ep1 彼女
19XX年 12月26日 AM10:03
彼女は生まれた。
◇ ◆ ◇
「初めまして!私は…そう!澪っていうの!!
―――――あなたは?」
もう何度目か分からない答えを、僕は彼女に返す。
「初めまして…。
―――――僕は『太陽』って書いて、『うずひ』」
「うずひ…。『太陽』って書いて、『うずひ』…」
彼女は覚えこむように、確かめるように、僕の名前を舌で転がす。
「良い名前ね!」
僕はそう言う彼女に微笑む。
彼女は、会うたびにそう言った。
「笑った顔は、名前の通り『太陽』みたいね」
そう言い微笑む彼女の顔の方が、僕には太陽のように見えた。
「太陽は、誕生日いつなの?」
「12月26日…」
「え!そうなの!?
―――――じゃあ、私と一緒だね!」
彼女はいつも元気いっぱいで、いつも明るかった。
「そうだね」
半ば機械的に、僕は答える。
「じゃあ、一緒にお祝いしよう!!」
「うん」
「盛大にね!!友達もたくさん呼んで!!」
「そうだね…」
そう言うと、彼女は右手の小指を、僕の右手の小指に絡めた。
「指きりげんまん嘘ついたら―――――」
この指切りも、もう何度目か分からない。
「指きった!!
―――――ぜぇ~ったいに、忘れないでね?太陽!!」
「…うん……」
微笑む彼女を前に、僕は喉まで来ていた言葉を飲み込んだ。
いつだって、忘れてしまうのは君の方なのに。