表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

ep3 澪

20XX年12月24日、クリスマスイヴ。

僕らの16回目の誕生日まであと二日、というところで、澪は体調を崩した。


 ◇ ◆ ◇


「君、は…?まぁ…誰でも、いいや……。私は、澪っていうの…」

澪にはいつもの元気は残されていなかった。

そして、人工呼吸器で半ば強制的に呼吸している澪見て、つらくなった。

分かってる。


一番つらいのは、澪なのに。


「あのね……私、明後日誕生日なの…。

 ―――――いいでしょ~……。楽しみだなぁ~…」

「そうだね。

 ―――――一緒に盛大にお祝いしないとね」

「うん…。幼馴染の子と、一緒にケーキを食べて…、一緒にお祝いするの……」

彼女は、少し疲れたような顔になりながらも笑う。


「大切なんだね、その幼馴染の子が」

「うん…。太陽みたいに…優しくて、あったか、い笑顔…なんだよ…」

彼女は、目を伏せる。

「名前…なんだったんだろう…?すごく…優、しいの…。すごく、あったかい…の…」

僕は静かに目を伏せる。


決めたじゃないか。

澪が僕を忘れてもそばに居るって。

約束したじゃないか。

ずっと一緒に居るって。

「なんていう、名前…だったんだろう……?」

「思い出せると、いいね」

僕は微笑んだ。


つもりだった。


澪の手が伸びてきて、僕の頬に触れる。


「なんで…泣いてる、の…?」

澪に言われて気付く。

頬が濡れていた。

「分から、ない…。けど……止まらない…」


本当に分からない。

止まらない…。

澪の中から僕が消えてしまうことは、分かっていたことなのに…。

直面すると、涙が止まらない…。


「…優しいんだ、ね。君は…。

 ―――――私の、幼馴染に…そっくり、だよ……」

「っ…。

 ―――――大切なんだね、その人が」

「うん…。好き、なの…。世界で、一番…好き、なの…」

澪が笑う。

僕が見た中で一番静かに、なにより美しく。

「す…き、なの……。す、き……ぅず…ひ…」

澪が瞳を閉じる間際に呟いた言葉は、僕の名前のように聞こえた。


病室のベッドで眠る澪の手は、温かかった。

「澪…。好きだよ…。

 ―――――愛してる」

澪の桜色の唇に、自分のそれをそっと、優しく重ねた。



澪が僕を忘れてしまっても構わない。


それでも僕を、最後までここに居させてね、澪。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ