23章 斃死のゼラディウス・ウィング
3台のバイクは道路を疾走していた。
エンジン音を響かせながら、ゼラディウス工廠へと向かう為に白線の外側を走行して―――。
信号なぞ、彼女たちはいざ知らず。そのまま赤信号に突っ込んでは、巧みな運転技術で垂直方向に走る車の群れを見事に回避して……。
左右に揺れ動くバイクは派手な動きを走らせながらも、車道を華麗に駆けていく。
サニ―ミルクは鋼鉄の刀身を輝かせるゼラディウス・ウィングを片手に、邪魔する物々を斬り刻んでは破壊し、進路の妨げを壊していた。
「てやっ!」
彼女が発した、天まで貫くかのような鮮烈な叫び。
其れはまるで神の怒号か、邪龍の咆哮か。全てを斬りこむような勢いを保った叫びと同時に放たれた斬撃は、彼女の前にある乗用車を破壊した。
サイドミラーから入れられてはエンジン部分にまで到達した斬りこみは車を爆発へと陥れた。
その車が妨害していた進路を、3台のバイクは何とも無かったかのように走り抜けて………。
爆発は市街地全体に響き渡る規模であった。
爆発しては燃え上がる車に乗っていた、核家族と思われる4人組の家族は焦げた身であった。
周りの人々が彼らを解包していたが、貞操概念そのものを捨てたサニーは別に何とも思っていなかったのだ。
「―――邪魔は消す。私たちをそんな状況に仕向けたのは―――国だから」
彼女はそう流れる空気に身を乗せたまま、静かに言い捨てたのであった。
バイクは何事も無かったかのように駆け抜け、爆発した場所では大混乱が巻き起こっていた。
運転しながらスマホの通知を確認したレイラは来ていた緊急ニュースを見ては、案の定の顔を浮かべていた。
「―――やっぱりさっきのは派手だったみたいね。もうニュースになってる」
「じゃあ、追手の登場も時間の問題だね。急ごう」
視界の先に開けた、綺麗な青々とした世界。
太陽の陽の光を目の当たりに、宝石のように煌いては反射していたのだ。
船やヨットが雲海に浮かぶが如く、遠く美しい水平線を望んでは遥かなる未来や夢、希望を抱いて。
―――ゼラディウス工廠は、すぐそこであった。
◆◆◆
潮騒の音が響く。
ゼラディウス工廠が存在する工場地帯は比較的静かで、潮の匂いが漂ってくる。
多くの人が犬の散歩やウォーキングなど、流れゆく静かな匂いを感じていた。
その中に混じっていた、鉄骨剥きだしの工場。―――それこそが、ゼラディウス工廠であった。
大きさは言わずもがな、国が営んでいるだけあってやはり規模は片言の言葉では語れないものであった。
「―――此処が、ゼラディウス工廠か」
「……そうです。此処で私たちを殲滅しようとしてる兵器、バハムート・ジェネシスが開発されてる模様ですね。物騒なものですよ、こんな平和な土地でやるなんて」
事実、彼女が言う「平和な土地」と言う表現は正しかった。
と言うのも、国が血眼で捜し回っては情報が犇めき合っている市街地と比べ、平穏な空気が流れているからだ。追手の気配すら感じられないのだ。
サニーはバイクから降りるや、試しに背伸びをしてみた。久々にバカンスに来たような感覚が否めない。
何処か古くて懐かしい、過去を回顧した時にふと思い出したような、鼻をつく思い出―――嗚呼、あの時のことであったか。
過去も、遡ること数十年前。
会社に入った際に行われた新人研修会に於いて、確かこの地を訪れたのであった。
その時は今の自分らしからぬ、水着姿を披露したりしては海で遊んでいた。砂のお城も作った。
しかし、ゼラディウス工廠が出来てからは砂浜は消えた。海の匂いは残っているが、虚しさを感じてしまっていたのだ。
彼女はつい先日のようにも感じた過去を、胸の中に仕舞った。何処となく、儚い思いを感じて。
「―――私たちがやれることは1つ、『バハムート・ジェネシスの破壊、もしくは奪取』です。
貞操概念は消えました。だからこそ、私たちも抗いを見せましょう!」
レイラがそう言った時、2人は頷いて見せた。
もう、国に甘えていられる子供の時代は終わった。自らの足で進まなくてはならないのだ。
自分の信じる平和の為に―――保険と言う揺り籠は消えた。だからこそ、世界を見出す為にも―――。
「―――そうだな」
ユウゲンマガンがそう言うと、バイクをそのまま走らせた。
行先は巨大な工廠。一刻も早く、バハムート・ジェネシスの製造を制止させる為にも……。
サニーはすぐ乗り込んでは、再びハンドルを構えた。先に巨大な機械の世界を望んで。
「―――私には、まだやるべきことがあるんだから」




