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22章 解放のゼラディウス・ウィング

レイラがそう言った時、新たな追手として警察官たちが銃を構えて姿を見せたのであった。

落ち着いて話をしている暇は無いと悟った彼女たちは武器を構えては、逃げ道を捜した。

案の定、近くに緊急事態用の階段が存在していた。彼女たちは急いでそこへ赴くや、そのまま階下へと降りていった。

後をつける警察官たち。ひんやりとした空気が頬に触る中、彼女たちは焦りと共に鮮烈な足音を呼応させた。

其れとほぼ同時に轟音の如き音を立てながら迫り行く追手に多少うんざりしながらも、急いで脱出を図ろうとする。


やはり落下時の痛みはまだ存在していた。何時の間にか捻ったのだろう、左足の太腿が多少痛い。

しかし、追手を前に痛みを言っている暇は無かったのだ。彼女に突き付けられた運命は儚く、そして残虐悲惨なものであったこと―――其れが、彼女を束縛していたのだ。


「―――あー、もう!五月蠅いんだよ!

―――召喚ファイル展開!―――現れよ、リヴァアーク!」


彼女は自身の受け持つexeファイルを展開し、召喚獣を呼び覚ましたのだ。

ひんやりとした空気の中、急いで階段を下りていく警察官たちの前に現れた黒竜は全てを闇へと覆いこんだのだ。警察官たちの視界は不思議と真っ暗闇になり、視界が遮られてしまったのだ。

役目を終えたリヴァアークは消えたものの、暗闇で目が不自由な警察官たちはその場に留まらざるを得なかったのだ。

その間を見計らった3人は急いで脱出し、何とか出口にありつけたのであった。


まだ不完全ではあるものの、何とか復帰は出来た。

サニーはそんな状況を喜び、奇跡だと喜んでいた。例え偽りの奇跡だとしても、自らの人生と言うデットヒートの便宜を恐悦至極きょうえつしごくに感じながら。

太陽の陽の光は相変わらずであった。何処も不変たる光は全てを遍いて―――。


「―――サニー、召喚獣のお陰で助かったよ」


「私の為に動いて下さってるのに、お礼だなんて、そんな……」


彼女は感謝していた。

自らの為に、国と言う巨大な存在に背を向けては抗ってくれる仲間を。

入社当時は畏怖を抱いていた社長が、此処まで人望の厚い存在であることに感謝しながら―――。


「まあ、国はサニーさんを何時狙ってくるかは分かりませんよ。油断大敵ですっ」


レイラはそう言うや、彼女は頷いて見せた。ユウゲンマガンも同様であった。

蒼天を覇せし青空に浮かぶ雲々の中に姿を見せるヘリコプター。サニーは執拗にも追いかけてくる存在を睨み据えていた。戦いに終わりは無いのか、平和も見いだせない世界で―――。

レイラは2人の様子を見るや、静かに喋り始めた。内容は先ほどの内容……所謂「バハムート・ジェネシス」のことであった。


「―――で、さっきの話の続きですが……何処まで話したんでしたっけ」


「お前がリークしたとかどうの話だ」


「ああ、そうでした。社長、ありがとうございます」


彼女は話した内容を脱出の際に忘れてしまっていた。ど忘れである。

しかし気の利く社長はしっかりと覚えていた。ユウゲンマガンに諭された際に頭を下げては思い出した彼女は、思いつめた顔を浮かべてはゆっくりと話し始めた。


「―――ゼラディウス工廠こうしょう。ゼラディウス工廠でジェネシスは作られてるらしいです。

―――私たちが一刻も早く開発を妨害しないと、後は国の思いのままになってしまいます!」


レイラは必死になって、そう訴えた。

ゼラディウス工廠―――ゼラディウスが誇る巨大軍事工場…その歴史は古くも200年前に遡ると謂れ、今現在も最高峰の科学力を以ってして兵器開発をする工廠である。

そこでバハムート・ジェネシスが作られていることを信じるのは、とても容易い事であった。

何せ国…もといドレミー・スイート大統領はサニ―たちを目の敵にしているのだから。


「―――ゼラディウス工廠、ね。私を捕まえたいが為に其処まで動くなんて、国は私に恨みでもあるのかな」


彼女は自分の思いを何も隠さずに話した。

あっけからんとしていながらも、何処にも薄煤けた偽りがない言葉。

彼女を狙う国の意図が、不思議なほど何も見いだせないのだ。インジケーター専攻科であった彼女を捕まえても、プロメテイア・エレクトロニクス社はゼラディウスと言う国を支える巨大企業だ。

国内総生産を占める力を持つ企業を潰してまで、何がしたいのか分からなかったのだ。


「―――奴らは気にいらない事があればすぐ抹殺だ。サニーがいれば不都合な事があるんだろう」


ユウゲンマガンはそう彼女の質問に答えた。

スマホ片手にニュースを確認していたサニーは、未だに自分の話題で盛り上がっていた世界に引き目を感じていた。自分が格好の視聴率稼ぎや動画の再生数稼ぎに利用されているのだ。

しかし、目的の遂行とは依然として伴ってしまう弊害にはやはりどうすることも出来ないのであった。

―――いや、考えを改め直せば、其れが反って有利な方向へ導ける可能性も充分にあるのだから。


「―――とにもかくにも、一先ずは工廠のバハムート建造を阻止しなくちゃ不味い。

………一刻も早い解決が望まれるな。いい意味で」


ユウゲンマガンは病院内で襲撃してきた警察官たちの乗っていたであろう白バイの群れを見つけた。

彼女はその中の1つを選んでは乗り、ハンドルを構えた。病院前はサニーたちの存在に気づいた町の人々が細々と動いていた。片手にスマホを持って。

……ユウゲンマガンは気づいていたのだ。漸進ぜんしんながらも、国に通報していた存在に。

此の場が危ない事も、事前にキャッチしていたのだ。


「―――じゃあ、迷ってる暇は無いですね。行きましょう、ゼラディウス工廠に。

―――今、スマホに連絡があったんですけど、リリカさんたちはエレクトロニクス社で待っていてくれるそうです」


レイラがそう言った時、サニーは何処か安堵感が芽生えた。

白バイに乗っては、ハンドルを構えて。アクセルを3人が踏み切った時、パトカーのサイレンが唐突に響き渡った。

病院前が騒然とした時には、既に3人は行方を晦ましていた。

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