14章 偽りの平和への抗辯
―――そう、その時に響いたのは、後ろ盾を恐れずに襲撃した当局であったのだ。
警棒や拳銃を持っては、犯罪者を抱擁するアルカナ党本部へ強硬策を図ったのである。
サニーミルクはその喧噪的な声々を耳にした時、眉を潜めてはゼラディウス・ウィングを携えた。
鋼色の刀身が、蛍光灯の薄らかな光を反射させる。溜息なぞ吐いている暇も与えられず、すぐさま声のする方へ駆け抜けた。
「さ、サニー!」
「社長とレイラさんが寝てるんだよ……。……だったら、私がやるしかない!」
ルナチャイルドの制止も聞かず、彼女はそのまま走り去ってしまった。
突如、彼女の視界からサニーが消えた瞬間に蛍光灯に電気を送っていた送電線が何かの拍子で切れ、ブレーカーが落ちたかのように本部は真っ暗になってしまっていたのだ。
窓にブラインドをして、日射を塞いでいたために中は陽が落ちた夜のような世界になってしまっていたのだ。
騒ぎを聞いて、2人を運び終えたリリカとメルランが汗を流しながらやって来た。
「こ、この騒ぎは!?」
「―――国の仕業だね。何かの線が切れたのか……ともかく、もたもたしている暇は無さそうだ」
ルナチャイルドも暗闇の世界で目を凝らしては、武器を構えた。
―――彼女が持つ武器は、刀身が極めて長い太刀である。大凡2mは裕にあるだろう。
彼女は自分の身長の割には合わない丈の太刀を軽々と片手で使いこなしては、サニーの後を追おうとする。
五月蠅い声は内部へと押し入っていき、段々と鼓膜を響かせていく。
「ルナチャイルドさん!?」
「2人も来い!サニーと共にレイラとユウゲンマガンを守るんだ!
―――それにしても、ルナサは何をやってるんだ!?」
彼女はその場に存在していなかったルナサの存を苛立てた。
先程まではいた存在が、こうも大事な時に限っていなくなってしまうのか。
しかし、鑑みている暇は無い。一刻も早い解決が、この場では優先されるだろう。
袰を背中では無く、首の前に付けていても何の意味は無いのだから。
「まあ、今は急ぎましょう!何としてでも、2人を守るんです!」
◆◆◆
サニーは最前線に立っては、多くの党員たちと共に警官隊と戦っていた。
大きな盾を最前列に、後方から銃撃と言う、故に「二重の壁」の構造を模して戦っていた警官隊は党員たちを国家転覆罪と見なしては次々と虐殺していく。
アルカナ党本部玄関口、多くの人が押し寄せる中、銃声は高々と昼の町に木霊していったのである。
それと同時に銃弾の犠牲となった党員や警察官の断末魔が、まるで鳥の鳴き声のように有り触れた存在となっては聞こえ渡っていく。……まるで戦争の如く。
「サニー!お前が何を及ぼしてるのか、分からないのか!?」
銃声の中、とある警察官の1人が発した声であろうものが彼女の耳に届いた。
ゼラディウス・ウィングを振るい、血飛沫を上げ乍ら壁の中を忍者を彷彿とさせるような早業で斬り込んでいた彼女は一瞬だけ動きを止めた。
自分が―――やはり多くの命を巻き添えにしているのか、そう考え込んでしまう。
逃れられないのだ。過去、自ずが何をしたのか靄のように不透明なまま、死を迎える事などしたくないが、ルナチャイルドに制止されたように…自分を必要と思ってくれている人が少なからずいる以上は期待に応えなくてはいけない―――まるでエンターテイナーになったかのような気分で、彼女は笑みを浮かべた。
しかし、警官隊はこれでもかと呻りを上げてしまう程、沢山やって来る。
その数は玄関前を埋め尽くし、もはや戦場と化していたのだ。彼女はその状況をひどく憂えた。
戦いたくないのに、無辜の犠牲を払う必要は無い。しかし、其れを強いられているのだ―――。
「私は―――何を及ぼしてるか、分からない。私に教えてくれ!私が何をしたのか、を!」
彼女はその瞬間、警官隊の前に注目の的となるかのように姿を見せては、左手を掲げたのだ。
―――そう、彼女はインジケーターである。
犯罪者は犯罪者なりに、最後まで抗って見せたい……そんな感情を胸に、声高々と宣言した。
「召喚エクゼファイル展開!―――いでよ!リヴァイアサン!」
彼女自身が保存してあったexeファイルを展開し、彼女は展開を行ったのだ。
その瞬間、3Dモデルとして作られた海竜が警官隊の前に堂々と現れては、巨大な咆哮を上げたのだ。
そう、今までは神話や絵本の中でしか見聞きしなかった存在が今、現代に甦った瞬間であったのだ。
「キ―――――――!!!」
鳥のような声を上げては、3Dモデルの海竜は大波を呼びよせたのだ。
非現実的にも、プログラムで形作られた大波が具現化し、多くの警官隊に牙を剥いたのだ。
荒波には対抗する術もなく、そのまま跡形も無く押し流されて行く警察官たち。
中には溺れる者もいた。リヴァイアサンが喚び起こした荒波は、辺りを騒然とさせたのだ。
「さ、サニー!」
彼女の名を挙げたのは、ルナサであった。
どうやら彼女は黒い衣服に紅い染みを残していた。戦いの恩賞であろうか。
右手で拳銃を佩帯しては、歴戦を勝ち抜いたかのような素振りをしていた。
「る、ルナサ……。…今、こっちは一時的に撃退させたよ」
「わ、私も…。あの2人とルナチャイルドさん、怒ってるかなぁ。私ね、外の自販機へジュースを買いに行った際に6人の警官に職務質問されてさ。アルカナ党員であることを告げると襲い掛かってきて。
何とかやっつけたけど、殺したくもないのに殺してしまう…なんか、罪悪感が芽生えるよ」
ルナサは自分のやった行動を顧みては、何処か落ち込んでいた。
彼女は自分自身が穿つ銃弾の色を見たくなかったのだろう。しかし、その色は今、彼女の眼を覆い尽くしている。燻し銀の眼は全てを見ていた。自らが置かれた残酷な状況も、黒い運命も、また。
「―――さっさと此処から脱出しよう。あの2人を連れて。
―――また、奴らは来る。プロメテイア・エレクトロニクス本社へ急ごう!」
サニーはルナサにそう言うや否や、ゼラディウス・ウィングを納刀しては本部へ入っていった。
その後をルナサが追う。薄暗い中へ入るや、辺りは静まり返っていた。
何人かの警官が血を流して倒れている。唐突な襲撃は、何時しかの世界史で学んだサン・バルテルミの虐殺を思い出させた。
奥へ進むと、宿泊部屋で寝かされていた2人が佇んでいた。武器を片手に、寝込んでいたのだ。
どうやら彼女たちも戦ったようであった。疲れが押し寄せる中での戦闘は、やはり想像するだけで苦しませる。
「……早く此処から脱出しましょう!ユウゲンマガンさんにレイラさん!」
ルナサがそう言うや、2人は立ち上がった。
社長に至っては口元に謎の笑みを浮かべ、静かに立ちあがって。
「―――此処まで押し寄せるとは、奴らはストーカーか何か?
―――こう見えても、私たちは女だ。痴漢なんで専ら御免だね」
余裕そうな声で話す彼女に、一先ずは安堵を覚えたサニーミルク。
レイラは拳銃の手入れを簡単に済ましては、ゆっくりと立ち上がった。まるで靴紐を結んでいたかのように。
「……さて、行きましょうか。私たちだって、まだ死にたくは無いですから。
外ではリリカさんとメルランさん、それにルナチャイルドさんがいるはずです。党員専用のバイクが駐車場にあるので、其れでエレクトロニクス本社へ向かいますか」




