28章 惨劇と悲劇の夢想歌
ルナチャイルドを見守りに置いて、3人は外に出た。
相変わらずの人だかりであり、光景に無を映らせない。往復の激しい世界であった。
屋台が建て並び、多くの人々が買い物を楽しんだり、楽しく話していたりと飽きを見せないのが特徴的であった。独裁の下、殺伐とした空気のゼラディウスとは180度反対の光景だったのである。
これを俗に「歩行者天国」と言うのだろうか。
道路には車すら通れず、多くの歩く人々で溢れかえっている。其れは平和の象徴なのかもしれない。
誰もが巨大なる存在への畏怖を感じず、束縛すらない自由さを提げながら、行ったり来たりしていた。
サニ―ミルクは、そんな光景を殺そうと企んでいるに違いないゼラディウスを恨んだ。自分の国であれ、前大統領のような良い人では無い現大統領の政治には大層窮屈だ―――。
「……此処からバスで国防省まで行ける。金ならあるぞ」
「お金が無かったら乗れませんからね。ゼラディウスを救う前に、私たちがお縄です」
彼女たちが歩行者天国から外れた道を歩いて行くと、別の大通りに出た。
ビル街を貫くような形で作られていた大通りには車が右往左往しており、静寂の暇すら作らない。
歩道を歩いて行くと、質素に置かれたバス停が存在していた。本数を見れば結構多く、それなりに使う人が多いということが良く分かる。
実際、バス停に着いた3人の後ろに何人かが既に並んでいた。
「―――此処から国防省まで行こう。金は纏めて私が払う」
「恩に着ます、社長」
幾分か待つと、車通りの中にバスの姿が見えた。
都市近郊型のノンステップバスであった。このバスはお年寄りや体の不自由な人に優しい設計であり、バスに乗る際に段差を一つも昇らないのが特徴である。
彼女たちは其れに乗り込んでは、空席が分散していたバスの車内で吊り革に掴まっていた。
◆◆◆
バスはそのまま流れる景色を進んでいく。
人が多い中、颯爽と走り抜けていくのだ。所々で止まった信号で、多くの人々が横断歩道を横切り点がセグメントの人口の多さそのものを示唆しているかのようであった。
相変わらずのビル街は何をも変かの兆しすら見せないまま、バスは停車した。
周りのビルと比肩して一段と高い高層ビル。
一瞥しても、その様相は愕然としてよく分かるものであった。彼女たちはバスから降りるや、厳かな雰囲気に包まれた気がしたのであった。
多くの窓を軒並み連ね、多くのスーツ服の人々が行き来する建物―――国防省特有の色であった。
しかし、何かを厳重注意しているのか、多くのガードマンが警戒していた。
「これって入るだけでも難しいんじゃ……」
「私の顔を舐めるな、レイラ」
社長は畏怖していたレイラに言うや、ガードマンの前を堂々と通ったのだ。
一部のガードマンは彼女を疑ったものの、社長が睨み返すと逆に怯えたのであった。蛇に睨まれた蛙なのであろうか。しかし事の事態を知らないサニーには蛙に睨まれた蛇のように捉えていた。
ユウゲンマガンは得意げな顔を浮かべては、2人の方を見返した。其処には彼女の見えない力がはっきりと視界に捉えられていた気がした。
ガードマンの中を潜っては、大きな建物の中に入っていく。
厳かな雰囲気は否めず存在しており、何処となく畏怖を感じさせた。
サニーは礎の翼を持っているとは言え、肩の幅が狭くなるような思いであった。
「―――社長、顔が広いんですね」
「私は天下のプロメテイア・エレクトロニクス社の社長だぞ」
何処となく自慢げに、且つ優しさを込めた社長の応え。
レイラの発言にそう答えたユウゲンマガンはそのまま前を進んでいった。
レッドカーペットが敷かれた中、あの「真実」を伝えに―――。




