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3章 脱獄ミッション

彼女は意識を失くした朱鷺子を後ろに、電流が迸る多くの画面を前にした。

画面の下には多種多様なボタンやレバーが置かれており、それぞれの上には役割を示す内容が掛かれたテープが無造作に貼り付けられていた。

やはり、全牢解放のボタンにはキャップがあって、誤って押せないようになっていた。テープに書かれた「全牢開放」の上に重ねて赤のマーカーで刻まれた「厳禁」の文字。

彼女は口元にこれから歩むであろう苦難の道のりを超えるという決心を浮かべては、人差し指の腹で静かにボタンを押したのであった。


―――サイレンが鳴り響く。其れは全牢開放の合図であった。

全ての鉄格子が開け放たれ、中にいた囚人は咄嗟の出来事に喜びながら逃げ始めたのである。

その様相を想像しなくとも、外の騒音で証明されていたのは明白である。

彼女はゼラディウス・ウィングを片手に、その混乱に乗じたのである。

…国家に対抗するために―――そう、「国家転覆罪」を犯すのである。


「アリーヴェ・デルチ……さよなら」


◆◆◆


「只今、全牢が開放されました!管理室が何者かにやられたものだと思われます!

実際、管理者の朱鷺子さんへの連絡が通じません!」


巡視官会議にて、突然響き渡ったサイレン。

其れは彼らの顔色を変えるものであった。沢山の囚人を抱える此処、ゼラディウス刑務所に於いて全牢開放はまさしく彼らの職務に携わるものである。

円形のテーブルを囲むように座っていた彼らは唐突の出来事に戸惑い、慌てふためいていた。


「……ちょ、長官!我々は…」


とある1人の巡視官の若者が、一番奥で静かに座ったままであった長官に話しかけた。

長官は其の若者の言葉を聞くなり立ち上がると、机を両手で勢いよく叩いた。

混乱していた巡視官たちはその音に気づいては大人しくなり、一度冷静さを取り戻したのだ。


「―――此処は混乱を食い止める。このままではサニーミルクも逃げだすに決まっている。

―――行け!刑務所の安寧と秩序を取り戻せ!」


◆◆◆


彼女は駆け抜けた。冷たい空気が頬に触れる。

ゼラディウス刑務所にはギャングや麻薬犯、殺人犯は勿論のこと、彼女のように国家転覆容疑罪を掛けられて捕まった無辜の人々も存在している。

流石に殺人などは赦せないものの、自分と同じ位置的な無辜の人々には同情を寄せた。

―――だからこそ、の大反乱であった。


冷たい空気が蒸れた空気に変わった時には、人の壁が通路に出来ていた。

大声を上げ、大合唱をしながら行進するが如く、囚人たちは刑務所の外へと向かったのである。

其れは神のご導きか?彼らは威勢よく、全ての障害物を突っ撥ねる勢いで進んでいったのだ。

彼女は口元に笑みを浮かべながら、その混乱に乗じた。


案の定、邪魔は存在するものであった。

巡視官たちは囚人たちの混乱を沈めるべく、銃火器を用いて乱射を行った。

非人道的な鎮圧方法は目を疑うものであったが、気にしていては脱獄できない。

血しぶきの中、変形剣を片手に彼女は疾走した。

自分に銃火器の銃口を向けて来る巡視官たちに、銃へと変形したゼラディウス・ウィングを向けては引き金を引いた。結末、彼らは項垂うなだれるようにして倒れていった。


「……貴様!な、何をしてるのか…分かってるのか!?」


とある巡視官は、倒れる仲間を背景に怯えながらサニーミルクに問うた。

彼女はそんな問いを歯牙にもかけず、ゼラディウス・ウィングの銃口を向けた。

斬新な剣のスタイルは巡視官も見た事が無かったのか、戸惑いの色を声から出していた。


「……平和慈善活動」


皮肉にも、破壊を前に彼女は引き金を引いた。

小さな断末魔の叫びは彼女の耳元には届かず、皮肉さだけが辺りに残っていた。

「平和慈善活動」……其れは彼女なりの、国を平和にするための方法だったのかもしれない。


「―――これでも、大学時代は陸上部だったんだから。甘く見ないでよ」


◆◆◆


集団の何人かは巡視官たちの銃弾の犠牲になったが、数では比に為らないほどであった。

威勢よく進む集団は何かのセールに並ぶ行列の大行進か?それとも圧政に苦しむ末に行われたヴェルサイユ行進か?

腕や背中に入れ墨をした囚人たちや、綺麗な肌を持つ囚人など、其れは多種多様であった。

その囚人たちが国家へと反逆すべく、今立ち上がったのだ。サニーミルクも、その1人であった。

尤も、其れを利用しないとすぐ手錠へと逆戻りだが。


「いたぞ!殺せ!情けなんて無用だ!」


巡視官たちの心には、職務の全うが最も優先されたことなのだろう。

銃火器の引き金を容易く引く様子は悍ましささえ感じられたサニーミルクは、やはりゼラディウスとしての国家が乱れていることを身に染みて感じたのであった。

礎の名も、やはり廃れているのだろうか。腐った社会の打開―――まさしく、彼女の持つ剣「ゼラディウス・ウィング」は平和への希望なのかもしれない。


「俺たちはお前らに不当な逮捕を受けた!」


「署も通さずに直接刑務所なんて間違ってるだろ!」


囚人たちも、怒りの声を上げた。

4000年前、東風谷早苗を党首としたゼラディウス党の時代は三権分立が成立しており、逮捕は逮捕状が無いと出来ないものであった。しかし、今や逮捕は気まぐれ―――国の気分に反した者達が格好の餌食となっていたのだ。

国は―――ゼラディウスは、一体何処から足を踏み間違えたのか。社会福祉が整った国家は今、独裁政権によってその秩序モラルは崩れつつある。


「……果たして、どっちが間違ってるのか―――これは分からないと思うよ」


集団の中から姿を見せた、最近話題の逮捕者。

変形剣を片手に、様々な囚人を背景にして佇んでいる。巡視官たちは苦い表情を浮かべた。


「…お前が………お前がやったのか。全牢屋開放を」


「監視カメラで確認した方が早いよ?…巡視官さん」


変形の音を立てて、銃化していたゼラディウス・ウィングを剣状態に戻す彼女。

騒動と比べて静かに佇んでいる蛍光灯の光を刀身に輝かせては、静かに構える。

彼女は囚人特有の黒白の縞の服さえ着ておらず、皺だらけの黒のスーツ服に埃を沢山塗れさせては、目の前に立つ巡視官たちに向かって―――斬りかかった。


腹部を斬り込まれ、狼狽える巡視官たち。

死傷のほどでは無いが、戦える体力を根こそぎ奪われた彼らはうずくまっていた。

彼女は走った。其れを追いかけるかのように、囚人と言う軍隊は行進を始めたのである。


◆◆◆


「只今、ゼラディウス刑務所に於いて制御室が何者かに襲われ、全ての牢屋が開放されたとのニュースが内閣通信部から届けられました。

此れを受け、ドレミー・スイート大統領は『一刻も早い鎮圧を望んでいる』と発言した上で、多くの警察官を救援に駆けつけさせる模様です。

ゼラディウス刑務所付近にお住いの皆様方は、充分に注意してください。尚、半径2km以内にお住いの方は避難指示命令が出されています。すぐに避難を開始してください。繰り返します―――」


テレビで緊急報道を話すアナウンサーを前に、彼女は眼を疑った。

其れも其の筈、この会社で最前線に立っていた研究者が逮捕された矢先の出来事であったからだ。

巨大会社、プロメテイア・エレクトロニクス社に於いて最重要な存在の、不当ながらも復帰の可能性が見えてきたのだ。

会社として、彼女を応援していくつもりであった―――そう決めたのは、取締役のユウゲンマガンであった。


「―――今日は破天荒な日だ。刑務所で何が起きたんだか」


「さあ?私には……さっぱり」


分からなそうな表情を浮かべたのは、同会社に勤めるレイラ・プリズムリバーであった。

彼女はテレビで垂れ流しにされる刑務所報道を呆れたような視線で見つめていた。

社長室に飾られた絵や花が、空しそうに存在している。回転椅子を180度回転させ、眼下に広がるゼラディウスの街並みを見つめるユウゲンマガンに、彼女は首を横に振って見せた。


「……でも、サニーミルクさんに変な危害が及ばなければいいですね」


「……其れが尤もだが、この混乱に乗じて、傷ついても戻ってきてもらった方が…箱の中の白い粉として戻ってきて貰うよりはマシだ。

―――私たちは反逆するまでだ。今のドレミ―政権はおかしい」


ユウゲンマガンは光輝く太陽の暖かさを前面に受けながら、そう答えた。

彼女はやはりおかしいと思っていた―――と言うのも、今の国は変であるからだ。

だからこそ、彼女は自分の会社をアルカナ党の後ろ盾とした。其れは国をより良いものにしたい、その一心で行ったものであった。

有り余った資金は勿論、会社の開発などにも用いるが―――平和を取り戻したい、束縛された世界を救ってあげたい気持ちがその金を使わせていた。


「……私たちは、彼女の応援をする。国になんか負けてはならない」


「…はい、そうですね」

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