第一章 第十葉 遅らせ気味の主役登場
王国の至宝、金細工の紅薔薇ことクラーネ・フォン・セレファイスです。
今晩も良い月ですわね。
さて、美しい女性と見れば直ぐに手を伸ばそうとする風の公爵子ダゴニット様。
爽やかにいつもにこにこと微笑みを崩さない小悪魔な地の公爵子サイモン様。
イースのおかげで何時だってNO2の研究者である王宮直轄の研究者の伯爵家のアラン・フォン・モーアランド様。
殿下の教育係である大臣の息子であり殿下の親友であるブライドウェル伯爵家のアレクシス様。
殿下の騎士になると言っては「アレクシスが居るから大丈夫。」と断られたことを理解できていなさそうな、
将軍の一人ピータース侯爵家の、身体が弱い長男に変わって次期党首を継ぐであろう次男であられるリチャード様。
そして王子であると言う以外の話があまり流失しないことが逆に不思議な殿下。
見た目が良い未婚者という事でご令嬢方に人気のある有名所の6人。
そこへ今夜、イースが加わったようです。
あら、普段と比べて辛辣ですか?
そんなことありませんわ。だって私の親友であるイースが折角女性にモテるようになったのですから、
私としてはこれを機に女心を学んでいただければと応援させて頂いているのです。
「随分と面白くなさそうだね、クラーネさん。」
気が付けば私の目の前と言って良い所にいた地の公爵家のサイモン様が目の前におられました。
気付いていなかったようで、失礼なことをしてしまったようです。
「あら…、引き籠りを態々連れて来て下さったイースの唯一の親友のサイモン様。
この度はご機嫌いかが?
因みに私は何時だって心身ともに晴れ晴れとしていますわ。」
「うーん、そこまで言われると寧ろ天晴れと言うか。
というかさ、そもそも彼を此処に連れて来いと言ったのは君じゃなかったっけ。」
「ええ、それについては感謝しています。
引き籠りの友人を連れ出す役目は私には荷が重たかったもので。」
「…寧ろ此方の問題の方が僕には荷が重たいね。」
此方の問題? 何の事でしょうか?
「…ああ気にしなくていいよ。今夜に限って花を見る趣味が無い人が花を見ようとしたり、
矢鱈面倒臭い理不尽に耐えれば褒められるなんて信賞必罰は無いという真理を知ったり、
今日は散々だ。帰りに大雨でも降って皆濡れて帰ればいいのに。」
「…一体どうされたのですの?
様子がおかしいですよ、サイモン様。」
「……もう、それでいいや。
ああそうだ、クラーネさんにはもっと不愉快なことがこれから起こると思うよ。
それじゃあね。」
「私は不機嫌なつもりなんてありませ―――――――――――――――――――――――
いえ、たった今不機嫌になった気がします。」
その理由は随分と遅れてやって来た新たな入場者が主な原因です。
「ほらね?
ティトゥス家のご令嬢、今話題の『神樹の巫女』様がご入場の様だよ。」