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7話 オーク討伐戦

 アルス・ヘルスのギルドマスターであるダンを先頭に数十名の冒険者が朝靄がかかる森を睨みつけている。

 昨日準備を整えた僕達だったが斥候の話しでは森の中腹辺りでオーク達は進軍を止め野営に入ったそうだ。流石のオークも夜目だけは効かないようで、明日の日の出と共に進軍してくるつもりなのだろう。

 その話しを聞いたダンは冒険者を三つに分け交代で森を監視しながら休みをとることを提案した。僕達は一番最初の見張りをし、一旦休み早朝からいきなり戦闘に参加できる部隊に配属された。されたというか愛莉歌が志願した。僕を引き連れて。

 彼女曰く「最初に戦闘に参加した方が経験値が稼げる」との事だが、僕は弱ってきた所を後方から支援したい。パーティに変更はなく柚姉を含めた三人パーティだが、今柚姉はこの場に居ない。貴重な回復要員として街近くの本陣で控えている。妙な所でゲームの設定に忠実なため、戦闘に参加できない柚姉の為に多くの経験値を稼ごうとする愛莉歌の気持ちもわかる……のだが、僕としては極力戦闘に参加したくない。


「イズ姉ぇ諦めなよ。ここまできたら一匹でも多くのブタを狩るよ!」


「愛莉歌……そのポジティブさが羨ましいよ」


 そんな会話をしながら準備運動を進めていく。最初から全力で戦う為に準備は怠らない。


「君たちは二人だけのパーティかな?」


 そんな中僕達に声を掛けてくる集団があった。確か三つの部隊に分けた時にここの部隊の主力って案内があった……え~と、何だっけ?


「そうですけど、何ですか?」


 僕が名前を思い出そうとしていると変わりに愛莉歌が対応してくれるみたいだ。しかし、その声からは明らかに不機嫌さを感じさせる。


「あ、いや、邪魔しに来たわけじゃないんだ。ただ君たちは少人数のパーティだし、大規模戦闘は今回が初めてだろう? だから一言アドバイスができればと思ってね」


「それは心遣いどうも。でも大丈夫ですから」


 折角相手のリーダーらしき男が声を掛けてきてくれたのに愛莉歌の態度は突き放すようなものだった。それに黙って居なかったのが彼のパーティメンバーだ。あからさまに態度を悪くし悪態をつく者まで出始めた。

 あ、思い出した。確かBランクの~“クリティカルダメージ”……だったかな?

 パーティにはそれぞれギルドからランク付けされ、自分達に見合った仕事を受ける事ができる。

 ランクは上からS、A、B、C、Dの順になっている為彼らは上から三番目のランクと言う事になる。当然組んだばっかしの僕達はDランクだ。


「まぁまぁクリティカルダメージの皆様落ち着いて、愛莉歌もちょと黙ろうな」


「俺達は“クリスタルダイナソー”だ!!」


 どうやら名前を間違えたようだ。まぁどうでもいいけどね。


「ったく、こんなガキしかいないのかよ。ダンの旦那が人手不足って言ってたけどここまでとはな」


「まったくだ。おいガキ共、戦闘は俺達がやるから後ろで見ているんだな」


 その言葉についに僕と愛莉歌がキレた。

 愛莉歌は目の前の男に狙いをつけると一瞬で加速し、足を払い転ばせるとそのまま喉を踏みつけた。

 僕は右手に持ったハルバードの刃をもう一人の首筋に突き付けた。


「Bランクと言ってもこの程度ですか。

 あなた方が言うガキの攻撃すら避けられないなら、帰ってママのおっぱいでもしゃぶっていればどうですか?」


 男たちは何が起こったのか理解できていのだろう。特に喉を踏まれている男は息も出来ないようで先ほどから口をパクパクとしている。

 僕達が行ったのは祖父に習った簡単な歩法だ。しかし、この世界にそんな流派は存在しない。当然反応出来る人は居ない……はずだった。

 リーダーと思われる男は左手で僕が抜き掛けた脇差を僕の手ごと押さえ込み、右手で愛莉歌の首元に片手剣を突き付けている。


「うちのメンバーが悪かったね。謝るからお互い武器を収めないか?」


「リーダー……」


 リーダーは何か言い掛けたメンバーを目で制し、頼むよと頭を下げてきた。まぁそこまでしてくれたのならこちらも手を引こうじゃないの。


「愛莉歌」


「チッ」


 いや、愛莉歌さん本当に態度悪いっすね。気持ちはわかるけど、もうちょっと我慢しようよ。

 僕がハルバードを地面に下ろすと愛莉歌が忌々しそうに足をどけた。ついでに左手の脇差を鞘に収めると彼は掴んでいた左手を放してくれた。


「いや、本当に悪かったね。戦闘前でピリピリしてたものだから」


「こちらこそ妹が迷惑を掛けました」


 僕がそう言って頭を下げるとリーダーは姉妹だったのかいと驚いている。


「僕は皐月出雲で、あっちのが宇喜多・アルトー・愛莉歌です」


「え、もしかして君たちも……」


 リーダーが何か言い掛けたが斥候に出ていた冒険者の一言で打ち消された。


「オークが攻めてきたぞーー!!」


 どうやらおしゃべりタイムは終了のようだ。


☆★☆★☆★☆★


 斥候の話しでは本隊ではなく、先発部隊らしいとのこと。数は五十体。

 迎え撃つ僕達はまず第一陣に三十人程。抜かれた敵を街までに討伐する第二陣が同じく約三十人。最後に先ほどまで夜間の見張りをしていた第三陣と回復などのバックアップを行う第四陣を合わせて四十人程。しかし、第三陣と四陣は街の中にいる為ここまで来られたらアウトだ。

 僕達は第一陣、柚姉は第四陣に配置されている。


「さて、斥候さんの言った通りだと一人一匹プラスアルファって感じね」


「僕は一匹でいいよ」


 異様にやる気の愛莉歌がフィストをぶつけ合い金属音を鳴らしている。まるで威嚇しているかのようだ。フィストが傷つくからやめてほしいんだけどな。

 その時僕達の頭上をいくつかの火の玉が飛んでいき目の前に着弾した。魔法使い(マジシャン)達の先制攻撃だろう。それにしてもいきなり撃ちこんでくるとか、どんだけせっかちなんだろうね。


「あ~! これだから花火屋は嫌いなのよ! 獲物が残らないじゃない!」


 花火屋とは愛莉歌が魔法使いの事を呼ぶときに使っている言葉だ。なんでもポンポン魔法を打ち上げるからだとか。ん~わからなくもない。

 部隊に配属された魔法使いはそう多くない。なのでこの攻撃の後は一旦引き魔力の回復に努めるだろう。そして先ほどのクリスタルダイナソーのリーダーが突撃の合図を出す。

 そう言えば名前聞き忘れたなぁ


「ほらイズ姉ぇ行くよ! こうなったら残りは全部私達で狩り尽くしてやるんだから!」


「ほどほどにね。譲り合いの精神は大事だよ?」


 何故愛莉歌はそこまでやる気に満ちているのだろう? 失敗して死んだらそこまでなのに……


★☆★☆★☆★☆


 オークは簡単に言ってしまえば二足歩行している豚だ。ただ体は大きく目測ではるが二メートルを超えていると思われる。その体は脂肪に包まれている為か打撃技が効きづらく剣や斧、槍などを装備して戦っている。


「虎激!」


 しかしここに例外が一人。愛莉歌だ。彼女は武闘家モンクのスキルと祖父に習った皐月流古武術を合わせ先ほどから迫りくるオークを殴り飛ばしている。我妹弟子ながら本当に人間かどうか疑ってしまう威力だ。


「イズ姉ぇ!」


「はいはい。破月!」


 僕は愛莉歌によって飛ばされてきたオークに対しハルバードを振るう。ちょうど上弦の月と同じ軌跡をなぞる事から着けられた技名だと祖父から聞いている。

 ハルバードは完全な半月を描くとオークにとどめを差す。僕は念のためにハルバードの尖端で額を刺しておく。


「それにしても何匹目だ?」


「さぁ? 五匹を超えてから数えてないわね」


 倒してたオークをアイテムストレージに片付けて僕は愛莉歌に質問する。彼女も途中でめんどくさくなったのか数を数えるのを諦めたようだ。

 戦闘が始まってからすでに二時間は経つ。初めは森から出て来たオーク達を狩っていたのだが、気が付いたら森の中で戦闘を行っていた。まさかとは思うがどうやらオーク達に森の中に引きこまれたようだ。

 後衛の柚姉から第二陣が今まで僕達が居た所に、第三陣が最終防衛ラインとして第二陣の場所へ出たと簡易チャットから報告が来ている。僕達はこのまま森の中で探索および討伐を続けるらしい。


「オークって言うのも案外頭がいいのかもね」


「ちゃんとした指示を出せない討伐隊のリーダーがアホなのよ」


 愛莉歌と会話を続けながらも周囲の警戒は怠らない。今更になって鍛えてくれた祖父に感謝する。


「じいちゃんに習ってなかったら危なかったな」


「本当に。師匠には感謝しなきゃね」


 とりあえず周りにオークの反応が無いのでこの場を移動することにする。


『この野郎! くらいやがれ!』


 その時遠くから男の声が聞こえてくる。一瞬だったので良く聞こえなかったが、最近聞いた声に似ていると思う。


「どうする?」


「行くしかないでしょ」


 僕達は一言言葉を交わし声が聞こえた方に走り出す。

 間に合えばいいけど。


★☆★☆★☆★☆


 声のした場所に行くと男の人が二匹のオークに囲まれていた。走ったかいもあり何とか男の人が亡くなる前に辿り着く事が出来た。

 しかし、その状況は最悪と言っていいだろう。何せ男の人は地面に倒され今にも殺されそうにしていたのだから。


「間に合え! “ランス・スロー”!」


 僕は剣士ソードマンの投擲スキルを使いハルバードを力の限り投げつける。

 投擲用のランスではないので真直ぐ飛ばなかったが何とか男の人を襲っていたオークの腹に突き刺さり攻撃を止める事に成功する。しかし、斧の刃が邪魔となり深くは刺さらなかったようだ。

 投擲用の槍もまた作り置きしておこうかな。


「まったく世話の焼ける……飛竜脚!」


 そして突き刺さったハルバードの柄を愛莉歌がスキルを使って思いっ切り蹴りつける。そして金属が折れる音と共にオークの腹に深々とハルバードが突き刺さった。

 斧の部分が折れたので今はただの槍となっているけど……。


「ああーー!! 愛莉歌お前壊すなよ!」


「折れるような作りにするからいけないのよ!」


「いや、アレ一応鋼鉄製のハルバードなんですけど……」


「作り直せばいいじゃない」


 簡単に言ってくれちゃってもう! 

 愛莉歌は腹を突かれたオークにとどめを刺す為に走り出した。僕はハルバード改め槍を諦め腰に差してある脇差を抜いて装備し、座り込んでしまっている男の人に近付いた。


「大丈夫です……。なんだあんたか」


 座り込んでしまっている男は愛莉歌に喉を踏まれていた男だった。こんな森の奥で戦闘をしているとは腐ってもBランクと言ったところか。


「とりあえず、さっさと片付けるから。邪魔にならない所に居てくれます?」


 僕は無傷で立っているオーク目がけて間合いを詰める。

 はぁ何で僕はこんなに戦っているんだろう。


 初めは茫然としていたオークも僕達が敵だと気付くと唸り声をあげ、手にした棍棒を力任せに叩き付けてきた。こんなの喰らったら一撃でミンチだろう。


「もう、めんどくさいな! 虎狼双牙!」


 僕は手にした二本の脇差をオークの右肩に振り下ろす。普通の腕力と武器だったら切り付けるだけで終わっただろう。だが、ステータスで強化された僕の腕力と僕が作った特注の武器は易々とオークの右肩を切り落とす。

 切断箇所から夥しい量の血液が噴き出し、オークの絶叫がこだまする。


「ごめんね。うるさい」


 僕は左手で喉を切り裂き、右手で心臓を刺しとどめを刺した。


「うっわ。イズ姉ぇグロすぎ」


 もう一体のオークを仕留めたのか愛莉歌が近付きながら僕が倒したオークを見て顔をしかめる。


「イズ姉ぇさ、戦闘はもっとエレガントにしなさいよ」


「命の取り合いをしているのにそんな余裕ないよ」


 愛莉歌が仕留めたオークは僕が突き刺した槍以外に外傷はなく地面に跪ように息絶えていた。

 真新しい外傷といえば胸のちょうど心臓辺りに殴ったような跡が……

 まさか愛莉歌の奴心臓だけを狙って殴ってないよな?

 僕達が習っている古武術には鎧を着込んだ相手を想定し、鎧越しに相手を倒す技もいくつかあるが……まさかね。


「イズ姉ぇ、ちょっと!」


 妹弟子の強さに戦慄を感じていたところに当の本人から御声がかかる。

 びくびくしながら愛莉歌のもとへ歩いていくと先ほどの男の人が座り込んでいた。


「なんか頼みたい事があるんだって」


「頼み事?」


 僕が視線を向けると男の人は畏縮してしまった。何さ、僕がそんなに怖いのかい。


「この先で、あのリーダーがボスと戦っているみたいなのよ」


「それじゃ加勢しに行きますか」


「待ってくれ! それだけじゃねーんだ!」


 男の必死な表情を見るからにとても重要な事のようだ。続きを催促すると男は慌てながらも話し始めた。

 男の話しをまとめると、どうやらあのリーダーの妹がオークに攫われたようだ。元々性欲が異常にたかいオークはしばしば女性を攫う事があるそうだ。


「戦闘の中で死ぬのは仕方がねぇと諦められる。これでも冒険者をやっているんだ、それくらいの覚悟は持っている。

 けどよ! モンスターの慰みものになるなんて酷すぎる! 勝手なことだとは重々承知してるが助けやってくれねぇか! 頼む!!」


 男は涙を流しながら頭を下げる。

 何か声を掛けようとした時、隣から地響きが鳴り響いた。音の発生源はどうやら愛莉歌のようで、よく見ると愛莉歌の足の形に地面が陥没している。

 え? 何この子。地面に足跡残すとかどんなステータスしてるの?


「男の人がめそめそと……泣いてる暇があればさっさと街に戻って傷治して出直してきなさいよ!

 それくらいの時間は私達が稼いであげるからさ」


 え~何なの。超男らしいですけど~僕の妹弟子。


 男は何度もすまないと繰り返し街に向って歩き出した。まぁこの道はオーク共はあらかた狩ったから戦闘になることはないだろう。


「さて、イズ兄ぃ。るよ」


「はいはい、ここまで来たらとことん付き合いましょ」


 僕達はそのまま森の奥を目指して走り出した。

出雲:レベル15 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【???】・脇差


愛莉歌:レベル16 職業:武闘家 サブ:???

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル13 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド

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