42章 ゼータ・フォノンは電気の夢を見るか?
重々しい紅霧は確実にゼラディウス中を覆い隠すように存在していた。
気象状態は最悪とも言え、飛行機は無論、ヘリコプターなども視界不良の為に飛空を控えていた。
しかし、彼女たちはこの状況を簡単に飲みこむわけにもいかず、取り敢えず悲鳴や慟哭が呼応する中心街へ行ってみることにした。
待っていた機械龍の背に乗っては、そのまま天高く飛翔して。
彼女たちが見る真理とは、一体何なのだろうか?
現実とはかけ離れた空間で、彼女たちは世界を1種の残酷さとして捉えていた。
◆◆◆
「スマホの電波は圏外…。…間違いなく、あの紅霧は只物じゃない」
スマホを取り出し、事実と予測を押し並べて語った社長は厳しい目つきをしていた。
確実に訪れるであろう「何か」…朦朧としながらも、其れは明白に顕在していた。
心に不安を募らせて、彼女たちは一刻も早い、その「何か」を取り除かんとする―――。
「あの霧が閃光のような立ち位置だと思われる。
人々のネットワークや無線を遮断するのは、その霧に遮蔽材である何かが含まれてるからだ。
―――ともかく、中心街へ進もう。何か見えるはずだ」
◆◆◆
ビルが立ち並び、高層的な建物が押し並べられていた中心街の様相は面影もなく、瓦礫の平野と化していた。その中に機械龍は降りたち、3人は地面に足を付けた。
多くの兵器が工廠から溢れ、多くの無辜の民を殺戮してはあちこちに佇んでいた。
血影も所々に見え、やはり被害は尋常じゃない事に気づかされてしまう。
「―――こりゃあ…ひどいな」
「ですね。―――絶対、裏で何かが隠されてます」
社長とレイラはそう言いあった。いや、確認しあった、と修辞した方が正しいだろう。
絶望に暮れる人々の中、曾て指名手配されていた人物らの登場は一種の英雄的生誕に疑似していた。
どうすることも出来ない闇の中を手探りしてるに過ぎない無辜の民々を救うためにも、サニーはゼラディウス・ウィングを構えては紅霧を静かに見据えた。
―――その時、であった。
突如、3人の前に現れたのは巨大な電気の翼を持った機械龍であった。
大きさは2m弱の、翼だけが大きい飛龍の何よりの特徴は翼に電気が迸っていたことであった。
触っただけでも感電してしまいそうな高圧電流を身体に流しては、その翼を広げて襲い掛かったのだ。
そして、そんな機械龍に取り付けられていたスピーカーに録音された内容、其れが3人の前で堂々と響き渡ったのである。
「お久しぶり、サニー。
この機械龍の名は「原初歸ブレードフォース」だ。まあ、そんな事はどうでもいいね。
―――この荒廃した市街地を見てれば分かる通り、今やゼラディウスは地獄絵図だ。
……誰がやったか?…ふふふ、其れは全て―――"私"だよ!!サニー!!
お前は最初から私の画策に従っただけの捨て駒に過ぎない!だからサニー、安心して消えてくれ!!」
スターの完全なる宣戦布告に、3人は呆れかえって見せた。
馬鹿にした笑みを口元に浮かべる図は一種の余裕を垣間見せていた。
「安心して消える?…悪いね、私は捨て駒になったつもりは無いんでね!!」
彼女が礎の翼を構えた時、後ろの2人も武器を携えて見せた。
其れは勇気の例か?其れとも勇気そのものか?武器を構えては機械龍に恐れすら為さない頑強な態度に、ブレードフォースは電気を靡かせては大きく翼を広げて。
そして今、「捨て駒」と言う概念と離別する為の、彼女の戦いが始まったのである。




