ep4 太陽
20XX年12月25日、クリスマス。
今日の澪は昨日に比べると、格段に元気だった。
◇ ◆ ◇
「初めまして!私は、…私は…、…誰?」
僕の中で時が止まり、何かが崩れ落ちた。
「あ、れ…?私は、誰…?ここは、何処!?」
澪が激しく頭を左右に振り、髪を乱す。
「大丈夫。大丈夫だよ」
「嫌っ!誰なの!!私は、誰なの!?」
取り乱す澪を優しく包み込む。
「大丈夫、怖くないよ」
「嫌っ!!嫌っ!!」
僕は深呼吸を一つして、澪をぎゅっと抱きしめ、耳元で呟く。
「落ち着いて、澪」
「み、お…?澪?
―――――それが、私の名前…?」
澪が僕を見上げる。
その目には、今にも溢れそうなほどに、涙が溜まっていた。
僕は澪が落ち着くように、優しく微笑む。
「そうだよ。君は、澪」
「み、お…。
―――――じゃあ、君は?」
「僕は、太陽」
「うずひ…」
少し落ち着きを取り戻した澪の長く、黒い髪を優しく撫でる。
「大丈夫。大丈夫だよ、澪。
―――――何があっても、僕が君のそばに居るから」
「ほん、と…?本当に?
―――――ずっとそばに居てくれる?」
澪が僕の体にしがみついてくる。
「居るよ。君が僕を望んでくれる限り」
僕は微笑む。
「ホントの、本当に…?」
澪が疑り深く僕を見る。
「ホントの本当だよ。
―――――僕は君に嘘はつかないよ」
僕は苦笑する。
記憶のあったころの澪は、もっと強くて…弱音を吐いたり、寂しそうにすることもあまりなかった。
記憶がないことも理由だろうが、きっと今の澪があの澪の中に静かに眠っていたのだろう。
「約束、だよ…?」
「うん。約束するよ」
「指きり…」
「ううん。僕も澪も忘れないように―――――」
そう言うと、僕は澪の桜色の唇に、自分のそれをそっと重ねた。
澪は目を見開いて驚いたが、僕の背中に手をまわした。
「約束したよ?」
「う、ん…」
「僕は絶対に忘れない。
―――――だから、君も忘れないでね?」
「うん…!」
澪は目に溜めていた涙を流しながら、とてもうれしそうに微笑んだ。
それが僕の見た澪の最後の笑顔だった。
澪は12月25日、PM10:38にその生涯に終止符をつけた。
まだ15歳だった。
あと2時間もすれば、一緒に16歳を迎えることが、祝うことが出来たのに…
彼女の病は、それを待ってくれなかった。
それでも僕は思う。
僕が見た澪の最後の笑顔は、今までで一番の笑顔だった、と。