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24章 悪夢のゼラディウス工廠

バイクに乗っては、風光明媚ふうこうめいびな海に隣接した巨大工廠へと向かって走った。

吹く波風に仰がれながらも、ハンドルを握って疾走するサニーたち。

金属が錆びては、潮の匂いに覆われた世界を視界に映して、彼女は駆け抜けたのであった。

白線がいつの間にか繋がって見えるようになった時、片手に構えたゼラディウス・ウィング―――礎の翼が蒼天に向かって羽ばたいていったように捉えられた。


◆◆◆


……ゼラディウス工廠。

金属音が鳴り響く中、突如として現れた3台のバイク。

鋼鉄製のドアの垣間から侵入してきた不法侵入者は、そのままバイクで工廠内を駆け抜けたのだ。

3台のうち、先導として存在していた女性―――紛れも無い指名手配者、サニ―ミルクである。

何処かで盗んだのであろう、白バイを巧みに運転しては機械と機械の狭い間を潜り抜けて。

多くの作業員が唐突な登場を図ったバイクに戸惑い、困惑した表情や驚愕な顔を浮かべながら逃げ惑う。


「―――この先にジェネシスはあるはずだ!国家機密だからな、最奥まで駆け抜けるぞ!」


「了解!」


ユウゲンマガンの言葉に、2人は了承して見せた。

バイクのアクセルを踏み切っては、思いっきりスピードを上げて。

吹く風に快感を覚え、爽快な世界を彼女は歩んでいくように入りくねった工廠内を進んでいった。

熱気が強く、風が自身に当たろうとも製鋼の温度も負けじとせず。

齟齬した感覚…肌の温度感覚が麻痺しそうになっていたものの、そのまま疾走した。


―――やはり、敵は登場するものであった。

国家機密を守るためか、武装した警察官がマシンガンを片手に警備していたのだ。

暗い工廠内をバイクの明かりで照らしていたため、警察官は謎の存在にいち早く気づくことが出来たのであった。


「あ、あれは!……何としてでも守るぞ!」


彼らの一致団結は、迫りくる反乱者の対峙を余儀なくさせた。

銃火器を構え、引き金を引いては迸らせる炎。3台のバイクはハンドルを慣れた手つきで操りながら、片手に持った武器で応戦を図ったのであった。

レイラは銃を持っては、反逆の姿勢を銃口に示していた。


「―――此処を守るぐらいなら、国の平和を守ってくれ!」


レイラの銃弾は彼らの額や胸部、更には肩などを無差別に射抜いた。

露聊つゆいささかも警察官たちの放った銃弾は3人には当たらず、そのままバイクは駆け抜けた。まるで何事も無かったかのように。

銃声を束ねて、彼女たちは更に工廠の深淵へと足を踏み入れたのであった―――。

まるで、新世界へと足を進めた……裕福を夢見て開拓をした、曾てのアメリカへの移住者のように。


◆◆◆


深淵は更に暗く、何をしているのか分からないほどであった。

視界ではぼんやりとした、朧々な影が見えるものの、やはり具体的な事象や物象の特定は出来ずにいた。

彼女たちは不安な思いを不意に浮かべながら、バイクの速度を落としては進んでいった。


不穏な空気が漂っていた。

暗い世界に明るい電流が各地に迸っては流れゆく様相を横にして。

これが国営のものとは考えられないほど、最奥は非常に暗いものであった。普通は閉鎖か閉業か、そんなものを浮かべてしまうだろう。

レイラは父親がリークした情報に、今更ながらも不信感を抱き始めていた。


「……レイラ、本当に此処でジェネシスは作られてるのか?」


「お父さんの情報によれば……。…お父さんは此処だって言ってました………。

―――間違ってない、間違ってないはずです」


レイラは自らの情報の間違いを極度に恐れていた。

感情が沸き上がる、不思議な感情。騒めくような、高り荒ぶる気持ちであった。

3人がバイクを降りた時、彼女は何処か怯えた様相を呈して。


「―――レイラ、まだ隈なく探さないまでに不安感を持つのは早いぞ。

事実を何たるをば解せざるに出たる謬錯びゅうさくのみ……嗚呼、坪内逍遥つぼうちしょうようの言葉を借りた」


ユウゲンマガンがそう言った時、レイラは不安な感情を一斉に退けたのであった。

粛々とした彼女の決断は、何処か勇ましささえ感じさせるものであった。

静かな思い―――遥かなる意思を胸に抱いて。


「―――そうだよ。まだ諦めるのは………」


サニーがそう言った時であった。

突然、何かが光り始めたと思いきや、其れは途轍もない程の大きさを誇る竜の目覚めであったのだ―――。

幾つをも受け持つエンジンを稼働させては、電流を沢山走らせて。

平穏な暗闇を打ち破るが如く、深淵に2つの紅い眼を浮かべて―――。


黮黯たんあんの中で虚構を浮かべるは、蠢きし閃光。

3人が其れに察知した瞬間、第六感が反応したかのように立ちどまっては畏怖を感じた。

反射神経が反応して、身体的にも負担が襲い掛かる。其れは深淵に潜む存在への反射反応であったのだ。

逃げないといけない、と脳は必死に命令を下していたものの、3人は抗った。

恐怖の存在にも怯えてはならない、と。


「―――アイツが、噂のバハムート・ジェネシスか」


「……どうやら様子がおかしいね。完成したにしても、電流の漏洩量が尋常じゃない」


サニーは淡々とその事実を述べた。

誰かに存在を察知されるのを覚悟で、彼女は近くの機械を斬っては爆破させ、光源とさせた。

その瞬間、目の前には数多もの配電管ケーブルで繋がれた機械龍が、籠に閉じ込められた小鳥のように哀れな唄を謳っていたのだ。

轟音は工廠内にいた人々に存在を気づかせ、多くの足音が雪崩れ込むような音が聞こえ渡る。

しかし、サニーは分かっていた。機械でありながらも、ジェネシスが悲嘆の咆哮を上げていたことに。


束縛された世界で、この機械龍は自由を求めていた。

其れが、何の根拠もない直感で…そう思ったのであった。彼女は静かにも…何をも恐れぬ姿勢で、ゆっくりと駆け寄ったのであった。


「お、おい!サニー!」


ユウゲンマガンが彼女を制止させようとした。

しかし彼女は無意識なのか、社長の言葉を鼓膜に響かせても脳に伝わせることはしなかった。

重い空気の中、足音が淡々と響く。おびただしい集団の余波も厭わない不動の志を抱いて。


彼女は、機械龍の頭を撫でた。

深淵の中、赤い眼を浮かべたバハムートは静かに頭を下げた。

まるで彼女が機械龍を手懐てなずけるかのように、電流が迸る中、彼女は優しく、そっと頭を撫でていた。

するとサニーは何かの決意をしたのか、右手を高く掲げては大声で宣言をしたのであった。


「―――召喚ファイル展開!―――現れよ、機覇神ウロボデードSn!」


その瞬間、彼女の前に現れたのは、改造された獅子が装甲を纏って武装化した存在であった。

巨大で獰猛とした、機械的生命体は巨大な咆哮を工廠内で響き渡らせたのだ。

同時に3人への存在に気づいていた、先程の大集団―――そう、国からの派遣者である警察官たちが武装しては、銃火器を纏って登場したのだ。

その人数、およそ50人強。3人しかいない彼女たちは圧倒的な不利に追い込まれていたのだ。


「―――さ、サニー!」


「大丈夫、私に任せて!」


彼女は不安そうな2人を励ますと同時に、安堵を抱かせた。

サニーは召喚獣にジェネシスの方向を指さすや、ウロボデードは呆気なくジェネシスを束縛していたケーブルを破壊したのだ。


―――そして、機械龍は今、降誕したのだ。


「グギャアアアアアアアアアアオオオオオオオ!!!!」


巨大な咆哮はその場にいた何をも竦みあがらせては、助けてくれたサニーを背中に乗せたのであった。

続いてユウゲンマガンとレイラの2人も背中に跨っては、一番前に座っていたサニーが馬を鞭打つかのようにゼラディウス・ウィングで叩くと、途方もない程の電流を纏いながら羽ばたき始めたのであった。


機械龍の翼は追手として存在していた警察官をも吹き飛ばした。

最後の足掻きで放たれた銃弾も、新品のバハムートに敵わない。結局は焼け石に水だ。

錆びた鉄骨で形成された工廠の屋根を破壊するのは、バハムート・ジェネシスにとっては容易い事であった。

派手な音を立てては、暗闇の中が一気に開けては広々とした蒼天が広がっていた。

青々とした、海のような世界は…いや、確かに海は広がっていたが、サンドイッチのような挟まれた感覚であった。


「―――此れで、バハムート・ジェネシス事件は何とかいい方向に持って行けたね。じゃあ、帰ろっか」


サニーは何事もなかったかのようにバハムート・ジェネシスを操っては、大空を駆けた。

まるでこれからの世界が広がり行く様を示唆していたかのように―――。


◆◆◆


「―――大統領、2つの嫌な情報が……」


「言わなくても分かっている。ゼラディウス市民病院の襲撃と、ゼラディウス工廠の襲撃だろう。

―――どうせ奴らだ、一刻も早い駆除が大事だと思うね」


回転椅子に座っては、眼下のゼラディウスの街並みを見据える存在。

清楚なスーツ服を纏っては、この国を我が物同然のように扱っていた人物―――そう、彼女こそ独裁の象徴、ドレミー・スイート大統領である。

背を向ける彼女に、現状の過酷さを身に染みて感じていた存在―――財務大臣の稀神サグメであった。


「……大統領、エリス国土交通大臣が画策した、ゼラディウス高速臨海鉄道の過電流作戦の件ですが、対象者は見事命を存えた上に、多くの人々が犠牲になっております。

各地ではネットによる繋がりでデモが生まれ、国民の圧力で退任へと追い込まれる可能性が―――」


「怒りの矛先を変えさせろ」


大統領は淡々と、しかし内容は何倍も濃いような事を話した。

彼女は何の変哲も無さそうな顔で、当たり前のような口調ですらすら滑らかに喋ったのだ。

国全体の危惧を、大統領らしからぬ目で向けて。


「―――隣国、セグメントだ。アイツらには悪いが、犠牲になって貰う。

適当に何かをこじつけて、攻める理屈なり屁理屈なり作れ。自衛隊を派遣し、最終的にはデモ参加者を中心とした徴兵制を執り行う」


「了解です。……失礼いたしました」


サグメは一礼を間に挟んで、そのまま退室した。

静かな部屋の中、彼女は椅子に座ったまま―――今、ゼラディウスで起きている問題を脳裏に浮かべた。

スマホを取り出すや、ネットニュースで例の病院や工廠の件が騒がれていた。

国民のヘイトは確実に上昇している―――其れは分かっていた。何かの正義の為にも、やはり犠牲は伴わなくてはならない―――。

……彼女なりの自己暗示である。専ら、自らの独裁の席を譲りたくない為の、一種の強硬策であったのだ。


「―――何も得出来ないゴミ屑が……出しゃばるな」

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