ep3 澪
20XX年12月24日、クリスマスイヴ。
僕らの16回目の誕生日まであと二日、というところで、澪は体調を崩した。
◇ ◆ ◇
「君、は…?まぁ…誰でも、いいや……。私は、澪っていうの…」
澪にはいつもの元気は残されていなかった。
そして、人工呼吸器で半ば強制的に呼吸している澪見て、つらくなった。
分かってる。
一番つらいのは、澪なのに。
「あのね……私、明後日誕生日なの…。
―――――いいでしょ~……。楽しみだなぁ~…」
「そうだね。
―――――一緒に盛大にお祝いしないとね」
「うん…。幼馴染の子と、一緒にケーキを食べて…、一緒にお祝いするの……」
彼女は、少し疲れたような顔になりながらも笑う。
「大切なんだね、その幼馴染の子が」
「うん…。太陽みたいに…優しくて、あったか、い笑顔…なんだよ…」
彼女は、目を伏せる。
「名前…なんだったんだろう…?すごく…優、しいの…。すごく、あったかい…の…」
僕は静かに目を伏せる。
決めたじゃないか。
澪が僕を忘れてもそばに居るって。
約束したじゃないか。
ずっと一緒に居るって。
「なんていう、名前…だったんだろう……?」
「思い出せると、いいね」
僕は微笑んだ。
つもりだった。
澪の手が伸びてきて、僕の頬に触れる。
「なんで…泣いてる、の…?」
澪に言われて気付く。
頬が濡れていた。
「分から、ない…。けど……止まらない…」
本当に分からない。
止まらない…。
澪の中から僕が消えてしまうことは、分かっていたことなのに…。
直面すると、涙が止まらない…。
「…優しいんだ、ね。君は…。
―――――私の、幼馴染に…そっくり、だよ……」
「っ…。
―――――大切なんだね、その人が」
「うん…。好き、なの…。世界で、一番…好き、なの…」
澪が笑う。
僕が見た中で一番静かに、なにより美しく。
「す…き、なの……。す、き……ぅず…ひ…」
澪が瞳を閉じる間際に呟いた言葉は、僕の名前のように聞こえた。
病室のベッドで眠る澪の手は、温かかった。
「澪…。好きだよ…。
―――――愛してる」
澪の桜色の唇に、自分のそれをそっと、優しく重ねた。
澪が僕を忘れてしまっても構わない。
それでも僕を、最後までここに居させてね、澪。