管理社会
「おはようございます、市民よ。起床の時間でございます。」
部屋の壁に埋め込まれたスピーカーから、あまりにも無機質な声が響き、同時にベッドが左右に大きく揺れて、この部屋の住人を無理やり起こした。
「はいはい、わかりましたよ。」
男は悪態をつきながら、まだ少し揺れているベッドから起き上がった。
現在、人間の生活は、すべてPCによって制御されている。皆首にマイクロチップを埋められ、GPSによる現在地の把握、会社の勤怠管理、さらには買い物のデータから摂取カロリーまで、随時情報が専用の大型PCに送られる。そして、更に大規模なPCが分析し、ホストPCが分析結果から生活習慣、仕事、結婚相手に至るまでを決定、管理、そして遂行をさせている。もし、この決定に逆らうと、言葉では言い表せない酷い目に合うと言われている。そのため、今生きている人たちは、死んだ魚の目で街を歩き、生活をしている。
「そんなのも、今日で終わりだ…。」
男はつぶやき、スーツを着て、GPSを無効化するマフラーを巻き外へと出ていく。そして、出勤するのとは真逆のルートを通り、彼の仲間が集まっている雑居ビルへと入った。
「やあ、おはよう。『同志』よ。」
中にいる、学生、OL、サラリーマンと、集まった様々な人から声をかけられる。ここに居るのは、PCに管理された生活を拒否する、秘密団体のメンバーだ。男は机の前に立ち、周りを一度見た。
「諸君、これから、世界は変わる!昨日我々の『同志』が仕掛けた、一つの爆弾によってな!」
声を上げると、集まった人々も大きな声で答えた。
「これから、10分後、時計の針が重なる時、我々は自由を手にする!それまで、ここで待つのだ!そして、自由を謳歌するのだ!」
大きな歓声が上がった。そのまま人々は周りの人たちと談笑したり、世界が変わることを喜んだり、これまでの苦労をねぎらったりしあった。
時計の針が大分進んだ頃、雑居ビルの扉を思いっきり開け、一人の小柄な男が飛び込んできた。
「大変だ、みんな!」
その大きな声に周りはしんとなった。そんな中、机の前に居た男が、小柄な男に近づいた。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「大変なことがわかったんだ!」
「わかったから、その大変なことを話してみろ。」
「実は、ホストPCを破壊すると特殊な電波が発せられることがさっき分かったんだ!ホストPCがほかの国に取られないようにする措置で、その電波は俺たちの首にあるマイクロチップに作用して、管理している人を死に至らしめるんだ!」
そこにいる全員が、一気に青ざめた。
「はやく、爆弾を止めるんだ!このままでは、みんな死んでしまう!あと時間はどれだけあるんだ!」
小柄な男名前に立つ男は、青ざめながら左手に巻いた腕時計を見た。
そのとき、かちりと音が鳴り、短針と長針が重なった。