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44章 ゼラディウス工廠第伍號コンバータにて

機械龍がゼラディウス工廠に着いた時、工廠内は喧噪どころか静寂に覆われていた。

鈍い鉄骨の作りが紅霧の中で垣間見せる。其処には、ルナチャイルドやプリズムリバー3人組もいたのであった。久々な再会に心を躍らせたサニーは重苦しい世界の中で話を聞いた。


「スターがこの先にいるって聞いて、私たちもやってきたら丁度3人と会えるなんて。

こっちは兵器の暴走を何とか食い止めたけど、やはり犠牲者は防げなかった」


彼女は悲しそうにそう当たるや、工廠の奥を見据えた。

工廠内は稼働中と工場とも思わせないような、あたかも廃工場の雰囲気を醸し出していた。

存在そのものも忘れ去られたかのような、悲しさと淋しさに包まれた世界であった。


「―――この先にスターが根城としている、『ゼラディウス深淵工廠』と一部では噂される場所がある。

まぁネット上だと、よく怪奇スポットとして肝試しに使われるからハタ迷惑だと工廠の人が以前に言ってたけどね。…実を言うと、あそこってスターの秘密実験室なんだよね。

正式名称は『ゼラディウス工廠第伍號コンバータ』。昔、あそこで実験中に火災が起きてね、以来あそこへの人の出入りの流れは遮断された。

そして今、スターの格好の餌食にされて、今や悪夢の工場になってる。此処まで分かったよ」


調べた内容を一から十まで述べたルナチャイルドは終始、厳格そうな表情であった。

頬が引きつっており、何処となく恐怖や畏怖を指し示すものであった。

其れは彼女の思う、残酷なまでに死に溢れたこの世界への追悼なのであろうか?


「……多分、スターは最早スターとしての自己を喪失してると思う。

―――自分勝手で悪いかも知れないけど、此処は私たちに行かせて貰えないかな、ルナ」


サニーはそう言うや、後ろの2人を見つめた。

今まで共に旅をしてきた仲間2人はゆっくりと、そして深々と頷いて見せた。

そんな様子に、ルナやプリズムリバー3人組も理解した。


「分かった。―――健闘を…祈るよ」


◆◆◆


無に覆われた工廠内を歩くのは一種のホラーであった。

確かに肝試しに使われることのある建物だけに、恐怖が感情の中で多を占める。

淡々と響く足音が若干の畏怖を伴うのも、環境と言う代物の及ぼす影響が如何に大きいかを示す標章である。

以前、此処に訪れた為に中の構造は大体把握している。

スターが根城を構えていると言う、ゼラディウス工廠第伍號コンバータまでの道のりも、無論分かっていた。


「……此処だな」


錆びついた梯子。深淵の中にひっそりと掛けられた梯子に、彼女は踏み入れた。

続いて2人も入っていくや、そのまま宵闇の中に姿を晦ました。

平和と言う太陽を失った今、彼女たちは一種の太陽であったのかもしれない。


◆◆◆


3人は最終決戦の地へ立った。

多くの医薬廃棄物や工場廃棄物、黒ずんだ何かをあちこちに置いている点はゴミ捨て場のようであった。

その中、1つのパソコンの画面が明かりを呈していた。その前に置かれている椅子に座ってはパソコンを弄っている人物は、サニーが何度も見た人物の本性であった。


「す、スター」


彼女は、そう呼んだ。

そんな呼びかけに、既往気づいていた科学者は椅子から立ち、朧げに佇む3人を見据えた。

その目つきは醜悪で、目の下にはくまが出来ていた。衛生上、不衛生な場所に身を置いていたスターは完全に「何か」へ為り果てていた。


「……私はスター?…スター?…スター?」


彼女は狂ったように自問自答を繰り返し、以前とは確実に違う事を教えてくれた。

そんな彼女に3人は恐怖に凍て付きながらも、武器を構えて見せた。


「私への嫉妬なのか!?インジケーターへの執着なのか!?

―――お前は何が目的だ!?こんな紅霧を起こし、兵器を暴走させ、ゼラディウスを更なる混沌へ先導するお前の、本当の目的は何だ!?…言え、スター!!」


「私の目的?…私はね、世界を闇に陥れること。

ふふふ、サニー。貴方は何も知らない。私の受け持つ、本当の闇なんか知らない」


彼女はサニーの質問に、静かにそう言った。

自己の受け持つ「真相」が今、彼女そのものの口から語られるのであった。


「……『ゼラディウス工廠第五號コンバータ爆発事件』。今から凡そ3年前の出来事だね。

当時、私はゼラディウス工廠の職員だった。担当は……『ゼラディウス工廠第伍號コンバータ』。

原因は主にゼラディウス内閣側の無暗な要望に対してオーバーヒートを起こしたこと。当時、機械の輸出大国として一躍有名だったゼラディウスは、そんな極度な労働を余儀なくされていた。

―――だから、事件は起こった。そして、私は……脳に障害を負った」


彼女は淡々と述べるや、左手で頭を押さえていた。

険悪とも、悲劇とも言えようか。彼女の述べる事が嘘であるにしろ無いにしろ、サニーは自身を闇に囚われていた。


「元より金持ちのドレミーに、更に貿易大国として利潤は完璧。

大金持ちのゼラディウス内閣は、貿易大国としての評判を落とさないために事件全貌の隠蔽を図った。

其れが、私が泣き寝入りして今に至る全てだ。私がエレクトロニクス社に入社した因果でもあるよ。

―――そして、其れが私の復讐劇の始まりだったんだよ。

……インジケーターに媚びを見せた大統領をインジケーター化させる計画を聞いて、私自身をインジケーター化してやった。そして、大統領は案の定にエレクトロニクス社へ怒りを向けた」


そして―――彼女は笑った。黒幕として……何もかも、全てを。


「―――崩壊だよ!!私が全て画策したシナリオ通り、みんな動いてくれた!!

お陰でドレミーはこれほどまでにない面白い死を呈してくれたし、サニーはこれほどまでにまでない逃亡劇を披露してくれた!…滑稽だよ!!実に滑稽、サニーを咄嗟に殺そうと考えていた自分が愚かだったよ。"アイツ"と契約した価値があった。

―――そして、もうこの世界は私によって崩壊を告げる!!終わりなき黮黯を、今や開幕して見せた!!

紅霧も、怪電波も、そしてセグメントとゼラディウスとの戦争、更には内閣とエレクトロニクス社の抗争、元や全ての発端となったサニーの逮捕も!!何もかも、だ!!!

世俗を捨て、今や殺戮の女神になった今!!国への、否、ありとあらゆる有象無象、形而上下を手に入れたのさ!!」


そんな事を堂々と述べるスターからは、何処も貞操概念を感じる事は出来なかった。

ジャキン、と剣を構える音を立てては銀色に延べられた礎の翼を向けて見せた。

其れは彼女の決意であった。邪悪たりし存在を跋扈させない為にも、心に本心を押し込めて―――。


「なら、私はお前を倒す……!!…もう、後悔なんて無い!行くよ、スター!!!」


◆◆◆


彼女は朧げに佇んでいた存在に剣戟を走らせた。

即座に彼女は持っていた礎の翼をスターに差し向けては残照しか残さないような素早さで斬りかかったのだ。しかし其処にはスターの姿は影も形も残されていなかった。

その一瞬はまるで電光石火の如し、彼女はすぐに振り返るや、其処にはショットガンを構えるスターがいたのだ。


「―――残虐なる運命に生まれたんだよ、お前は。全て、私の観劇の為にね!!」


彼女はその瞬間に銃弾を何度も引いた。

放たれた銃弾は全てサニーに襲い掛かったが、彼女の前で仁王立ちのようにして現れたのは社長であった。

僅か数秒の出来事に戸惑い、身体が硬直して動けずにいたサニーを庇うように、近くに落ちていた、老朽で剥がれたであろう鉄板を盾にしていたのだ。


「―――サニー、私はお前を守る」


「ありがとうございます、社長…!!」


影から一気に奇襲を図ったサニーはスターの真正面から斬りかかった。

そんなスターはサニーをほくそ笑みながら、ショットガンの銃口を向けたのだ。

しかし、彼女は其れを狙っていた。そう、サニーは「囮」なのであった。


「油断大敵ですよ!!」


レイラはそう言うや、サニーに夢中になっていたスターの背中に向かって銃弾を穿ったのだ。

しかしスターはすぐ反応するや、華麗な回転回避で避け切ってしまう。

サニーは臨機応変な方向転換で避けの色を見せた彼女に攻撃を仕掛けるや、咄嗟にショットガンで受け流されてしまう。


「こっちにもいるぞ!!」


そう言うや、鉄板を投げ捨てたユウゲンマガンはハンマーで一気に殴りかかった。

しかしスターは重たい一撃を裕に回避し、サニーに続いて彼女の攻撃をもさらりと受け流して見せたのだ。

其れは彼女が戦いに慣れてることを示すのに十分であった。


「間隙がありすぎ」


彼女はそう言うや、不意を狙っていたレイラに瞬間的にショットガンの銃口を差し向けた。

彼女は狼狽え、銃を構える手が震えてしまっていた。スターはそんな彼女を蔑んだような、憐れみを目に浮かべていた。其れは暗闇でも良く鮮明に捉えられるものであった。


「―――脳の障害、メルクチュアル=リジュマイオニー病。…耳にしたことも無いはずだ。

そりゃあそうさ、私が滅多にいない発病者の一人だからさ。しかも、これはもろ刃の剣だね。

リジュマイオニー病は…私がゼラディウス工廠第伍號コンバータ爆発事件を機に負った奇病、寿命が来ると脳が萎縮して死んでしまうって。が、その分生きてる間はおかしいほど脳が活性化するらしい。

なんでこのメルクチュアル=リジュマイオニー病を負ったかは知らないけど、友好的に活用させて貰ってるよ……。

私は死ぬ。死ぬのは怖い。だから、みんなを道連れにするんだよ!!」


そう言うや、彼女はショットガンの引き金を静かに引いた。

その直線状にいたのは紛うこと無きレイラであった。彼女は硬直し、回避出来ずにいた。

彼女は使命に囚われた。目の前の事象に飲みこまれ、怯えを見せるレイラを救うためにも。


―――1人の「死神」として。そして、人の「淑女」として。


「あ、危ないっ!!」


彼女は咄嗟にレイラに向かって体当たりをした。

その時、銃弾はサニーの頬を掠れ、そのまま突き進んだ。掠れた部分から血が僅かばかり溢れる。

すぐに左手で押さえて止血するや、彼女はゼラディウス・ウィングを構えた。


「さ、サニーさん……」


「お礼なんてしないでね、私が惨めになっちゃうから」


そしてショットガンを構える彼女に対し、剣戟を走らせたのである。

その様相はまるで落雷のダンスか?迸る礎の翼は電流のように駆け巡り、対峙して見せたのだ。


「―――私は私の思いを貫く!!それだけだ!!」


彼女の一撃は―――スターの腹部を一閃した。

一縷の希望を手に、サニーは腹部を抑えるスターを睨み据えた。油断はしていない。

腹部を押さえる彼女はまさかの一撃を予想だにしていなかったようで、サニーの攻撃を"寧ろ"褒めたたえたのであった。


「―――流石だよ、サニー。

……私がお前に嫉妬してたのも、一種の戦いの巧さなのかもしれないね……。

―――でもね、サニー。世界は不条理なんだ。誰もが生まれ、誰もが人生を受け持ち、そして散る。

これだけ儚い現象は他に無い。「人」に「夢」と書いて「儚い」って読むのはメジャーだけど、「言」に「とり」って書いて「誰」とも言うように、無神経さが不条理の因果としてるんだ。

―――そう、政府が隠蔽した時のようにね!!」


その時、であった。

彼女の身体を何かが貫き、其れが一瞬で血飛沫を織り成したのだ。

その先にあったのは、銃化した礎の翼。そして、サニーの決心であった。


「スター、お前は自分以外の何かに縋って、必死に自分を肯定してるだけなんだ。

ゼラディウス工廠第伍號コンバータ爆発事件でメルクチュアル=リジュマイオニー病を負ったことに狂乱し、世界を闇へと導くことに対して私は同情出来ない。

為り損ないの世界であったとしても、私はこの世界を愛する。嫉妬と絶望に塗れたお前なんかに、この世界を滅茶苦茶にされてたまるか!!」


数発の銃声。

其れは画策に溺れ、何をも絶望した科学者へ向けられた。

静寂の中、彼女は全ての銃弾を真に受け、そのまま大の字で倒れてしまった。

薄暗い天井を見ては、今までの何もかもを呪って。


「―――だからこそ、なんだ。

……私は……私は……私は……!!……うわああああああああああ!!!!!」

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