見事にストーリーが記憶から吹っ飛んでるわ。



まあ、コーザの話はそれくらいでいいや。問題はイースとクラーネね。

そして妹を病気で亡くしたクラーネは暴走を始めてそれをギリギリまで止めようとするも結局出来ず、

神樹の巫女である主人公が力ずくで止めたことでクラーネのプライドと人格が崩壊。

暴走したクラーネは神樹を焼き尽くしてしまおうとする。

それを見かねたイースに止めを刺されるというストーリーだった。


因みに王制廃止や神樹倒壊系ルートの場合条件を満たせば、只の水属性遣いではなく貴族制と魔法の守護者としての彼と戦うことも出来る。

野暮ったさを廃した普通にイケメンバージョンの、俗に言う覚醒イースもしくは真イースは格闘ゲーム版でも元のゲームでも反則キャラだった。

彼のアルティママギアである第八断片の単純威力こそクラーネのレーヴァテインより低いものの、

無駄に高いゲージ回収能力と、滅多矢鱈と繋がるコンボ。


2秒間の相手の時間停止に加えて、HIT数を0にする代わりにコンボ補正によるダメージ現象修正の反転を行う壊れ必殺技その1の時間逆行。

略して『自虐』。


重ね掛けが可能な通常でHIT数29、ゲージ消費のEX版でHIT数59の壊れ必殺技その2ナコトペンタゴン。見た目は只の点なのに五角形(ペンタゴン)

理由があったけれど難しいし、深く考えてはいけないようだ。

性能としてはHIT数が30以上からそれ以降のダメージが増加、

HIT数60で修正値100%を上回る仕様のせいでその技から拾って続けるコンボのダメージがヤバい。

これは『ナコペン』って呼んでたわね。


そして唯一単発で威力が高い技イーリディーム。時間が止まっている間だけ矢鱈激しく画面を跳ね回る球体で、普通は静止している為に設置として使う。

これも時間逆行がキチガイ性能な性でぶっ壊れている壊れ必殺技その3。

通称『イリ』。


ナコペン(弱)→自虐→イリEXと言えば掲示板では大体通じる。更にその一連の略で『ナジイ』、『NZI』と言う言葉も出来たほどだったから。

当たり所が悪ければ最初に少しでも削られていたら即死するダメージのこのコンボはやたらとベリーハードモード以上のCPUは使ってくる。

救いはナコトペンタゴンをジャストガードしていればそのままオートで全てジャストガード扱いで防げること。

でも、設置キャラに待ちの姿勢で挑むと画面中に設置されるから積む。


そういう理由で分身技や接地技等で画面のあらゆる所から永久コンボを繋げてくるヘルモードの高レベルCPUが使ったときの最強キャラクターがこの男だ。

格ゲー版の全国大会での使用率は半端なかった。


更にリアクティブアルティママギア発動時には前王朝の血統が覚醒して弱点の火属性と互いに影響の無い闇属性以外全てに有利な、

本来主人公だけの属性である樹属性に変化する『皇帝モード』になり、

その状態専用アルティママギア『イツワリノミドリ』を使うまでモードが解けない鬼強状態で戦うことになる。

因みに本編で主人公側には一緒に戦闘してくれる対樹属性な仲間の火属性のキャラはいない。

義父が特殊モードで可もなく不可もない闇属性になる位。

攻略ルートに入れるとかスチルが取れるとかではなく、『戦うことが出来る』というあたりこのゲームのジャンルが疑わしい?

…今更でしょ。

もうだれも恋愛シュミレーションがメインと思っていないし、ジャンル・アクションでいいと思う。



因みに神樹を崩壊させようとするキャラクターはクラーネ以外にもう一人いて、

それは隠しキャラの一人にして私の義父ティトゥス侯爵。


婚約者を王命によって生け贄に捧げられ、

この世界に存在しない『樹』属性を宿す主人公と神樹に喰われた婚約者の面影を重ねて養子にする。

事実婚約者と主人公には深い関連があるわけだけれども、

基本的に復讐に取り憑かれたクロー・フォン・ティトゥスは穏やかに、けれども断トツでイっちゃってる人だから、

神樹の恩恵を受けている他の攻略キャラ達を殺したり、彼を止めるために主人公が犠牲になったりと録な事にならない。

という訳で、絶対にそのルートだけは避けなければ。



と言う訳で、あまり家には残らないようにして積極的に外に出かけて、

イース・フォン・エルトダウンにアタックしまくってやろうじゃないの。

この世界での(ヒロイン)は一部の攻略キャラにしか需要の無い品乳(笑)を除けば緑のふわふわヘアーの超絶美少女だから、

落とせない筈は無いわ。

さあ、まっててね。私の旦那(いのちづな)サマ。

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