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ばんっ!
「なにしてんだ、あんたら。先生呼ばれたくなかったら早く消えな」
放課後の教室。
泣きそうになってる女の子。
破かれた教科書。
いじめていたと思われるいつもの顔ぶれ。
あたしの姿に男子たちの顔が引きつった。
「げ、紺野!!お前、さっき帰っただろ、なんで戻ってくんだよ!」
「忘れ物。ほら、陽子ちゃん一緒に帰るよ。あんたらもその教科書よこしなさい」
泣きそうになってる陽子ちゃんを保護しつつ、男子から教科書を奪い取る。
「なんてことすんのよ、男子!」
「休み時間になんか相談してると思ったら、バカなことして」
「うっせー!お前ら女子だって紺野が前に来なきゃ何にもしねえくせに!」
「一人でいる方も悪いだろうが!」
あたしの手を握り締めて泣く陽子ちゃんを軽く撫でて、帰りを促す。
「帰ろう、陽子ちゃん」
「うぅ……ありがと。笙子ちゃん」
覚えてろよ!!
昔懐かしい捨て台詞を残して走り去っていく後姿。
「ごめんね、笙子。あたしたちだけじゃあいつら退かないから……」
悔しそうに言うクラス委員の小町。
「大丈夫。おっかない顔も使いようでしょ」
美人さんが睨むと迫力あるよね。
顔は最大限に有効利用しようって決めたからね。
現在小学校4年生
男子対女子の対立に巻き込まれました。
1~3年生はね、なんだか拍子抜けするくらい順調だった。
心配してたあいつはこの学校にはいないみたいだったし、友達もできた。
んで、現在4年生。
火種はもともとあったんだろうね。
爆発したのは、とある男子がとある女子の告白を断ったのが原因かな。
だんだんエスカレートしていく対立を薄々気づいているだろう学校側はなにも言わない。
今日だって教室に戻ってくる前に先生のとこに行ってきたのに、他の先生に相談してみるとかで色よい返事は来なかった。
もうちょっと早く戻ってくれば陽子ちゃんは泣かなくて済んだのに。
いじめられてる子に肩入れしちゃうのは、前の思いが残ってるからだろうな。
誰も助けてくれない、あんな思いはもうたくさんだよ。
「笙子ちゃん!!聞いてよ!ひどいんだよ!」
男子が去った後の教室にわんこが飛び込んで、更には背中にへばりついてきた。
「……優太、空気を読め」
「だって、せっかく笙子ちゃんに頼んで作ってもらったクッキーを持っていかれたんだ!」
そんなこと?!
たかが調理実習のクッキーを食べれなかったことが悔しいのか。
「かわいそう、杉崎君」
「せっかく貰えたのにねえ」
「笙子があげるなんてほんとにめったにないもんねえ」
後ろから同情の声がする。
うちのクラスで始まった対立は他のクラスには影響ないらしい。
むしろこのわんこは男子として周りに認識されていない空気を感じる。
「ハア……ね、小町。残ってたら貰っていい?」
「もち、どうぞ、お姉ちゃん♡」
面白がってる。
そうか、お姉ちゃん。
なるほどね。
弟。
……しっくりくるわね。
「はい、あーん」
「あー」
小町の差し出したクッキーを一枚つまんで口元に持っていくと素直に口を開いた。
相変わらずかわいいな、この子は。
「で、誰に持っていかれたの」
「クラス違う人。名前はわかんないな」
知らない人の口に入るってちょっとやだな。
思ってることが顔に出たのか優太にまた謝られた。
あー、またからかわれるかな……
にやりと笑う小町を見てちょっと明日休みたいって思ってしまった。