2章 国家転覆の泥濘
彼女は多くの囚人の前で疾走した。
冷たい空気を引き裂くように、足音がドップラー効果にしては音が消えていく…。
滴る雫を横目に、彼女はゼラディウス・ウィングを片手に駆け抜けた。
「―――ここの制御室を襲撃して、囚人たちを解放しよう。その混乱に乗じて脱獄してやるまでだ」
ジャキン、と音を立ててはゼラディウス・ウィングを構えて見せる彼女。
やはり扱いと言うのは大事である、慣れておかないと呆気無くギロチン送りだ。
静かな世界で、金属音だけが響き渡る。彼女は扱いの練習も程ほどにして、制御室へ足を進めた。
多くの囚人たちに変な眼差しを鉄格子越えで向けられていたが、彼女は歯牙にもかけなかった。
今は―――唐突な束縛から逃れるためにも。そう、自由への闘いに勝たなければならないのだ。
駆けてゆくと、唐突に現れた機械室。……ここが、刑務所内全体を司る部屋である。
監視も全て、ここで行われている。それにしても、巡視官と誰とも遭遇しなかったのは何故だろうか。
彼女は巡視官の事を頭の片隅に思い浮かべながら、ラッキーと思いつつも機械室へと乗りこんだ。
重たい鋼鉄の扉を勢いよく開けては、ゼラディウス・ウィングの先を向けて。
「だ、誰だ!?」
多くの画面を見ていたであろう、管理役の彼女は咄嗟に拳銃を構えた。
スーツ服を纏っており、名札には「朱鷺子」と刻まれている。
まさかの脱獄者に戸惑いを見せながらも、勇猛果敢に戦おうとする。
・・・管理画面は大半が消えていた。電源の故障か、管理が疎かになっていたのである。
「最近はマスゴミのお陰で一躍有名な、哀れな存在だよ」
「……クッ、巡視官会議を行っている僅かな隙を狙った犯行………許してはおけませんよ!」
◆◆◆
制御室と言う狭い部屋に響き渡る銃声。
引き金を引き、相手目がけて殺害を目論む朱鷺子の攻撃を華麗な動きで躱していく。
ゼラディウス・ウィングを片手に銃弾を弾いては、一気に至近距離にまで迫ったのだ。
「…悪いね、私は………まだ、やりたいことがあるの」
彼女は変形剣の一撃を彼女に蒙らせると、朱鷺子は派手に制御機械の元へ飛ばされた。
電流が多少溢れている。彼女は苦そうな表情を浮かべながらも、ゆっくりと立ち上がった。
そして拳銃の銃口を再びサニーミルクに向けたのだ。
其れは彼女自身の職務としての忠誠―――死を恐れずに戦おうとする意志が其処にあったのだ。
「貴方は国家の転覆を図ろうとしました…!……例えやり残したことがあったとしても、私は許しませんよ!」
「…許す許さないの問題じゃないの。私は私自らの未来を切り開く……不当逮捕なんて御免だね」
サニーミルクは変形剣を銃に変形させ、前方に佇む朱鷺子に向かって引き金を連続で引いた。
放たれた銃弾は朱鷺子の胸部を貫かんとするも、彼女は咄嗟に身を横に動かした。
そして対抗すべく、拳銃でサニーミルクの顔目がけて引き金を引いた。
しかし、彼女は変形剣で剣状に変形させると、その銃弾を刀身で受け流した。
「……少しだけ休んでて」
サニーミルクは彼女に向かって斬りかかった。
攻撃を蒙った朱鷺子は何も喋れぬまま壁に頭を打ち付けた。打ち所が悪かったのか、意識を失っていた。
貞操概念は此処で崩れた。崩れた以上、真実を見出すときまで…突き抜けるしか方法は無くなった。
後ろの道はギロチンへの階段だ。ならば最後まで……徹底抗戦するまでだ。
「…申し訳ないけど、色々弄らせてもらうね。……私だって、意思はあるんだから」




