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「毎回ごめんなさい、仕事がこの時間まで終わらないものだから……」
「気にしないで楓子ちゃん、昔からの仲じゃない」
にこにこと笑いあう二人。
この二人は幼馴染で、ほぼ結婚のタイミングも同じ、子供も同じ歳、新居もお隣っていう偶然が重なって仲がいい。
「どうなの、仕事、順調?」
「うーん……相変わらず雑用みたいなことやってる。でも好きでなった職だからねえ」
仕事?
お母さんは専業主婦だったはず。
お父さんの赴任先について行くために……
「しょーこちゃん、またあしたね」
あ、帰っちゃう。
待って。
「あら、笙子。どうしたの」
「笙子ちゃん?」
とっさに掴んでしまったらしい優太の袖を慌てて放す。
不思議そうに見ていた優太がにっこり笑った。
「ぼくのおうちであそぼう」
って手を握られた。
あったかくて 、柔らかくて、泣きそうになった。
でも、嬉しい時は笑うんだもんね。
「ママ、いってきていい?」
「あ、ママもいこっかな。久しぶりに楓子ちゃんのご飯が食べたいな」
「奈津子ほど、上手くないってば。あれ、今日旦那さんは?」
「まだ帰れないって。寂しいの。楓子ちゃんかまって」
「もー、いいよ。うちの人も今日は遅いって言ってたし」
しょうがないなって笑って快諾した母は、別人みたいに見えた。
4人で夕飯の買い出しに来て分かったこと。
周りは全然変化してないこと。
あたしと優太の居場所だけが変わってること。
近所のスーパーは相変わらず安くて、公園は人がいっぱい。
何にも変わらないのに、あたしたちだけ違う。
母は、父の赴任先について行かないみたいだ。
なんでか仕事してるし。
違和感に慣れなくて、ギュッと優太の手を握った。
優太そのものは変わってない気がして、安息の場所に思えた。
優太のリクエストでハンバーグになった夕飯を4人で食べて、一緒にテレビを見た。
家の中も変わってない、そのままだった。
母は、料理ができる人だったみたい。
やらないだけだったのか。
ずっと手を離さないあたしたちをにこにこ笑ってみてた母たちの顔は、にこにこよりにやにやが正しいか?
おやすみ、またねって手を振るころにはあたしの右手を握るママに慣れてきて、ちょっとさみしそうに笑う優太の手を離すことができた。
「また、あしたね。ゆうくん」
今日一番の笑顔ができたんじゃないかな。
優太もニッコリ笑って頷いた。
思い返せば、幼稚園時代はまだ平和な方だったな……
問題は小学校に上がってから。
ま、もう少し時間あるし、なんとかなるっしょ。
多分今4歳くらいでしょ?
「今度の日曜日、入学用品揃えに行く約束忘れないでね!」
なんですと?
2月ですよ、今。




