0-6
頭、痛くない
さっきまでの眠気もない
ここは、どこだろう
白い空間
足元にも床の感触は無くて、ふわふわ浮いてるみたい
「おかえりなさい。どうだった?」
どこからか、いつか聞いた声が聞こえてきた
「……あたし、死んだ?」
あたしから出る声はすっかり慣れたおばあちゃんの声じゃない
びっくりして体を見下ろせば、若々しいシワのない手があった。
「……優太は?まだ気づかないで寝てるの?」
声が震えてる。
「……彼は、君が死んだ後自分を責めていたよ。君の異変に気づかなかった自分のせいだって」
「そんな、あたしは」
「君は自分の死期を知っていた。知っていたからこそ、手を打たなかった。そうだろう?」
確かにそうだ。
もうすぐ死ぬことは決まっていた。
逆にいうとひ孫を見るまでは死なないはずだって思ったから、結構な無茶もしてきた。
あたしが死んだ後は、あの人が困らないように物の在り処を書いた紙や、料理のレシピなんかも残してきた。
「彼は後を追うように死んだよ」
そんな
生きて、ほしかった。
生きてて、ほしかった。
あたし達が幸せだったあの場所を、守っててほしかった。
勝手なこと言ってるよね。
でも、あたしはあの時に死ぬことは分かってたこと……
「そのことなんだけど。僕は確かにひ孫まで見せてあげるって言ったけど、その日に死ぬなんて言ってないよ。むしろ、長生きさせてあげる気でいたのに、無理して死期を早めたのは君だよ」
「……あたしがもっとしっかりしてたら、ずっと一緒にいれたってこと?」
「そうだね」
あの、幸せな空間を壊したのはあたし
胸が苦しい
「優太に会えませんか」
「君が今まで一緒にいた彼にはもう会えないよ。彼の死は決定している」
会いたい
先に死んでゴメンねって言いたい
幸せだった、ありがとうって
「じゃ、さっそくだけど、次はどうする?ファンタジーな世界に行っとく?あ、家の飼い猫だっけ?」
次?
次なんてない
「……会いたい」
クスクスと笑う気配がする。
あったかい向かい風が、何時の間にか頬を伝っていた涙を拭って行った
「じゃ、また違う世界に、彼が生きてるところにいってみる?」
え、
返事する前に、ふっと意識が薄くなる
「今度こそ本気でやり直しておいで。まだまだ終わったわけじゃないんだから」
最後に聞こえた声は優しかった。




