4章 其れが全てを変えるならば
彼女を先頭とした、巨大な軍隊は刑務所の中を行進した。
大きな足音は地震の如く、駆けつけた巡視官たちでは手が回らないほどの規模であった。
其れを扇動していたサニーミルクは変形剣を片手に、憚る障害物を斬っては進んでいった。
「―――ひ、光だ……」
やがて光が見えてきた。其れは明るい自然光……太陽の光であった。
久方ぶりにも思えたが、彼女は睨んだ表情を変えずに剣を構えていた。
案の定、警備犬が襲い掛かってきた。牙を剥いては抗いの色を見せる彼女に噛みつきかかったが、ゼラディウス・ウィングで一閃すると嘆きの声を上げては静かに地面で伏せた。
神父に言われた通り、巡視官用のバイクが刑務所外に設置してあった。すぐさま乗りこんでは、アクセルを踏み切った。エンジンがかかり、彼女を乗せてバイクは疾走を始めた。
後から集団がやって来ては大勢が一斉にバイクに乗ろうとしたが、駆け付けた警察官によって鎮圧されてしまった。射殺も空しく、彼らは再び刑務所送りとなってしまったのである。
◆◆◆
大きなエンジン音は、辺りに響き渡るものであった。
彼女はスピードを上げながら、道路を疾走していった。車が行き交う大通りに、車線を無視して進んでいく暴走バイクを操っては、一刻も早くアルカナ党へ向かわなければならないという意思を胸に駆けていた。
彼女のバイクは案の定、警察に特定されてはヘリコプターで光を当てられた。
スポットライトのような光に、彼女は鬱陶しさを感じながらも、用意周到な警察の追跡にうんざりせざるを得なかったのである。
「警察だ!サニーミルク…大人しく降伏し、バイクから降りろ!繰り返す!サニーミルク……」
何度も繰り返される、彼女への降伏命令。
しかし、従うメリットが何処にも存在しなかったのである。従ったところで、所詮は処刑だ。
ならば、最後までやり遂げられることはやり遂げたいという彼女なりの信念があったからだ。
「……大人しく降参してなんかいられないよ」
彼女は反射的にアクセルを再度踏み切った。
バイクは馬のようにエンジンを高鳴りさせては、スピードを更に上げた。
車と車の間を巧みな運転技術で躱していく。一応、彼女はゴールド免許である。
すると鼓膜がサイレンの音を捉えた。…警察のパトカーのサイレンであった。
彼女を追いかけるべく、滅茶苦茶な動きをして進んでゆくパトカーの運転は荒いものであった。
バイクのバックミラーでその様相を確認しては、嘲笑ったサニーミルクは挑発に入りくねった運転をして見せた。
大通り、無論車通りは多い。その中、彼女はパトカーを馬鹿にするかのように進んでいったのである。
バイクだからこそ、彼女の筆跡のようなスラスラした運転が出来るのであって、乗用車と対して変わらないパトカーで追いかけるのも無理な話であった。
やがて彼女の視界に映ったのは赤色の丸い光―――信号の赤色であった。
大通りと大通りが交差した場所であり、横に行く車も非常に多い箇所であった。しかし、彼女に待機と言う余裕な時間は無い。そのままアクセルを踏み切っては、自身の運転技術を祈った。
僅かな隙間を見出しては、瞬発力でハンドルを操った。彼女は体を幾度も反らしながら、垂直に走る車を避けていった。
唐突に現れた車は案の定、そのまま疾走していった。
しかし、追いかけていたパトカーは遮る車の波を突っ切る事は出来ず、敢無く信号待ちとなった。
◆◆◆
ヘリコプターは相変わらず彼女のバイクを照らし続けていた。
厄介な追手に、彼女は溜め息混じりの吐息を吐きながらもハンドルを握っていた。
分岐点として現れた高速道路入口―――此処からアルカナ党本部への近道が出来たはずだ。
彼女は考える暇もなくハンドルを横に傾けては、そのまま高速道路の料金所へと入っていった。
バイクには事前にETCカードが装着されていたのか、ETCゲートではすぐに開いた。
スピードを落とすことも無く、彼女はそのまま高速道路へと突入していったのである。
ここで追手として新たに加わったのが、高速道路警備隊―――NEXCOゼラディウスの治安部隊であった。
白バイに乗っては、猛スピードで駆け抜けるサニーミルクを追跡し始める3台のバイク。彼女は厄介視しながらも、右手でゼラディウス・ウィングを構えた。
「エマージェンシー、エマージェンシー。
こちらNEXCOゼラディウス、只今高速道路をサニーミルク受刑者と思わしき人物がバイクに乗って逃走、救援を要請します」
3台の治安部隊のバイクは彼女を取り押さえるべく、猛スピードを出しては彼女に追い付いた。
しかし彼女は取り押さえようとした治安部隊に向かって変形剣の一撃を浴びせ、そのまま事故に追いやったのである。他の2台の運転手も同様に斬りつけては、爆発を起こしていった。
無様な光景であった。彼女は守ってきた貞操概念を捨てた、捕まったらどうせ死刑の脱走劇で、殺人罪を犯しても強盗を犯しても、どうせ死ぬのだから―――最後まで徹底的に見返りをしてやりたいのであった。
NEXCOゼラディウスも、ドレミー内閣からは少なからず金は貰っている。だから、彼女の敵同然であった。
「いたぞ!―――大人しくしろ!」
新たな後続がやって来た、と思った時、バイクのバックミラーで確認すると見覚えのある人物であった。
記憶の彼方に消えていたような人に、ふと思い出してみると…彼女は理解した。
―――ドレミー内閣の警察庁長官にして総務大臣…上白沢慧音。
クッ、と苦い表情を浮かべたサニーミルクはゼラディウス・ウィングを構えては前を見据えていた。
「……刑務所の全牢を開放し、滅茶苦茶にしたのはお前だな!サニーミルク!」
「不当逮捕で天狗になっているお前らに言われても、何の説得力が無いよ」
「黙れ!ゼラディウスを滅茶苦茶にしようとする罪―――許す訳にはいかないッ!」




