ep2 僕
僕と彼女が初めて出会ったのは、19XX年の12月26日。
同じ日に、同じ病院で生まれたときだった。
◇ ◆ ◇
「太陽君…あのね、…澪、記憶障害のある病気なんだって………」
え…?
「記憶…障害…?」
澪が?
「そう…。
―――――段々記憶がなくなっていって…最後には…さい、ごには……」
さい、後?
「最後には…自分が誰なのかも分からなくなって、死んでしまう病気なの……うぅ…っ…ぁあ…」
おばさんは、その場に泣き崩れる。
「愛、しっかりしろ…」
そう言い、おばさんを支えるおじさんも、どこか悲しそうな様子だった。
「太陽君…記憶がなくなっていく澪のそばに……これからも、ずっと居てやってくれるかい?」
澪が…僕を、忘れる?
「澪は、このことを…」
口にしてから思い至る。
澪のことだから…
「強引に誰かから聞き出したんですね…」
おじさんは、おばさんの肩を抱き、目を伏せる。
やっぱりそうか…。
馬鹿澪め…。
「僕、澪のところへ行ってきます」
二人にそう告げると、足早に澪のいる病室へと向かった。
◇ ◆ ◇
病室に入ると、そこにはいつもの明るい澪は居なかった。
「……うず、ひ…」
澪は僕の姿を見ると、既にいっぱい溜まっている涙をさらに溜める。
「…馬鹿澪」
澪のベッドに腰掛けると、澪が僕にしがみついてきた。
「…うずひ…!太陽…!!」
しがみつきながら、溜めていたすべての涙を一気に流す。
「…馬鹿だなぁ、澪は」
色々な意味を込めて呟く。
知らなくても良いことを、自分で知りにいって、傷ついて。
例え澪が僕を忘れても、澪自信が自分を忘れても、僕は澪のそばに居るのに。
そんなことをきっと考えているであろう澪に、もう一度「馬鹿」と短く言い、強く抱きしめた。
「…太陽っ…」
「君が僕を忘れても、僕は嫌いになってどこかに行ったりしないよ?」
澪はせっかく流しきった涙を再び溜め始める。
「澪…」
溜まった涙が流れ出す直前で、僕がその涙をすくう様に口付ける。
「太陽っ…。約、そくだよ…?
―――――私が、太陽を忘れても、嫌いになって、どこかに行ったり、しないで、ね…?」
僕らは指切りをし、約束した。
互いを嫌いにならない、と。
互いを忘れても、そばにいる、と。
そして澪は、僕を忘れた。
それでも僕は、彼女のそばにいる。