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11章 Fighting Sin

2人は電車の座席に座って、アルカナ駅への到着を待った。

ユウゲンマガンは疲弊からか眠っているが、レイラは何処かそわそわしていたのであった。

不思議な気分に襲われていた。何処か疎外感を抱いて―――。

浮かれない感覚に陥っていた彼女は、電車の窓に映っていた、移り行く世界をただ見つめていた。


―――しかし、運命さだめの刻と言うのは、呆気なく訪れるものであった。


突然、電車の屋根の上から物凄く大きな雷鳴が聞こえ渡ったのだ。

其れは落雷が屋根に当たったかのような勢いで、寝ていたユウゲンマガンも飛び起きる程であった。

嫌な予感が走った。外は晴天、落雷が起こるはずがあるとはほぼ思えない可能性だ。

これがまさに青天の霹靂へきれきなのであろうか?


「な、何が!?」


レイラは自分たちが打ち破った窓から身を乗り出しては屋根を見上げた。

すると電車に電気を送っていた架線が暴走していたのだ。其れは雷鳴の如し、常に電流が外観からでも分かる程迸っては、電車への送電量を大幅に上回っていたのだ。

このままだと電車は暴走し、終点のアルカナ駅で大事故が起きてしまう。と言うのも、終点のアルカナ駅は地平ホーム…所謂、線路の先に壁があるのだ。


「……送電量のミス、ですかね?意図的なものですかね?

―――兎に角、この電車は暴走してます。早く脱出しましょう!」


レイラがユウゲンマガンに伝えた時、アナウンスが入った。

緊迫した様相で、少し早口ながらもスピーカー越しで語る車掌は、畏怖し切っていたのだ。


「皆さま、落ち着いてお聞きください。只今、この電車は―――制御不能となりました。

まもなく、終点のアルカナです。ですから、後方にお集まってください!繰り返します、後方にお集まってください!」


アナウンスが流れた時、乗客は我先にと後方へ行こうとするが、立ち止まってしまった。

と言うのも、其処には指名手配されていたユウゲンマガンとレイラがいたからである。

彼女たちの存在に、立ち止まっては後方に下がれず、怯えていた乗客たちは苦い顔を浮かべていた。


「……ど、退け!指名手配野郎!」


1人の男性が、威勢よく彼女たちに怒号を放った。

其れに続いて、大人を中心とした怒号は車輌内に響き渡ったのである。其れは恐怖と助かりたい思いから生まれた、一種の自己暗示なのであった。

武器を構える彼女たちに、若干の畏怖を抱きながらも退かせようとする思い。2人は自らの立ち位置を哀れに感じたのであった。


「―――退く、ってどうやって?」


「武器を捨て、そのまま引き下がれっつってるんだよ!」


口調が悪い男性に、レイラは頭の線が切れたような気がした。

銃口を向け、見下すかのような顔を浮かべていたレイラに、ユウゲンマガンは制止に入った。

銃を向けられた乗客たちは寡黙に陥り、徐々に身を引きさがらせていたのだ。


「レイラ!何をしてるんだ!?」


「―――私たちは国に貞操概念を捨てられたのに、私たちは捨てないんですか?

無辜の民、と言っても私は憎い。普通に生きていただけなのに、敵視される此の世界が」


レイラは怒りに震えていた。

国に対しての怒りは、国の中で平穏に生きる人々に八つ当たりされようとしていた。

―――否、彼女は羨ましかったのであった。蔑まれる感覚が、厭であった。

何もしてないのにも関わらず、唐突に命を狙われてしまう。どうしてこうなったのか、何度も自問自答した挙句、彼女は自暴自棄に陥っていたのだ。


「貴方たちが羨ましい。

―――私たちは左翼なんかでは無い。この国をより良いモノに変えたい、その一心で頑張っている。

なのに貴方たちはマスコミに踊らされて、私たちを一方的に敵視する。

そんな輩に、交渉の余地なんて無い」


レイラはそう、きっぱりと言い切ると狙いを絞った。

電車は暴走し、どんどんスピードを上げていく。しかし、彼女は不動の構えを見せていた。

追突と拳銃の畏怖との板挟みに遭う乗客たちは袋の鼠のように追い詰められていたのだ。

ユウゲンマガンはレイラを制止させようとするも、動けずにいた。其れは温厚な彼女が滅多に見せない顔であったからだ。

乗客たちは顔が青白くなっていった。其れは顔を真っ赤にして、自身の持つ怒りを露呈させていた彼女とは対照的な絵であった。


「―――レイラ、一旦落ち着け」


「どう落ち着けって言うんですか。私たちは今、不条理な身に置かれている。

このままだと、どうせ死んでしまうんです。―――なら、いっそのこと」


彼女は狙いを更に絞った。

幼い子供も中には存在していた、乗客の不特定多数を睨み据えるレイラ。

眼の中は燃え行くような憎悪が煮えたぎり、悍ましさを秘めていた。

しかし、その瞬間に電車が突如揺れ、乗客や彼女たちも無論、立ち竦んでしまったのであった。


―――だが、レイラは何かの執念に憑かれたかのように銃を向け続けていたのだ。


「―――私たちは何もしてない……何故…何故何故……」


「レイラ!目を覚ませ!」


彼女は鬼のような形相で睨み据えていた。

電車はその間も刻々と速さを刻み、過電流によって完全に暴走していた。

―――しかし、彼女の想いは何にも変わらないまま、世界は動いていったのである。


「―――全員…全員、殺してやる!」

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