16章 帰還
玉突き事故を追手へのバリケードとして、彼女たちはそのまま本社へ向かった。
サニーはバイクを運転してる際に見えた、巨大なガラス張りのビルを見ては懐かしくさえ思えた。
唐突な逮捕から、長い時間が経過したようにも思えた。とてもとても、言葉では説明出来ないような永遠の時間を身に染みて感じて。
疲弊が出ては、汗が滲む。バイクのハンドルを持つ手が汗で煮えたぎっている。
「見えてきた―――」
リリカがそう言った時、彼女は安堵に包まれた気がした。
そのまま駐車場に入り、適当にバイクを停める一行。ずっとバイクを運転していた感覚に襲われていた為か、臀部に痛みを感じる。凹みを受けたような、あっけない痛さであった。
サニーは逃亡劇に疲れたのか、大きく溜息を吐いては本社へと足を踏み入れた。何時死ぬか分からない、そんなデットヒート上の戦いを繰り広げていた彼女の、束の間の安息である。
本社内は極めて清潔な空間で、大きく広々としていた。
アルカナ党本部よりも大きく、巨大企業の一角を担う存在の本社はそれ相応の雰囲気を醸しているものであった。サニーは改めて、その雄大さを心に受けた。
「―――まあ、疲れただろうし。全員、無論レイラも無理はするなよ。
―――ここは安全だ、私が其れを保証する」
ユウゲンマガンはやるべきことが残っていたのか、そのまま颯爽に立ち去ってしまった。
置いてけぼりな感情に至ったサニーは一旦背伸びをしては、先ずはスターサファイアのいるインジケーター専攻科へ赴くことにした。
フラフラと歩いていく彼女の後ろ姿を見つけたルナチャイルドは、何処か不安そうな表情を浮かべては彼女を追いかけた。
「ま、待って!サニー~!」
◆◆◆
彼女が足を進めた先は、曾て勤めていた場所であった。
多くのコンピュータが並べられ、キーボードの打ち込む音よりも談笑の声の方がより目立つのは自由を意識する此の会社だからこその光景であった。
その中の中心人物、スターサファイアはサニーの存在に気づいては、椅子から立ち上がった。
「……久々に見た気がする」
スターサファイアは彼女の顔を見ては開口、案の定の発言を言い放った。
出向させられていた訳では無いが、この逃亡劇は長いようであって短いものだったのだ。
「―――開口、失礼な事言うね。…私だって捕まりたくて捕まった訳じゃないんだから」
「まあ、見せたいものがあるの。私のパソコンを見てよ」
彼女はサニーに、自分のパソコンを覗くよう言った。
その通りにして、サニーは彼女の机の前に行く。スターサファイアは得意げな顔を見せながら、キーボードを打ちこんで見せていた。
そんな場所に、サニーを追いかけていたルナチャイルドも加わった。スターは彼女の姿を視界に映した時、感嘆の声を上げては立ち上がった。
「おお、ルナチャイルド!」
「久々だね、スター!」
2人は慣れ合いながら、そう呼びあった。
サニーはそんな2人に自らの疎外感を抱きながらも、スターのパソコンの画面を見た。
ポリゴンで作られた、3Dモデルの像。…其れはアルカナ党本部でメルランが見せてくれたものと同じような、召喚獣であったのだ。
龍のようなポリゴンを見つめていた時、ルナチャイルドと談笑していたスターも気づいては話を本題に戻した。
「あー、其れは召喚ファイル『影流フィア・デス』だよ。
―――フィア・デスってのは…昔そういうドラゴンの伝説があってね。私なりのアレンジだよ。
―――それに、もう1体いるんだから」
スターサファイアは器用巧みにマウスを操った。
画面は変更され、もう1つの3Dモデルが画面全体に映し出される。
其処には、猛々しい獅子が身体の半分だけ機械化された、半獣半機と言う奇怪な存在であった。
如何にも強さが画面を隔てても尚、伝わって来る。
「強そう」
ルナチャイルドは不意に発言した。
その言葉を聞き逃していなかったスターは鼻を高くしては、回転椅子を回転させた。
余裕そうな素振りが、その行動からひしひしと伝わって来る。
「まあね。コイツは『機覇神ウロボデードSn』。名前も結構考えたんだから。
因みに「Sn」ってのは1つが「新」と、もう1つが英語で「涅槃の刑宣告」と言う「Sentenced nirvana」の略表記なんだから。2つの意味をかけ合わせる……私は文才も一応は持ち合わせてるんだから」
「あ、あぁ……」
サニーは適当にスターサファイアの説明をあしらい、帰ろうとした。
勝手にそそくさと帰ろうとする彼女の背中を右手で掴んでは強制的に引き戻すスターサファイア。
ルナチャイルドはそんな様相を滑稽ぽく見ていた。
「勝手に帰らないで!……まあ、私のやつ、サニーにあげるよ。自由に使って」
「あ、ありがとう……スターサファイア」
「じゃあUSBポート見せて」
そう言われるや、サニーは迷う暇なく右腕の袖を捲った。
スターサファイアは其処にデータが入ったUSB端子を差し込み、データを送り込んだ。
その一連の作業風景を見ていたルナチャイルドは何処か新鮮そうに、眼を輝かせていた。
と言うのも、アルカナ党本部でサニーが召喚獣を得た際、彼女はその場に居合わせなかったが為に、どうやって入れるのか分からなかったのである。
「そ、そうやって入れるんだ……」
ルナチャイルドが感銘を受けた時には、サニーは袖を戻していた。
新たな召喚獣2体を手に入れた彼女はご機嫌そうな顔を浮かべていた。其れは燦爛と輝く太陽の光と相俟って、何処となく鮮明な感触であった。
―――そんな時であった。
突如、サイレンが車内に鳴り響いたと同時にユウゲンマガンからの電話がサニーのスマホに来たのだ。
何かの緊急事態を察した彼女はすぐに応対した。
やはり状況が一変したのか、社長は焦り口調で何度もつっかえながら伝える。
「来た!奴らの…奴らの兵器………バハムート・アムザーが!」




