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6話 騒乱の予感

 街にたどり着くと何やら街全体が騒がしい。後ろの二入と顔を見合わせると彼女達も異変に気が付いているようだ。入口でぼーと立っている訳にも行かない為とりあえず冒険者ギルドを目指す事にした。クエストの報告もあるし、何か情報が入っているかもしれない。


 冒険者ギルドは多くの人でごった返していた。ここまでくると本当に何かあるのではないかと思っていしまう。


「何かあったのかしら?」


「酔っ払いが暴れてる雰囲気でもないね」


 後ろの二人はそんな会話を続けいる。酔っ払いが暴れて街中が騒がしくなるなんて一体どんな酔っ払いだと思ってしまったのが顔に出ていたのだろう。横っ腹に愛莉歌の肘が突き刺さった。

 痛む横っ腹を摩りながら冒険者ギルドに入ると街中以上の喧騒に包まれていた。

 祭りの様な騒ぎに驚きつつも何が起こっているのか手近な人を捕まえて質問してみた。


「どうやらオークの集団が攻めてきてるらしいぞ」


「なんでも初心者がオークの集落を刺激しちまったようでな。このままじゃ街がやられちまうってんで冒険者は全員ギルドに集合するよう御触れが出たってわけだ」


 なるほど、それは迷惑な話しだ。冒険者達にお礼を言って一路カウンターを目指す。カウンターならより詳しい話しも聞けるだろう。



☆★☆★☆★☆★


 カウンターまでようやくたどり着くと登録してくれたお姉さんがちょうど手が空いてるようだったので声をかけた。また質問かとうんざりした顔をしたのでクエストの報告だと伝えると今の自分の表情に気が付いたのか苦笑いをして手続きをしてくれた。

 今回はゴブリンの討伐という事で報酬は三〇〇アルバが支払われた。三人で頭割りすれば大体宿泊費の二日分となる。まぁ初心者向けのクエストならこんなものだと柚姉に教えてもらった。拾った武器を売ればもう少しいいもになると愛莉歌が続けて教えてくれる。


「それで、一体なんの騒ぎなんです?」


「あ~やっぱり聞いちゃいます?」


「聞いちゃいます」


 お姉さんは「来たか~」とさらに苦笑いをしながら詳しく教えてくれた。

 話しを聞くとどうやら今朝僕達からオーク討伐のクエストを横取りした冒険者達がやらかしたようだ。

 ここからはお姉さんからの又聞きになるのだが、クエストを横取りし僕らと同じ森へ入ったパーティはオークを順調に狩っていたそうだ。そして森の奥でオークの集落を発見する。調子に乗っていたパーティはそのまま手を出してしまったようだ。

 しかし、手を出したのは間違いだった。今までの戦闘も三人で一匹のオークを囲み、あのナイフによる高威力でゴリ押しする形をとっていたのだが何分数が違い過ぎる。そして死にかけたリーダーの男と女の二人が帰ってきたそうだ。そう、三人でなく二人だ。

 リーダーである男は残りの一人は自分達を逃がすために残ったと言い張ったが、女の方が死んでも生き返るからとリーダーが言い張りオークの集落の真ん中に置き去りにしてきたそうだ。

 死んだらお終いなのにねとお姉さんが悲しそうに呟いた。その言葉は僕達にも重くのしかかった。この世界はゲームではない。死んだらそこで終わりなのだ。お姉さんの言葉に全員が黙ってしまう。


 その後、男はこのギルドに運ばれ処置をしたのだが手遅れで先程息を引き取ったそうだ。男は最後まで「これはゲームだろう? またセーブポイントで生き返るんだ」と言っていてたそうだ。当然周りの人達は言っている意味が解らず、痛みで混乱しているのだろうと結論付けたそうだ。残された女は今リーダーの側に居たいといい。部屋に閉じこもっているそうだ。


 しかし、最悪なのはここからだった。なんと男達のパーティはオーク達に後をつけられていた。集落を襲われたオーク達はこの場所を目指して徒党を組み始めたと斥候が確認したそうだ。


「だからあと少しで緊急クエストが発行されるわ、内容はこのアルス・テルスの防衛。

 そして帰ってきたばっかりのあなた達は運が悪いのだけど、冒険者は全員強制参加なの」


 お姉さんはとても申し訳なさそうな顔をしてくる。それほど勝ち目がない戦いなのだろう。

 二人の意見を聞こうと振り返った所で大柄な男が声を張り上げた。


★☆★☆★☆★☆


「あ~皆、わざわざ集まってくれて感謝する。俺はここのギルドマスターをやらせてもらっているダン・ヤンセンという」


 どうやら正式に緊急クエストが発行されるようだ。ダンと名乗った男が話しを続ける。


「話しは既に聞いてると思うが、オークがこの街を目指して進行中だ。アルス・テルスの防衛隊からエルフ達が百名程志願してくれたが、問題を起こしたのは俺達冒険者だ。ならばそれを解決するのも俺達冒険者の仕事だと俺は思う」


 なるほどね、言っている意味はわかる。わかるけどそれはエゴだよ。


「そこで皆の力を借りたい。是非このアルス・テルスを護る力を貸してくれないか」


 ギルマスの言葉に大勢の冒険者が声を張り上げ同意する。しかし、その中にもやはり反対意見はあるそうで「守備隊に任せればいい」「こっちに連れて来た奴に責任をとらせろ」などと野次も飛んでいる。

 ダンは一回大きく頷くと再度声を張り上げ説明をし始めた。


「確かに、事を起こした者に責任を取らせるのは道理だ。しかし、死人に責任を負わせることはできまい。一人はオークの集落で、そして残りの二人はこの街に辿り着いてから息を引き取った」


 おかしい。死んだのはリーダーである男だけで、女の人は部屋に閉じこもっているって言っていたのに……女の人はどうしたのだろう? 思わずお姉さんを見るとちょいちょいと手招きされた。近付くと小声で真相を教えてくれた。


「さっき確認したら女の子は逃げちゃったわ。装備など諸々をここに捨ててね。多分オークをこの街に呼び込んだ重圧に耐えられなかったのでしょうね」


 お姉さんの言葉に僕は開いた口が塞がらなかった。自分達の軽率な行動で何百人と言う人の命を危険に晒し、その責任を負わずに逃げ出すなんて……怖かったの一言では許されない。


「でもここで逃げたなんて言ったら大変な事になるでしょう? 幸い装備何かが残っていたからこれで死んだ事にするわ。当然だけど余所の街に行ってももう冒険者としては活動できないけどね」


 お姉さんはそう言うと彼らが装備していたものを見せてくれた。そこにはあのナイフもあった。


「あの、このナイフ……」


「あ~これ? すっごいなまくらで薪も切れなかったわ。こんなナイフじゃオークなんておろかボアボアにだって勝てないのにね」


 ナイフを手に取って見ているとお姉さんが色々と説明してくれた。

 鈍ら? そんな訳ないんだけどな……

 僕はナイフの情報を取り出し確認するとあることに気が付いた。なるほどね、アイツ買ったはいいけど使い方を知らなかった・・・・・・・・・・んだ。


「これ貰ってもいい?」


「まぁどうせ捨てるものだから別にかまわないけど、すっごい鈍らよ?」


 それでもいいと伝えるとお姉さんは肩をすくめ、ナイフをそのまま置いて行ってくれた。僕は改めてナイフを手に取って眺める。

 幅広い刀身は『く』の字に曲がっておりずっしりとした重みがある。いわゆるククリナイフと呼ばれる種類のナイフで柄には僕の作品である事を示す白い兎のマークが刻まれている。


「イズ君そのナイフどうするの?」


「どうするって当然使うよ」


 柚姉の質問に素直に答える。すると愛莉歌が眉をしかめながら反対してきた。


「あのお姉さんが鈍らだって言ってたじゃない。いくらイズ姉ぇの作品だからって切れなければただの鉄の塊だよ」


 愛莉歌の意見はもっともである。ただ、このナイフには決まった使い方・・・・・・・があるのだ。それを知らなかったあの男は武器を過信しすぎて死んでしまった。


「まぁ見ててよ。見事甦らせてみせるからさ」


 僕はとりあえず不機嫌な愛莉歌の頭を撫でておく。愛莉歌は「触るなバカ」と言うがその声は小さく弱弱しい。その光景を羨ましそうに柚姉が見ていたのでとりあえず微笑んでおいた。


「戦闘開始まではまだ時間があると思う。参加者はそれぞれ準備をしてくれ」


 調度ダンの演説も終わったようだ。先程のゴミ・・を片付けたお姉さんが一枚の紙を持って戻ってきた。そして泣きそうな顔をして差し出してくる。


「はい、あなた達のクエスト用紙よ。ここに名前を書いてから提出してね。

 ……ごめんなさいね。本当なら昨日登録したばかりのあなた達は参加しなくてもいいはずなんだけど人手が足りなくて……勝手な事を言うのは重々承知しているけどあえて言わせてもらうわ。“お願い、私達の街を護って”」


 そんな泣きそうな顔で言われたら断わりずらいじゃないか。


「出来る限りやらせてもらいますよ」


 僕は笑顔で返す事にした。その笑顔と声を聞いたお姉さんは何とか微笑んでくれた。


「そう言えばまだ自己紹介をしてなかったわね。私はリサ。リサ・フリースよ。

 このクエストが終わったら一緒に飲みましょう。私が奢っちゃうわ」


 リサさんはそう言うとカウンターの奥へと行ってしまった。するとたちまち僕の左右を仲間に固められた。


「年上なら誰でもいいわけ?」


「私と筑紫つくしちゃん以外のお姉ちゃんは認めないわよ」


 何故だろう。僕はたった今これから戦いに赴くための格好いい会話を繰り広げたはずなのに。理不尽だ。ちなみに筑紫と言うのは僕の姉さんの名前だ。

 その後、柚姉からはいかにお姉ちゃんと言う存在は貴重かという話しと愛莉歌からは歳下の重要性をステレオ放送で聞かされた。正直戦い前になにをやっているんだろう。


☆★☆★☆★☆★


 戦闘が始まるまでにまだ時間があるという事で僕は柚姉達に話しを付けてバルドのおっちゃんの店を訪ねる事にした。こっちは命がかかっているのだ。この際バランスブレイカーがどうのとか言っている場合ではない。今の僕に出来る事をやるんだ。


「おっちゃん! 工房貸して!」


「おっちゃん!?」


 バルド武具店のドアを壊さんばかりの勢いで開け、中に居たバルドを捕まえると頭を下げてお願いをした。当のバルドはいきなりおっちゃん呼ばわりされたことに目を丸くしていた。


「いきなりなんでぇ! ……って昨日来てくれた嬢ちゃんか。いきなりどうした?」


「おっちゃん工房貸して! クエストまでに作りたいものがあるんだ!」


「貸すのはいいが、お嬢ちゃん免許はもっているのかい?」


 鍛冶師に限らず工房を使うには免許がいる。まぁ当然それはサブ職業に就いているかと確認する為なのだが、こんなところまでゲームと同じにしないで欲しい。

 僕はギルドカードをバルドに見せつける。バルドは突きつけられたギルドカードを手に取ると書いて文字に言葉を無くした。


「それでいいでしょ? じゃ工房借りるよ!」


 僕は固まっているバルドからギルドカードをひったくるとそのまま工房に飛び込む。実はゲームの時に何回も来ているから工房の場所は目を閉じていてもたどり着ける。勝手知ったる他人の家と言った感じだ。


「よ~し、やるぞ~」


 僕はメニューを表示してクラフトモードに切り替える。サブ職を生産系にしている人だけが使えるこのクラフトモードは生産には欠かせないものだ。何にも知らないズブの素人でもこのクラフトモードがあればあっという間に名工に早変わりだ。まぁプレイヤーのレベルにもよるけどね。

 そして僕のクラフトモードは『職業:工匠』の最高レベルだ。これで作れないものはない!

 コンソールをいじり成功率を下げボーナスを最大値にまで振る。そして装備に追加要素を込めていく。素材は街の商店などで投げ売りされていたのを片っ端から買ったので残っていた手持ちのお金を全て使ってしまった。しかし悔いはない。どうせ負けて死ねばそこで終わりなんだ。なら全部を注ぎ込んでやるだけさ!

 僕は設定の終わったインゴットに向って右手に握りしめた金槌を振り下ろした。



 何とか僕達のパーティ全員分の装備を完成させると同時に街中にダンの声が響きわたる。どうやら最期のミーティングをするので冒険者はギルドへ集まって欲しいという連絡だった。

 流石は風の妖精領。声を街全体に届かせる設備まであるとは。


 僕は出来上がった物をアイテムストレージに詰め込み工房を後にする。

 ついでに未だ呆けているおっちゃんに声を掛けておいた。何を言っても「おー」しか返ってこなかったけどね。

 おっちゃんの工房を後にし全速力でギルドまで走るとすでに多くの冒険者が集まっていた。僕は二人の姿を探す為に辺りを見渡す。すると意外と簡単に見つかった。二人はカウンター前でリサさんと何か話し合っていたからだ。


 僕は小走りでカウンターまで近づいた。すると喋っていた全員が同時にこちらを向くのでちょっとビビってしまう。


「お、お待たせ」


「遅いわよ!」


「そんなに慌てて来て、転んだりしなかった?」


 柚姉の中で僕は何処まで行っても子供のようだ。まぁいいんだけどね。


「あなた有名な職人さんなんですって? 人は見かけによらないわね~見直しちゃったわ」


 リサさんも会話に参加してくる。というか柚姉達はそんな事を話していたのか。


「あ~実は職人やってます。あ、でもまだまだそんなに有名じゃないですよ。駆け出しのペーペーです」


 僕はリサさんの質問に答えながら柚姉には防具、愛莉歌には武器と防具をそれぞれ手渡す。


「柚姉は防具だけでゴメン。本当は杖も用意しようとしたけど、いい魔法石が無くて」


「相変わらずイズ君は凄いものを作ってくるわね~」


 柚姉に手渡したのはローブが一着。しかしただのローブじゃない。防御力はそこらのプレートメイルと同等位か少し上。そして追加効果として魔力の底上げと回復力の上昇をセットしてある。


「ほい、愛莉歌はこれ」


 僕は愛莉歌に鋼鉄製のフィストと道着、そしてレッグアーマーを手渡した。


「あ、フィスト……あの時の覚えておいてくれたんだ」


 以前おっちゃんの店で爪ではなくてフィストが欲しいと言っていたのを覚えていたので鋼鉄製のフィストと蹴り技用にレッグアーマーと言うか甲冑靴を作った。あとそれに合う道着もセットで。


「ねぇ……これ見た目は初期の方に手に入る『鋼鉄のフィスト』なのに攻撃力が異常なんだけど……」


「だから言ったでしょ? イズ君の作るものは凄いって」


 ステータス画面で僕の作った装備を確認していた愛莉歌から呆れた声が聞こえてくる。それと同時に何故か勝ち誇った柚姉の声も。


 二人に装備を渡すと自分の装備を確認する。時間が無かったので僕は武器だけだ。鋼鉄のハルバードに脇差を二本、そして先ほどのククリナイフだ。脇差は刀属性のショートソードに分類される武器である程度レベルを上げると作ることができる。本当は和槍も用意したかったけど、ちょうどいい木材が手に入らず購入したハルバードを強化する方向で我慢した。

 すべての準備が出来た時ダンの声がギルド内に響きわたる。


「さて、諸君! 戦の時間だ!!!」


 僕は震える膝を武者震いと思う事にして、周りにいる冒険者の人と一緒に大声でダンの言葉に答えた。

出雲:レベル14 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【???】・脇差・鋼鉄のハルバード


愛莉歌:レベル15 職業:武闘家 サブ:???

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル13 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド

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