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35章 母なる衣に抱かれて

目の前に現れた機械は、語らずもがな偉大な存在であったことに変わりは無いが、サニーはひどく憎んでいた。目の前の存在が今まで自らの道を妨げて来た邪魔者の首謀者であることに、怒りを隠せなかった。

大衆の中、ゼラディウス・ウィングを構えた彼女は早速、その怒りを露呈させたのであった。


「―――ドレミー!覚悟しろ!」


彼女は思いっきり機械のボディに斬りかかった。しかし手ごたえは無く、白亜のボディには何一つ傷はつかない。痛みも感じないのか、シルテウス自身も笑っていた。其れは…バリアであった。

其れは彼女への憐れみか、それとも彼女の滑稽さなのだろうか。

巨大な腕を見せつけては、手ごたえの無さに何処か絶望した彼女をシルテウスは嘲笑していた。


「―――其れがお前の力か?インジケーターを求め、インジケーターを見出した者の末路か?」


「…だ、黙れぇッ!!」


彼女はそれでも斬りかかった。金属音が何度も響き渡る。バリアを突き破らんと、何度も繰り返された。

礎の翼は何度も弾かれた。終わりなき、永遠に続く輪廻のように―――音は響いた。

其処には彼女の今までの思いがあった。しかし、その思いは剣づてでは届かなかった。

虚しさだけが、虚空に呼応する。彼女は涙腺をいつの間にか浮かべていながら、剣を振るった。


「……其れがお前の力か」


「そうだ。此れが―――私の力だ!」


彼女は力一杯込めて、両手で構えた剣で刺しかかった。しかし、シルテウスの鉄壁の装甲に刺さる事は無かった。弾かれ、彼女はそのまま絶望し切ってしまった。

後ろでは3人がエクリプスシルテウスの具体的な恐ろしさにやっと気づいたかのような顔をしては、武器を恐れながらも構えた。静寂の中、機械の存在は絶望し切っている存在をやはり笑っていた。


「―――無様なものよ。世界を救い、闇からの救済を図る者が…これほどまでの力だったとは」


すると彼女は立ち上がるや、左手を掲げたのであった。

其れは彼女自身の思いを、現実世界に投影させるかのようであった。

彼女は本気であった。胸の中の本気を―――ドレミー・スイートに見せる為にも。


「召喚エクゼファイル展開!―――いでよ!機覇神ウロボデードSn!」


その瞬間、ファイルが展開されたと同時に現れたのは、機械化された獅子の召喚獣であった。

エクリプスシルテウスの前に降り立っては、目の前に存在するバリアを壊すべく、何発ものホーミングミサイルを撃ち込んだのである。

地獄絵図であった。客観的に見ても、其れは炎を捲し立て上げる、一種の業火であった。


「なっ……!?」


シルテウスは自らの身体の一部が剥がれ落ちた気がした。

なんとホーミングミサイルの連射は、シルテウスを守っていたバリアを消し飛ばしたのである。

サニーは笑っていた。自らの希望が、まだ終わり出なかったことに―――。

他の3人も、有利性が見えたことで希望を持てていた。武器を構え、彼女の前に対峙して……。


「―――バリアは消えた。後はこっちのものだよ!」


そう、彼女は高々と宣言した。そんな存在にも、シルテウスは裁きを下す為にも―――。


「そうか。……そうか!なら、終わりなき黮黯たんあんを見せてやろう!」


◆◆◆


ユウゲンマガンはガンハンマーを構えては、さっきはバリアで妨げられたシルテウスに今度こそはと殴りかかった。巨大な一撃は白亜のボディに傷つけ、凹ませた。

同時にトリガーを引かれたガンハンマーは更なる衝撃を蒙らせ、凹みを大きくする。

続いてレイラが銃で射撃、ボディに掠り傷をしっかりと負わせていた。

彼女は元よりインジケーター、痛みはしっかりと受けるのであった。


「くっ…!……調子に乗るな!!」


シルテウスは自らの中に仕舞われていたファイルを展開し、目の前に大きな竜巻を発生させたのだ。

其れは4人に襲い掛かった。身も飛ばされそうな勢いであり、竜巻に抗うことが精一杯であった。

苦痛そうな表情を浮かべ、確実にダメージは蒙っていた。


「……そうはさせない!」


此処で竜巻から抜けだしたのがルナチャイルドであった。

大きな太刀を構えては、剣先をシルテウスに向けて一気に斬りかかったのであった。

その太刀裁きはまるで武士のように、機械の存在の右腕を斬り裂いたのである。


「ぐぉぉぉぉ……………」


「今だ!」


ゼラディウス・ウィングを構えた存在は竜巻から抜け出すや、一気に斬りかかった。

礎の翼は世界を砕くが如く、レイラが集中的に狙撃しては脆くなっていた場所に突き刺した。

その瞬間、彼女が纏っていた装甲が剥がれ、中の鉄骨部分やエンジンが露呈したのであった。

残りの2人も何とか抜け出し、4人は表皮を失った存在に武器先を向けた。


「終わりだ、シルテウス…いや、大統領」


「―――笑止!既往、勝ったと思っているお前たちが滑稽だ!」


エクリプスシルテウスは中の組織部分が垣間見えながらも、戦う意思を持っていた。

目の前に存在する愚か者共に天罰を下す為にも―――。

世界を牽引し、斡旋する為にも、彼女は―――。


「喰らえ!」


エクリプスシルテウスはファイルを展開し、青天の中、霹靂を落としたのである。

突如として4人に降り注ぐ轟雷に、4人は反応した。何とか身を反らしては躱し続ける存在に、エクリプスシルテウスはひどく気に入らないでいた。

彼女たちは降り注ぐ雷に、全て避け切って見せた。其処にあったのは、シルテウスへの侮辱であった。


「―――大統領、今…楽にしてあげますよ!」


……その瞬間、彼女の意識は遠のいた―――。


◆◆◆


野次馬やマスコミに囲まれる中、エクリプス=インジケーターと化していた大統領は元の人の姿に戻っては、倒れていた。しかし、周りには血などの痕跡も無く、病気で倒れたのかと間違えそうになるほどだ。

止めを刺したサニーは仰向けになって倒れる存在をひどく憎んだ。

見下していた。哀れな眼差しを大統領に向けては、この世の儚さに飲みこまれた存在を憐れんでいた。


「―――あんたは馬鹿だよ。勝手に私の技術を羨んで、間違った方向に使っちゃったんだから」


彼女がそう語ったとき、後ろにいた3人は彼女の呟いた言葉の意味が分かったような気がした。

何処となく、新鮮に―――。



―――『インジケーター』と言うのは、かつて特許を出願、施行された技術であった。

出願主はプロメテイア・エレクトロニクス社に勤務する科学者、サニーミルク。

保全内容としては『生身の人間へのコンピュータ移植もといファイル展開の具現化』。

その夢の技術で国全体を盛り上がらせたのは、何時の思い出であろうか…………。


―――夢の技術には、やはり莫大な資産が掛かった。

多くのパソコンやプログラムを揃えるのには、やはり資金が必要であった。

そこで開発者のサニーが勤務する会社の社長、ユウゲンマガンは「インジケーター専攻科」を作り、高い技術力を持っていたスターサファイアを、サニーの補佐役に置いた。


―――金は、足りなかった。

当時のプロメテイア・エレクトロニクス社は新興段階であり、株主も少なかった。

中小規模の会社であったエレクトロニクス社に、馬鹿げた額を要求したインジケーター開発は難航した……。

国も、当時は貧乏だったが為に成功するかもどうかも分からないインジケーター開発に投資することは無く、公的事業に力を入れていた。その結果、ゼラディウス高速鉄道や高速道路が生まれた。


―――その時、1つの存在が手を差し伸べた。

名をば、ゼラディウス党。当時はアルカナ党が政権を握っていたため、野党の存在であった。

その内の1人、ドレミー・スイートは一種の異端児であった。と言うのも、大富豪であったからである。

その資産額はアルカナ党を与党としたゼラディウス都市国家の資産額のおよそ12倍とされる。

理由として、彼女は別国で大企業のプレジデントを務めていたが、日々の多忙な毎日に飽きて降りたからであった。


―――ドレミーは望んだ。インジケーターと言う、夢の技術を。


―――彼女はエレクトロニクス社に提案した。自身の持つ、ほぼ全額を無償で差し出す代わりに。


……そして、その時は訪れた。



「―――大統領、でも私は同情する。あんたは正しかった。よく思い出せば、そうだった」



―――サニーは開発した。かの有名な技術にして夢、インジケーターを。

生身の人間に内蔵されたコンピュータを繋げ、一種のプログラミングとして確立させた。

その裏には、勿論ドレミー・スイートの資金が使われていた。


―――しかし開発されても、彼女の元に連絡の通知の手紙が届くことは無かった。

約束が違った。騙されたのであった。莫大な資金を、全て無駄にしたと彼女は酷く嘆いた。


―――サニーは知っていた。彼女の闇を。

そして、サニーは分かっていた。彼女はインジケーターに為りたかったのに、為れなかった。

元より成功した技術、彼女は…ドレミー・スイートに何度も連絡の手紙を送った。が、彼女は来なかった。


―――食い違いであった。

実際、会おうと思った時、誰かに阻まれた。脳裏を解析してみれば、1人の人物の言葉が沸々と思い浮かんだ。聞き覚えのあるような、馴染みのある声で。



「おーい、サニー!まーたドレミーのとこへ行くの?そんなことよりさ、私開発したんだよ!」



「おーい、サニー!見てよ、今開発してる展開用ファイル、『影流フィア・デス』だ!」



―――彼女は行く先々、ドレミーへの案内を悉く妨げられた。


―――ドレミーも分かっていた。その存在を、サニーよりよく分かっていた。



「―――でも、あんたのやった事はあんたのやった事だ。

エクリプス=インジケーターと言う、まだ技術が確立していない技術を勝手に用いたのだから。

其れに圧政も例外じゃない。あんたは多くの敵を作った。其れがあんたの間違いだった」



―――エクリプス=インジケーター。

其れは自身をコンピュータでは無く、自身「そのもの」をコンピュータに書き替え、変身を行う専用ファイルであった。

最初の考案者はサニーでは無く、スターサファイア。しかし、彼女の開発した初期段階ファイルはまだ危険性が多く、使用には遠い結果の産物であった。


其れに目を付けたのがドレミー・スイートであった。権力を持ったドレミーはインジケーター開発による莫大な資金の無償提供者として大統領に選出されたのであった。……それ自身、誤解であったが。


権力の沙汰は、遂にインジケーター開発に及んだ。無論、其れが目的であった。

彼女は遂に念願を果たした。しかし、其れは諜報員に盗んでもらった、似而非のインジケーターであった。


そして彼女は知った。

彼女が送った資金の用途を。…サニーに秘密で、とある人物がインジケーター化していたことに。

その人物こそ―――。



「―――全部、スターの所為であることは知ってる」



彼女は残酷に、そう語った。

スターサファイア。1人の開発者の傲慢さや自己中心的な行動が、彼女を此処まで導いた。

彼女がエクリプス=インジケーターになったのも、彼女への皮肉を込めたつもりだったのである。



「私は…良い人生を送れた。大統領になれて、騙されることへの報復が出来た。心が晴れた。

最期をお前によって止めを刺されたのも、一種の運命を感じる。インジケーターへの執念…私から其れが消える事は、地獄に行っても無いだろう……。

―――後は、この国が発展することを祈る…。………そう思わないか、エリス。慧音」


彼女に言われた時、姿を見せたのは悲しそうな顔を浮かべた2人であった。

皺だらけのスーツ服を纏っては、大統領の倒れる姿を見ては涙を浮かべていた。


「―――大統領の身分を、私の報復の手段として使わせて貰ったことの非礼を詫びる。

―――そして、私は呪い続ける。永遠な存在、スターサファイアを…………」


「大統領……」


エリスは口惜しげにも、そう語った。

2人は倒れては死にかけそうな大統領を持っては、何とか持ち上げた。エリスは両手を、慧音は両足を。

持ち上げられた存在は最期に薄目を開いたまま、サニーの方を見ては笑みを浮かべた。


その笑みが何に対する笑みであったのか。

サニーはその笑みの意図が読み取れた気がした。


―――その時であった。ゼラディウス中がおかしくなったのは。

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