6章 アルカナ党にて
彼女はバイクを運転しながら、高速道路を降りた。
下の道に出ては、いるかもしれない追手に追い付かれる可能性がある為に信号を全て無視してアクセルを踏んだ。多くの車の合間を入っていきながら、彼女は奥に見えるビルを望んだ。
「見えてきたね……」
凡そ12階建ての、大きなビル。窓から見える蛍光灯の多さは、規模そのものを現していた。
一大野党として、与党であるゼラディウス党を批判し続ける政党―――アルカナ党である。
彼女は口元に笑みを浮かべながら、更にアクセルを踏み込んだ。
◆◆◆
彼女はアルカナ党本部の地下駐車場にバイクを停め、中へと入っていった。
大きなフロント。入り口には来客用の腰掛けソファが沢山あり、広々としていた。
多くのスーツ服の人々が行き来し、独裁を繰り広げているゼラディウス党と対を為す存在だとはとても思いにくい程、平穏であった。
やはりプロメテイア・エレクトロニクス社と言う後ろ盾の存在が大きいのだろう。それも其の筈、エレクトロニクス社は軍事都市ゼラディウスの経済流通の約半分を担っているからである。
ここまで大きく、影響もあれば流石に国も手を出すことは出来ないのだ。
すると、彼女の登場に多くの人が驚き、そして迎え入れた。
匿うように中へと案内され、汗を纏った彼女は隠されるように来賓室へと連れられたのである。
和室のような佇まいの中、星座して座った彼女の前には、机を挟んで2つの顔が浮かんだのであった。
「……来たんですね、サニーミルクさん。よく逃げられましたね」
「大変だったよ。急に捕まって、今や指名手配犯かな」
彼女は自分の身に唐突に降りかかった不幸を呪った。
溜息も出ないような思いで、疲れ果てていたのである。3人はその様子を汲み取っていた。
「……安心して下さい、私たちはサニーミルクさんの味方です。
―――しかし、どうして逮捕されたんですか?何か、心当たりでもありますか?」
そう彼女に問うたのはリリカ・プリズムリバーであった。彼女は天真爛漫な顔で、そう言った。
サニーミルクは首を横に降っては、悉く拒絶した。
彼女に逮捕される理由なんて思い出の限りでも思い浮かばないからであった。
「あるわけないよ。私はインジケーター開発を行ってたの」
「あっ、そうだ。新しく3Dモデルexeファイル作ってみたんですよー」
そう発言したのはメルラン・プリズムリバーであった。
彼女は元々エレクトロニクス社に勤めていたが、退職してアルカナ党に入った存在である。
と言うのも紐付きで、何時でも戻ってこられるのだが。
彼女は3Dモデル作成の研究をしており、インジケーター専攻科でもある。
「……私にexeファイルをくれるの?」
「まあ、作りましたから。試しに入れていって下さいよ」
◆◆◆
研究室に連れていかれた彼女は幾つもあるテレビ画面を前にした。
プログラムが開発されている党内部で、メルランは得意そうに回転椅子に腰かけた。
幾つかの画面の中には、彼女が開発したと思われる3Dモデルが存在していた。
サニーミルクの右肩から顔を出すリリカに、彼女はくすぐったいような様相を呈していた。
「……まあ、早くUSBポート見せてくださいよ。サニーミルクさん」
彼女は渋々そうに頷くと、右腕の袖をまくった。
腕にはUSB端子が差し込める箇所が2か所存在していた。そう、彼女はインジケーターである。
自分自身を改造した為に戦えるが、何せ自分と言うエクスプローラーにファイルが無い。
「自分自身をインジケーターにしといて、ファイルの開発中に逮捕って悲しいですね…。
大丈夫です、サニーミルクさんの開発は私が責任を持って行いましたから」
メルランは自身のパソコンで作り上げていた3Dモデルを事前にUSB端子に入れていた。
メルランはサニーミルクのUSBポートに入れ込むと、彼女の中で電流が迸った。
覚醒したかのような感覚に襲われ、中に食べ物が入っていくかのような不思議な気持ちに囚われていた。
数秒後、落ち着きが戻ると同時に改めてファイルが組み込まれた事を実感したのであった。
「これでファイルが入りましたね!ゲームで言う『召喚』的な事が出来るようになりましたよ!
私が作ったのは……『ワイバーン』『リヴァイアサン』『リヴァアーク』ですよ。
まあ、容姿が覚束ないのであれば一度ファイル展開して実際に召喚してみるってのも一つの手、ですよね」
サニーミルクは改めて、自身の力の強さを理解したとともに友人の存在を喜んだ。
何故、自分が逮捕に至ったのか。傲慢さ故の国の行動なら、彼女は最後まで抗うことを決め込んだ。