第一章 二十二葉 始まりは勘違い。結果は同じ。
敵対する者には灼熱の劫火に、庇護する者には暖炉の火に。
華めく4公の内、最も鮮やかに花に成るは火のセレファイス。
その花をして歴々の花の中でも最優。
それがこの私、クラーネ・フォン・セレファイスですの。
皆様、本日もごきげんいかが?
前回は神樹の巫女を上手く使ったピータース一派に、いえ、神樹の巫女にしてやられてしまいました。
神樹の巫女が上手く使われたのであろうと、神樹の巫女が上手く使わせたのであろうと、
結局は彼女なしであの結果は生めなかったでしょうね。
平民上がりとされる出身不明でありながら、神樹の巫女と言う決定的な肩書を持ち、
それを持って名門ティトゥス家の養女である事を正当化させている立場の彼女だからこそ、
貴族としてはあまり口にしにくく、しかし貴族としての発言権を持っていなければならない。
そんな内容でも彼女ならば自由に言ってしまえるのです。
それが、彼女の理解の中であれ、無自覚の中であれ彼女が行っている実際の行動と立ち位置です。
パーティー会場が襲われて最初に彼女が動いたとき、
彼女のほかに戦える人間は大勢いました。
彼女に友好的で無い者はその様子を見て、今代の巫女の能力を検証しようと、
彼女に友好的な者は助けに行こうとしたでしょう。
ですが、アレは巫女にとって最大のチャンスだった。
初めて公の社交界に参加して、しかも招待の事前の受け付けも行っていないと言う状態であった彼女は、
そのままの意味でも悪い意味でも印象が強く出ていたことに間違いはありませんわ。
社交界は「初心者ですから。」でどのように失敗しても許される場所ではございませんので。
彼女は今までの印象通り、平民から抜け出れていない印象を齎し、
その状態で巫女としての有能さを示してその存在としての正当性を主張する必要がありました。
そして今回の事件です。
もしもっと早く助けが入ればあそこまで彼女の活躍が鮮明にはならなかったでしょう。
助けに入ろうとしたものが助けに行かなくても良いと判断するに足りる初撃たる大杭の召喚。
それを持って支援者を制し、そして敢えて自身に対する危険を誘発させ、
それまでは巫女と異形を繋ぐ前後の線での単一な動きに目を向けさせた上での、
皆の予想外の上方向からの襲来によってその危険を排除しました。
そしてその後は他の貴族達が本当は戦える力を持っているという皮肉を醸し出す結果となった生き残りの見過ごし。
彼女は狙ってかどうかは判りませんが、
自分の危険を恐れたり、巫女が害されても良いと思われても仕方がない行動を取っている中で一人異形と戦ってその勝利を勝ち取り、
平民側の性質を持って、その行動がこれからも行っていかれるであろうことを、
その能力と此方側の負い目によって認めさせて、これからも平民側の視点で紡がれるであろうその発言権を得たのですわ。
そうやって巫女は本来相容れない視点とその権力を兼ね備える事が出来て、
他の者には真似出来ないその立ち位置は特化した貴重なものになったという事です。
何かに特化する事が出来れば、使うものにとっては非常に有効な一手となるでしょう。
そして陛下にその権力を認められるが故にその権力を振るえる貴族や平民官僚達でありながら王政に不平を唱える者、
貴族制の永遠に反を唱える者、
それは王に続き貴族達の守護者である4公には決して受け入れられぬものでありましょう。
まずは私の実家たるセレファイス派閥の再掌握。その後はエルトダウン家。
そして残りの2公。
この王都の守護者である炎剣、聖杯、黄金、指揮棒と評される4つの力を持ってすれば、
例え神樹の巫女の後ろにピータース家が付こうとも、その程度なら完膚なきまでに封殺できましょう。
例えあなたが動こうとしていても、動かされようとしていても問題はありません。
神樹の巫女、王国の秩序を崩そうと言うのなら、その悪を身を持って断じてさしあげますわ。