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19章 邂逅のゼラディウス・ウィング

その人物は、ゆっくりとヘリポートに降り立った。

そして燃え行く残骸を背景に、嘲笑を其の口に刻みこんで。残酷で、残虐な笑みであった。

コンクリートの上を、淡々と歩いていく。そして、8人の前で対峙して見せたのだ。

彼女が乗っていたヘリコプターはそのまま飛び去って行き、1人孤独に残された存在は寡黙にも、陽の光を背に向けて―――。

何をも顧慮こりょしない、その意気堂々とした姿勢は何処となく晴れ晴れと見え、静かな陽の寵遇ちょうぐうを受けている彼女は徹頭徹尾、仮面をつけた道化師のように、不気味さを醸し出していた。


「―――バハムートをやっつけてさ、いい気になってるなんて。

―――私も来たんだから。初見さんはお見知りおきを~」


まるでテレビのニュースキャスターのようにでも話す彼女に、ユウゲンマガンとレイラは苛立ちを立てた。

と言うのも、曾て戦ったからである。高速道路を爆破し、2人を列車暴走事故に巻き込んだ張本人でもあったからだ。

其れに加えて、如何にも彼女たちを見下し、馬鹿にしている雰囲気が更に彼女たちの怒りの思いを募らせる。

落伍者らくごしゃを蔑むかのような眼差しは、全てを貫かんとして―――。


「……ロリス」


「そう。来てあげたよ。……て言うか、ドレミーが五月蠅くてさ~。

あー、ホントめんどくさいんだよね~って感じ?あーほくさ、辞めたいねこの仕事」


ユウゲンマガンに自分の名を呼ばれたのにもかかわらず、聞こえなかったかのような仕草を見せていた。

屋上に吹き荒れる風を前面に受け、黒のスーツを羽ばたかせるかのように打ち靡かせる。

溜息を吐いては、社会のプライマリーそのものを問う者達を見据えては、事前に懐の中に無造作に入れてあった市販のライターと煙草を1本取り出しては火を付け、煙を風に乗せた。


「―――お前たちは、一体何が目的なんだ!?

……何もしてないサニーを勝手に逮捕状も無しに逮捕して、易々と罪を受け入れられる訳が無い!」


「そう言われても、ねぇ~。私は職務を全うしてるだけなんだからー。

サニーがどうこうとか、私知らないの~。まあ私にとっちゃ、どうでもいいわけ。サニーとは接点無いし。

だったら、ボーナスが増えるこの仕事を頑張ろう、って訳。分かる?」


ロリスはそう、自らの論を展開した。

彼女は利益主義で、どうやら感情論と言うものを持ち合わせていないようであった。

彼女は彼女なりの信念があり、其れが正義と呼ぶのならそうなのかもしれない。

しかし、サニーたちは自らが置かれた不憫な状況を呪い、最後まで抗おうとしていたのだ。


―――彼女は、そんな情景を滑稽に捉えていたのだろうか。

所詮、歴史の一角にも満たないようなものだと思っているのだろうか。ロリスは、ただ煙草を煙らせていた。吹き荒れる風に棚引くように、汚れた煙が横切っていく。

煙の様は、彼女の動かぬ心そのものを示唆しているかのようにでもあった。


「―――私は何にも、関係ない。だけど、今月末に欲しい腕時計が発売されてね。

余り腕時計に興味ない私も、其れは欲しいと思って~。…そう、資金稼ぎだね!って感じ?」


「貴方の資金稼ぎの為に―――私たちは戦わなくちゃいけないんですか!?」


感情的な意見を露わにしたリリカに、ロリスは頷いて見せた。

手首には草臥くたびれた時計が嵌められていた。何年も使っているような、錆びた腕輪のようであった。

ロリスは如何にも其れを厄介視してるかのようであった。早く新品と買い換えたいのだろう。


「まあ、私だって職務ですから」


呆気なくリリカの意見を突っ撥ねるや、彼女は右手を天に向けて掲げた。

すると多くのヘリコプターが一斉に現れては、狭い屋上のヘリコプターを占領するかのように武装した自衛隊が降り立って行ったのである。

それぞれが構えた銃の口を8人に向け、まさしく袋の鼠状態に追い込まれたのであった。

余裕そうなロリスの笑みは、何処となく神経を蝕ませる。


「―――全員、大人しく降伏した方がいいと思うよ、私は」


銃を構えられ、何も動けない状態であった。

ユウゲンマガンとレイラが武器を地面に落としては両手を上げたのをきっかけに、サニー以外の全員が手を上げて見せたのだ。

しかし、彼女は両手を上げることは無かった。静寂が辺りに漂う。


「―――悪いけど、私はそういうのが嫌いだからね!

………召喚エクゼファイル展開!―――いでよ!影流フィア・デス!」


その瞬間、彼女が持つファイルが展開されたと同時にヘリポートに出現した、漆黒の鱗で固められ、深紅の眼を持つ竜。高温の炎を裕に扱う未知の存在は、科学的な自衛隊員を震え上がらせた。

非科学的な存在である竜は、何処までも凍て付かせるかのような大きな咆哮を上げるや、晴れては澄み渡った青空が急に曇天へと変貌を遂げたのだ。

そして―――あろうことかひょうのように、およそバスケットボール程度の大きさの炎の玉が降り注いだのだ。

それらは自衛隊員やロリスに襲い掛かり、当たった者は身体が焼け焦がされてしまうのであった。

しかしロリスはいとも容易く、降り切った炎の玉全てを避け切ったのだ。


―――影流フィア・デスは消えた。辺りには、ロリスと焼け焦げては全滅した自衛隊員の死骸が散乱していた。絢爛けんらんたりし世界は曇天に覆われ、同時にロリスは懐から紅い何かを取り出した。小さく視界に映る、火がつけられた其れを理解するのに、長い時間は要さなかった。


「それは―――ダイナマイト!?」


ルナチャイルドは声を荒げた。

枢要的に破壊を司る物に、ロリスが取るであろう行動で考えられるのは少ない。

そして、どの選択肢も全てサニーたちが被害を蒙るものであった。最悪のシナリオである。


「―――このまま…消えちゃいな!って感じ?」


彼女は其れを天に向かって放り投げた―――幕は、上がったのだ。

しかし、その瞬間に地面に落とした武器を拾ってはロリスの投げた紅き悪魔に狙いを定める人物があった。

僅か数秒の出来事、投げられたさいは撃たれ、そのまま何処か遠くへ弾かれてしまったのだ。

刹那、轟音と共に空中で全てが凹むかの勢いで大爆発が発生したのだ。


「―――どうも、腕時計の為にお縄に掛けられるってのは納得いかないね」


ショットガンを構えたまま、そう発言したのはスターサファイアであった。

数秒の中でダイナマイトを射たのは彼女であった。今の機転が利く行為が無ければ……と考えると、サニーは少し身震いしたので考えるのを止めた。

ロリスは自分が投げたダイナマイトをピンポイントに弾かれ、自らの画策が失敗に終わったことを轟音で感じ取っては、苦い顔を浮かべた。


「―――いやはや、私だってやりたい事はあるんだから。ほら、ナポリを見てから死ねって言うでしょ」


「お前の場合は『ナポリを見てから死ね』じゃなくて『ナポリを見ようと思ったけど間違えてフィレンツェに行った』だよ。自分の道を何でも肯定されて貰っては私たちの行き場が無くなる」


ロリスの発言にそう付け加えたのはルナチャイルドであった。

彼女は情も無くそう言い返し、呆れ顔を浮かべていた。残酷な弧を口元に見せて。


「―――そうかもね」


彼女は開き直ったのか、吸っていた煙草を吹き荒れる風に乗せて流した。

煙草に付いていた火が、風によって呆気なく消える様相はこの世の儚さを現しているかのように。

虚ろさを交えた眼に、朧げに揺らめく8人の姿を映して―――。


「……でも私は私、そう言う職務に就いてきたことには何ら変わりは無いよ。

―――其れに、私にはサニーたちのような勇気が無いから」


ロリスはそう言うや、二丁銃を鞘から差し抜いては構えたのだ。

其れは彼女なりの求めた答えだったのかも知れない。何処か寂しそうな思いを抱いては―――。

窮屈な理想を掲げる8人を馬鹿らしくとも思えたのか、束縛されたロリスの信念が解放されたかのように…。


その時、であった。ユウゲンマガンの懐に振動が起きたのは。

すぐさま気づき、彼女は通話に応じた。相手は慌てふためく社員であった。


「―――社長!今、会社が襲撃されて……あ、あああああああ!!!」


その瞬間、通話は途切れた。

スマートフォンの中で響いた断末魔の声が何を示しているのか、考えるのは容易であった。

通話内容が渋々聞こえ取れていたルナチャイルドやスターサファイア、リリカにメルラン、ルナサは3人に

そんな仕草をするや、颯爽と去ってしまった。

残された3人は了解の合図を送り、死体が散乱するヘリポート上で、彼女たちは対峙した。


「―――下は任せよう。それよりも……お前を倒す!ロリス!」

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