12章 哀れなる天使たち
レイラが何かの執念に憑かれていた。
全てを憎むかのような目は虚構を含有し、覗き視る者全てに憐愍を覚えさせるかのようであった。ユウゲンマガンも、銃を構える彼女を止めようとするが、彼女は止める気配など見せなかった。
銃口を押し付けるように乗客たちに近づくレイラ。暴走する電車の最後尾車両にいた乗客は、レイラによって避難出来ない哀れな存在達に何も言えないでいた。
引き金に、手を掛けていた。何時でも、銃弾を穿てる状況だ。
どんどん前方に追い詰められる乗客たち。涙を流すように、怯えながら後退していく。
其れを誘導するかのようにレイラが銃口を向けている。全てに憎しみを持つかのように。
幼き子は緊迫した状況にストレスを感じたのか、大声を出して喚いている。
レイラは不機嫌そうながらも、遂に最前車両へ追いやったのだ。
「お、おい!何をするつもりなんだレイラ!」
「殺してやる―――殺して、私たちも死ぬんだ」
しかし、ユウゲンマガンはこの時レイラの何かを察知したような気がした。
彼女の口元が弧を描くかのように、にっと笑っていたのだ。不気味さでは無い、安心感を漂わせていた。
この時、銃を向けながら電車前方に追いやる彼女には何か作戦があったことを、ユウゲンマガンは察した。
「……全員、私の前に集まれ」
レイラは乗客を一つのクッションのように束ねさせると、視界の奥に光を見据えた。
猛スピードで走る電車の先にあったもの―――アルカナ駅の車止め。其れの奥にあった白い壁。
―――全て、彼女は画策していたのだ。
「社長!身を屈めてください!早く!」
◆◆◆
その時、電車は地下にあるアルカナ駅にハイスピードで衝突、大事故を引き起こした。
ホームにまで乗り上げた暴走電車は幸いにも客が避難して、既に無人であった駅にぶつかった。
轟音が響いたと同時に2人は乗客と言うクッションによって助かったのであった。
一部の乗客が頭を打って失神や死んでいたが、レイラは…そう、憎しみと同時に自分たちの命を先決したのだ。
「―――行きましょう、どうせ奴らは追ってきます。早くアルカナ党へ」
「あ、ああ。分かった」
2人は、正義のヒーロー何かでは無かった。
自分たちの目的の遂行のためなら犠牲も厭わない、そんなような性格であった。
すぐさま崩れていく電車の中から脱出し、大事故によってボロボロのアルカナ駅を進みゆく。
案の定、音を聞きつけてやって来た救急隊員と同時に警察隊が2人の前に立ちはだかった。
「―――お前たちは…何をしたのか、分かってるのか!?」
「分からないね。私たちは不法乗車…キセルしただけだ」
レイラはすぐさま銃の引き金を引き、警察の1人を殺害した。
其れと同時に、仲間を殺された怒りに囚われた警察たちは一斉になって襲い掛かってきたのだ。
彼らは銃を用いたり、ナイフで襲い掛かったりした。野蛮な襲撃に呆れを漏らしたレイラは凄まじき速さの手裁きで銃を扱うや、目の前には血の池しか無かったのであった。
冷たい駅のホーム上で作られた、まだ暖かみのある池。
「―――行きましょう、社長。きっと地上にはコイツらが使ったバイクがあるはずです」
「そうだな。先を急ごう」
2人は警察隊と言う敵を背景に、急いで地下から地上へ出る階段を駆け上がった。
多くの救急隊員が駆け下り、事故による被害者の救出へと向かう。しかし、駆け上る彼女たちには辛辣そうな視線を向けていたのだ。
これが世の儚さであった。レイラは何処か悲しくなりながらも、先へ進んだ。
改札口は駆けつけた救出隊員によってこじ開けられ、其処を通った。
そのまま停止していたエスカレーターを駆け上がり、地上部分へと向かった。
喧噪的な声が響く。其れはマスコミが大事故の発生したアルカナ駅へ駆けつけていたのであった。
意地でも駅に入ろうとする報道陣を抑え込む警官隊。2人はそんな彼らの願いも応えてあげるべく―――今、突破しようとしていたのだ。
「邪魔だ!」
マスコミが入らないようにしていた警官隊を背中から襲撃したユウゲンマガン。
ガンハンマーの一撃は大きく、警官隊を打ち上げてしまう。案の定、地下で戦った警官隊の白バイが置き去りにされているのを見つけた2人は其れに乗る。
報道陣は一斉に駅へ雪崩れ込み、地下で負傷者を救出してる人などいざ知らず、そのままエスカレーターや階段を駆け下りていったのだ。
一部のマスコミは現れた指名手配犯2人をカメラに映すが、結果空しくそのままバイクは去ってしまったのであった。




