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第一章 第二葉 悪役令嬢と正義の味方達

みなさまごきげんよう。今日も麗しい王都の薔薇クラーネ・フォン・セレファイスです。

そんな私みたいな美女でないと似合わない胸元の開いた情熱的な紅いドレスを着て何処へ行くのか、ですか?

決まっているじゃないですかお仕事です。因みにこれは普段着ですから。


私の職場は私服通勤なもので。

もし仮に違ってもこの私に訂正できる者なんていませんから問題はありません。


それに、美しく着飾るのは美しき華としての義務でもありますからね。

では、今日もお仕事をの為に登庁致します。





王国魔法研究開発本部庁 火属性部所・焔の棟




ここが私の私的な空間…、もとい職場です。

此処は火属性やその派生となる魔法を使う研究者が所属する場所です。

此処には当然のように日夜問わず破壊や加工の為の火属性魔法の研究が行われており、

当たり前ですが回復に携わるものは居ません。


この研究開発本部のモットーは、『資質は一代で終わり、技術は永代に残る。』です。

自己の資質を高めるより遥かにその技術を完成させる事の方が社会に役立ちます。後の者にも使えるから…ですわね。

まあ、とびっきりの発明などが出た時は隠蔽してその成果を個人で持ち帰り己の家の秘伝にするのは良くある話ですが。


昨日私が腹を立てていた貴族の視点の低下という観点に置いては、

優秀な研究者である彼を労働者として扱う事に関しては私こそ視点の低下を推進していたと言えるかも知れません。


でも、それでも、

彼程の水属性遣いは居ない上に、

幾ら私が研究に没頭したところで、火属性でどうやって病気を治せって言うのでしょうか?

まったく彼はお馬鹿さんなのかしら?



そう考えていますと、





「エルトダウン公爵子のイース様って、よく見たら凄く綺麗な顔をされているのよ。

今度お父様に縁談の申し込みをお願いして見ようかしら。」


そんな同僚の話し声が聴こえました。




「…あの方は止めておいた方が宜しいのではなくて?

公爵家というのなら、他の方もいらっしゃるでしょう。」


「あっ、いえ…、すみませんクラーネ様の御気持ちも考えずに…。」



…何やら誤解をされているようね。

不本意ですわね。


「誤解ですわ。

別に私、イース様の事を好きだとかそういうのでは一切ありませんから。

…何かしらその目は。」


「えっ、いえ…。同じ公爵家同士お似合いだと思いますわ。」


この同僚達の生易しい目は一体どういう意図でしょうか?

聞くと其処から面倒なことになりそうなので止めておきましょう。


それにしてもどういう積もりなのでしょうか、他人に対して下衆な目線を送るという貴族の令嬢にあるまじき行為は。

貴女達も自分で発言されていましたから解っているとは思いますが、


「私、これでも公爵(・・)令嬢なのですけれど?

其処のところどう思われますか?

伯爵(・・)令嬢のお二方?」


身分を弁えずに友達感覚な目線を送ってくる同僚達に笑みを一切含めない微笑で睨み付けて釘を刺しておきます。


確かにイースとはまだ何も知らない幼少時にはそれこそ結婚式の真似事とか、彼女達の好みそうな事をしたこともありますが、

別に彼とは婚約者でも何でも無いわけで、

そして建前上で婚約者でないということは、実質的にもそういう仲では無いわけで、あってはいけないわけで、

寧ろ四大貴族の二家が結び付きを強める何て事は、

王国に要らぬ火種の心配を拡げる事にもなりますし、『そう』ならなくて正解であったとも思えないこともありません。


そんな私の考えを理解しているのかどうかは判りませんが、私の視線に、私の背後にある権力に怖じ気付いたのか、

友達感覚さん達は黙り込んでしまったようです。

ええ、身分の違いを理解されているなら良いのです。





とは言え、彼女達はまだマトモな部類です。


私は貴族は生まれもって『持ち得る者』であるからして、

余裕とその権力に溺れない、既に欲しいものは手に入れてあるというある意味の自惚れが在るべきだと思っています。


力を持つことに慣れていない者が急に力を手に入れると、

舞い上がってしまうのか、力の使い方が判らないのか、視点が低すぎるのか、

他の者達との地盤の差を埋めるために余計な事をせざるを得ないのか、

平民上がりの権力層は大抵大局の上では録な者になりません。


最初から持ち得る貴族とは違い、力無い平民が力を手にする為に努力してきた分、

何処かで恩恵を受けなければ不公平だと思っているなら最初から平民らしく平民のままでその視点に相応しいだけの生活で満足していれば良いのです。


生まれ持って上に立つ者は人の上に立った時にも浮き足立つことは無いですが、

その経験が無かったものほどその感覚を自発的に享受したがるのは誰だって想像がつくでしょう?






ですが最近、貴族でありながら平民よりの低い視点で領民と友達感覚で触れ合い、

より高貴な家の者にも気兼ねせずに接する者達が着実に増えて来ています。


しかも困ったことに彼等、彼女達の多くは今までに無い概念や手法を持ち込もうとすることが多く、

その大半は理想ばかりで実現能力を伴わず失敗しているようですが、その理想を軌道に乗せて成功する者も少なくはありません。

ですが、その少ない者達が危険なのです。


貴族は民衆を上手く使う指揮者で在るべきであり、指導者であり、

決してその他の民衆より優秀な程度の労働者程度であってはならないのです。

稀少な指導能力を持つ者として育つ為に民達から税金を徴収し、優雅な暮らしと高い教養を身に付けているのですから。


その点に付いては、彼等の様な似非貴族では逆立ちしても敵わない、

正統派貴族側でありながら次々と新しい魔法や概念を捻出しているイースの存在は小気味良いですわね。

あれで人間嫌いでなくて、回復魔法に取り込んでいれば完璧なのでしょうが、

私が水属性を使えない事と同様に神様は完璧を造りたがらないのでしょう。


何はともあれ、この国は今確実に似非貴族達の為に権威と規律と威信が貶められていっています。


民衆に贅沢や権利を一度与えてしまえば、それを制限して縛ら無くては国家が危ういときにさえ、

その権利を手放しはしないでしょう。

「今まで貴族は散々この暮らしをしてきたじゃないか」と。

もしやすれば世界の危機の中ですらその権利を手放さないことでしょうね。


私達貴族がそれを手放せと言われたら間違いなく反発するのは自分達でも判りますから、平民なら尚更です。


今まで貴族だけが先行して享受してきた裕福さを皆の為だからと手放せというのなら、

先に恩恵を受けていた貴族だけが手放せば良いと言った挙げ句に、

その様にしても、貴族に追い付けたアドバンテージを失えば再び元に戻ると思えば決して手放さないでしょう。


マナを消費し過ぎて神樹が枯れかけていると各国で協議が行われたときに、

先んじて発展した国家と未だ途上の国家とで似たようなやり取りがありましたから間違いなく今回もこのまま行けばそうなります。



この世界の魔法の始まりを伝える神話として次のようなものがあります。



『父なる日の光と母なる夜の闇に抱かれ、風と熱を受けて、土と水を食み大樹は育った。

その大樹は新たなる神となり、その実りが生まれた。』とされています。

実りとは即ち神樹からもたらされる魔力というのが定説です。


現在王都の中央にある城の中庭から聳え立ち王都を見下ろす神樹にも翳りが見え初め、

今まで見たこともない枯れ葉となった神樹の葉が時折舞い散り不吉さを示しています。



先程挙げた似非貴族達が本来貴族の特権であった魔法を必要以上に魔法を使って民衆の怪我を治したり、

産業を構築したり、生活基盤を整える為に乱発している事も決して無関係では無いはずです。


本来それらの事業は人を使って雇用を与えながら、技術を鍛えつつ練り上げて行くものです。

決して彼等がヒーローに為るためにの事業では無いのです。


そんな危険な反乱分子たる貴族を野放しにしておく陛下も陛下です。

…いえ、その考え方こそが不敬そのものでしたわ。いけませんわね。


それでも彼等を赦しておけば、いえ、生かしておけばきっと神樹は倒れてしまうでしょう。


まず、『青炎』ナギサ・ツー・フェラン。

火属性遣いの恥晒しです。いえ、でした(・・・)と言うのが正しいのでしょうね。


彼は少しばかり金を持っていた契約平民(平民でありながら一代限りで魔法を使える本来在り得てはならない存在)である、

『黒土』のソーマ・ゼイロスと組んで、

『コージョー』という施設を作って大量の高純度の鉄製品を制作・販売していました。

――あくまで過去形ですが。


彼に対する処罰としてセレファイス家の権力を持って家ごと潰させて頂きました。

当然の処置でしょう。

平民に安く鉄製の武器を売り渡しては反乱の芽を生むようなものですから。

…大人しく軍にだけ降ろす程度にしておけば良いと忠告はしてあげたのですから自業自得です。



軍と言えば、下級騎士のビアス家の末っ子も煩かったですわね。

少し魔力が高いからと言って、名家を名家と思わない口の利きようといい、

仮にも貴族の女性としては少々品の無い喋り方と言い、少しばかり図に乗っているのではないかしら。

強ければよいと言う現在の軍上層部の意向のおかげで可愛がられているようですが、

彼女は王国の看板(ヒーロー)では飽き足らず、やたらと民衆の為だの何だのと吠えたがります。

彼女の自称する『ニホン』という夢か妄想の世界ではそれが正解なのかもしれませんが、

ここは妄想でも夢でもごっこ遊びの設定でも無く現実であり、

彼女がひっくり返っても目上の存在には逆らってはいけないと言うルールがあるのですが…。

相手が公爵家のこの私でもそれを変えないというのは、私の家柄をご存じないからでしょうか?

誰か一度彼女に貴族名鑑を熟読させた方が宜しいのでは?




そしてプリン伯爵家の三男『血』のタロー・フォン・プリン。

彼には到底及びませんが潤沢な魔力と回復魔法を民衆達の為に使い、

彼の住むプリン伯爵家の別荘の前には日夜傷病者が並んでいます。


全く、考えられません。

貴族の部屋の前にまで平民達が押し寄せることを許すだなんて。

恥を知りなさい、恥を。

気軽に貴族が平民と触れ合う事は威信を貶めますし、

何よりあんな理性も教養も無い不潔な平民を貴族の家に入れるなんて危険でしょう。

導くものが倒れたらどうするつもりなのでしょう。

一人の指導者は率いられる百の民よりも尊いと言うのに。




そして同じく水属性の『潮』のクロー・フォン・ティトゥス侯爵。

今までの彼等と同じレベルの変人ではあります。

侯爵は決して民衆派という訳では無いようですが、

「神樹があるから争いが起きる。

いっそ神樹を倒してしまえば良い。

魔法が無くても人は人でいられる。」と公の場で発言したそうです。

なんて危険すぎる発想でしょう。よく処刑されなかったものです。


魔法とは活用するだけのものでなく平民との間を隔てる権威なのですから。

とは言え、神樹延命の生け贄として婚約者を神樹に捧げることになった侯爵に何かを言える人はそういないでしょうが。


最後にその娘としてどこぞから拾われてきた…、

失礼、引き取られてきた養女ワカバ。


彼女もまた『ニホン』が何だとかのたまっていて、

国は民の為にあるべきもので、国王や貴族は民の為に尽くすべきだと言っているようです。


何の肩書も持たない小娘なら直ぐに気狂いとして処分されていたでしょうが、

彼女は自分が持っている肩書を最大限に利用していますので、そうはなりません。


『神樹の巫女』だと自称していて王国中に持て囃されて、

教養も胸も無い娘にも拘らず、何故か多くの高級貴族達が誑かされているという話をよく聞きます。

王国中の貴公子を手玉に取ろうとして、多くの女性達の反感を買っているのだとか。

聞くところではイースにもしつこく迫っているのだそうです。






――――――ええ、あまり図に乗りすぎない事ですわ。阿婆擦れ猫。

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