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まだまだ若いつもりでいても、年々体力の衰えを感じる。
あたしもあの人も、お互い歳をとったなって感じる瞬間が増えてきました。
例えば、この前までお年玉をあげてた孫たちが初任給でプレゼントをくれた時。
例えば、トントンと腰を叩く姿が様になってきたって思う時。
例えば、若い頃の思い出話が増えた時。
ほかにもあるけど、挙げればキリがないからやめておきましょう。
早いもので、あたしとあなたが結婚してからもう40年以上になるんですね。
結婚した当初の話をすると、あなたは決まって居心地悪そうに目をそらしていましたね。
だってそうでしょう?
あたしは納得してなかったんだもの。
気づいたら両家で話がまとまってた……なんて、昭和初期ですか?
すっかり機嫌を損ねたあたしをあなたは必死になって宥めてましたね。
今まで言ったことなかったですけど、あたしは昔からあなたの困った顔が好きだったんです。
その顔が見たくて、とっくに治ってた機嫌も悪いふりをしばらく続けていたの。
もしかして知ってた?
だったらちょっと恥ずかしいな。
そうそう、機嫌といえば、あたし達の娘をお嫁さんに出す時のあなたは凄かったわね。
今思い出しても笑えてくるわ。
20歳になって、成人式が終わったその足で、この人と結婚させてくださいって娘が言ってきた時。
あなた、なんて言ったか覚えてる?
まだ社会にも出てない若造が!
って言ったよね。
あれをきいて笑ったわ。
だってあたし達も20歳で結婚したくせに。
結局あなたは折れて、娘が結婚して、すぐに孫も産まれたわね。
あなたは何だかんだ言って子供好きだもの、初孫を抱っこしてしばらく離さなかったよね。
そんな初孫も今年結婚して、子供が産まれます。
こんなに早くひいおばあちゃんになるなんて、考えてもいなかった。
だってまだ60だもの。
元気よ?
周りはやっとおばあちゃん、おじいちゃんになる年齢なのにね。
「二人で旅行に行こう」
定年を迎えたあなたがそう言った。
20歳、学生結婚、出産、子育て。それが終わったら孫の子守。
思えば、ずっと忙しく過ごしてきたんだねって二人で笑った時もあった。
新婚旅行も出来なかったからその代わりに海外なんてどうかな?
そうはいうけど、近場の温泉で良いですよ。
ひ孫の誕生にはいち早く駆けつけたいじゃないですか。
あなたと二人で過ごしてきた時間は、あっという間に過ぎて行きましたね。
この場所に居て良かった。
生まれて良かった。
そう、思えるようになってきました。
ねえ、優太?
あなたがなんであんなに早く結婚したがったか、いまだによくわからないんだけど。
そこは絶対教えてくれないものね。
ただね、想像で言うと、焦ってた……んじゃないかなって。予測。
だって首藤や、古屋君もちょくちょく寄ってきてたものね。
古屋君のショックを受けたような顔とか、驚きつつ、複雑に笑いながらも喜んでた首藤。
いまでもはっきりと思い出すよ。
色々あったけど、楽しかった、幸せだった。
リミットはだんだん近づいてくる。
ひ孫が産まれるのは楽しみ。
でも、怖い。
優太、あなたのこれからが、心配です。




