記憶
急に書きたくなりました
故に書きました
読んでいただけば嬉しいです
体が痛む
何故、体が痛む?
わからない
何もわからない
何も思い出せない
自分が誰なのかすら…
目を覚ます
始めに目に入ったのは白い天井
そして『たかし』と何度も叫ぶ女の人の声
誰かに手を握られる
とても暖かい
ゆっくりと体を起こす
自分はベッドの上にいるようだ
体には点滴など数本の管
ベッドの周りには数人の人
左側には
白衣の男の人
ナース服の女の人
両隣、向かい側にもベッド
ここは…病院のようだ
右側には
中年の男女
若い男
みんな涙を流している
『たかし』何度もそう繰り返した
そして『良かった』と
この人達は誰?
何故自分に向かって泣いている?
女の人がペタペタと確かめるように顔を触ってくる
『私誰だかわかるかい?』
と言われたが首を傾げることしかできない
困った顔をするととても悲しげな顔をされた
『私はあなたの母親よ』
…お母さん
わからない
この人はお母さん…らしい
そうなるとこっちの中年の男の人がお父さん?
若い男は兄…?
大まかに予想してみる
目の前に母親、父親、兄
じゃあ、自分は誰?
『たかし』
みんながこっちを向いて『たかし』という
自分は『たかし』?
それが自分の名前なのか
医者によると『記憶喪失』になったらしい
なんで記憶喪失になったのかも自分ではわからない
今の自分には過去はない
今、この瞬間にぽっこりこの世に生まれたような
そんな感覚
自分が誰なのか
目の前の人が誰なのか
わからないことだらけ
まるで生まれたての赤ん坊のよう
何かがきっかけで突然記憶が戻るらしい
時の流れに身を任せることしかできない
なにもかもがよくわからないまま時間だけが過ぎる
毎日毎日自分は誰なのかと自問自答する
正解は出ない
いくら考えても答えは見つからない
時間が経てば経つほど自分が怖くなる
自分がどこの誰かもわからない
人に聞いた話でしか把握できない
今の自分に過去はない
過去のない自分には未来もないのではないかと思えてくる
明日が来ないような気がしてくる
怖い
怖くて仕方ない
何もわからないのがどうしようもなく怖い
心の中にはなにもなくて
すっからかんの心は暗く冷たい
心の中の闇がいつか自分自身を殺してしまいそうで
明日が来ないのも怖い
でも、明日が来るのも怖い
わからない
どうしたらいいのかわからない
いろんな場所に行ってみる
刺激を受けたほうが思い出すと言われ、兄に連れて行かれた
覚えのない思い出の場所
知らない人の家
見たこともない景色
自分は知らないのに相手は自分を知っている
自分の知らない自分を知っている
それがどうしようもなく気持ち悪い
怖い
最後はここ、兄に連れてこられた丘の上
一本の桜の木が堂々と咲き誇る
何もわからないはずの自分が、何故だかこの場所には安心感を感じる
懐かしい感覚
初めてこの世界で自分の知っているものに出会ったような気がした
桜の向こう側は墓場になっていた
兄は、その中の一番桜の木に近い墓を指差した
墓には『花園桜』と刻まれていた
「はなのぞ…さくら」
強い風が吹く
たくさんの花びらが散り、全身を花びらにつつまれる
美しく儚い桜
花びらの渦の中で一人の女の姿が思い浮かぶ
「さ…くら……桜っ!!!!」
花びらの中で自分の過去が高速でフラッシュバックされる
そして最後に思い出された記憶
目の前で愛する人を失った記憶
自分を守るために愛する人が命を落とした記憶
全てを思い出した
『花園桜』自分が心から愛した人
自分を心から愛してくれた人
記憶がなくても体が覚えていた
ここは兄との思い出の場所じゃない
桜との思い出の場所
他のことは全部忘れてまここだけは忘れていなかった
目を覚ましたその瞬間から暗く冷たい闇の中にいた
その闇に一筋の光が差した気がした
手を差しのべてくれているようだった
暗く冷たい闇から
美しく儚い桜が
愛する桜が
僕を救い出してくれたんだ
「君には救われてばかりだ…」
この命も
この記憶も
救ってくれた
「…なのに…なのに僕は君を救うことが出来なかった!!!!」
愛する桜
もう会うことは叶わない
読んでいただきありがとうございます
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