10章 過電流ミッション
バイクに乗っては襲撃を図ってきたロリスに対し、苛立ちを浮かべた2人。
高速道路をハイスピードで駆け抜ける中、ユウゲンマガンはハンマーの狙いを定めた。
片手で持ちあげ、重量感のあるハンマーで一気に殴りかかるや、ロリスは躱してしまった。
逆に重たいハンマーはユウゲンマガンの運転するバイクのバランスを崩してしまい、彼女は慌てふためいていた。
「しゃ、社長!」
しかし、ロリスはそんなレイラに拳銃の銃口を向けた。
社長の心配をしていたレイラはユウゲンマガンを助ける為に近づこうとするが、不敵な笑みで拳銃を構えたロリスが発砲、上手く近づけないでいたのだ。
社長はハンマーを何とか持ちこたえ、バランスを取り戻すもののロリスの格好の目標となっていたのだ。
彼女は焦った。先手を打つためにも、片手をレイラに向けて。
「喰らえ!」
放った銃弾は、見事避けられた。
しかし、余裕の表情であったロリスに不意打ちをついて、ハンマーの一撃を蒙らせた社長。
ハンマーの一撃は大きく、バランスを崩したもののすぐに持ちこたえたロリスは呂律が回っていた。
「なじぇ…なじぇだ………って感じィ?」
それでも拳銃を構えて運転するロリスにしぶとささえ感じたレイラは並走に持ちこんだ。
低速する彼女のバイクの隣に赴き、安定して狙おうとしたのだ。
しかし、半分混乱していた彼女は拳銃を乱射し、上手く近づけないでいた。
「ころしてやるー!」
幼児のような物の言いぐさに若干違和感を感じながらも、レイラは諦めなかった。
彼女の銃弾はそのままロリスの頭部を穿つ……はずだった。彼女は俊敏にも頭を反らし、巧みに躱したのだ。侮ってはいけない強さに歯を食いしばる思いであったレイラ。
彼女は乱射するロリスに対抗するように銃弾を放つ。其れはまるで横殴りの雨のように、高速道路上で降り注いでいたのだ。
「私がいるってことを忘れるな!」
銃撃戦に身を奪われていたロリスの反対車線に回って、ハンマーを叩きこもうとする社長。
しかし、存在に気づいていたのかロリスは身を180度回転させては銃弾を穿とうとしたのだ。
流石のユウゲンマガンも其れには驚き、攻撃をすぐに取り止めては銃弾を躱す。
レイラはここぞとばかりに考えていた。銃口の先を定め、一気に引き金を引いた。
銃弾は、ロリスの腹部を穿いた。
血が噴き出た。呆気にとられたと同時にバイクから転げ落ちたロリス。
高速で駆け抜ける2台のバイクに置いて行かれてしまったのであった。……と、思いたかった。
「な、何だ!?」
ユウゲンマガンが叫んだと同時に降り注いだ赤い物体。…ダイナマイトであったのだ。
バイクのスピードの勢いに任せて飛ばされたダイナマイトは丁度2人が通過しようとした高速道路のコンクリートを―――粉々に粉砕し、大爆発を起こした。
2人は投げ出され、そのまま空中を舞ったのである。
◆◆◆
スカイダイビングなんかよりも、爽快で恐ろしい感覚であった。
2人は真下に線路があるのを確認すると、死を覚悟した。……直後の出来事であった。
線路の上を、電車が通ったのである。其れはゼラディウスを通る鉄道、「国鉄ゼラディウス高速臨海鉄道」であった。
殆どが地下を走行する、言わば地下鉄のような存在である。青いラインが基調的な電車の屋根に、2人は乗っかったのである。架線を見事に躱して屋根に乗れたので、無事であった。
今まで乗っていたバイクは近くの空き地に墜落、パーツが粉々に粉砕したのであった。
「―――た、助かった!?」
「……みたいだな」
2人は走る電車の上で起き上がるが、何せ風が強い。
電車も速い速度で疾走しているため、顔に当たる風が痛いのだ。2人は一先ず、電車に乗ることにした。
縁に落ち、窓ガラスをガンハンマーでダイナミックに打ち破って侵入した2人に、他の乗客は我先にと逃げていったのであった。
まるで犯罪者を見るかのような眼で―――。
「……これはアルカナ駅行きだな。なら、アルカナ党へ行くのは近い」
ユウゲンマガンは移り行く景色の中で楽観視していた。
何処となく不安に隠れ隠れしながらも、まぐれで此処まで来れた事に何処かレイラは感謝していた。
◆◆◆
「―――こちらエリスだ。どうしたロリス。……ああ、ああ。分かった」
スマホの通話を切り、溜息を吐いたのは国土交通大臣のエリスであった。
ロリスからの敗北の電話を受け取り、2人の居場所を把握したエリスは捕まえる為、早速命令を下す。
2人が乗ったのはアルカナ駅行きの快速。途中駅には止まらず、そのまま終点まで行く模様だ。
電車番号はA-12。エリスはすぐさまスマホの電話を掛け、相手に繋がった瞬間に開口した。
「―――こちらエリスだ。Aの12、送る電流を本来の3倍にして過電流にしろ。いいな。
乗り合わせた乗客は運の尽きって事で巻き添えにさせる。地平ホームだからな」




