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「笙子、終わった?」
放課後の音楽室。
自主練習を終えて片付け中に優太が顔を見せた。
「先に帰ってて良いのに」
「部活の無い日くらい一緒に帰りたい」
友達曰く、笙子専用笑顔で手を握られるとさ……ちょっと嬉しく思ったりもします。
高校に入学してはや一か月。
周りはほぼ中学と同じメンバーの持ち上がり組。
優太はこの頃…いや、前からだけど、あたしのこと大好きアピールが激しい気がする。
もうね、あんたら、付き合ってんでしょ?って言われることもしょっちゅう。
それがなんだか、嫌じゃないみたいなんですよ。
ちょっと…嬉しいんだな。
ずっと、あたしを見てて、好きでいてくれて、好意を素直に表してくれる。
そんな優太をあたしも好き……なのかな……
「ごめん、先に帰るね」
「うん、お疲れ様~。また明日ね」
にやにや笑う友達に挨拶して、音楽室を出た。
扉が閉まる瞬間に、刺さるような視線を感じた。
正体はわかってる。
古屋君だ。
彼は時々あたしを睨むときがある。
中学校時代よりは打ち解けて話せるようになったって思ってたんだけどな……
「わざわざ、迎えに来なくたって良いよ?」
「良いんだよ。俺が行くことに意味があるの」
キラキラしい笑顔…そう感じてしまうのは、もう恋、しちゃったからなんでしょうか…
優太に手を引かれて歩く帰り道。
高校に入学してから感じるようになった視線を感じた。
内心、あ~、またか……隣を見上げる。
絶対こいつの追っかけに違いない!
「なに?笙子」
あたしを覗き込んで、ぎゅっと手に力を込めた優太は嬉しそうだ。
「なんでもない」
そっと後ろに視線をやれば、学校の制服がパッと隠れる瞬間を見た。
「あれは、関わらない方がいいと思う。ほっといたほうが良いよ」
「え?」
後ろを気にいてるあたしに優太がつぶやいた。
「なんて言うか、俺じゃなくて笙子を見てる。いつもと違うから、なんとなくわかるよ」
いつも見られてる自覚あったんだ……
ってそうじゃなくて。
「あたし?なんで」
「さあね。男だったらいつも通り対処するんだけど、女は殴れないしなあ……」
いつも通りの対処=殴るに聞こえるんですけど、気のせいでしょうか。
あたしの周りに男子が寄ってこないのはお前のせいか……
首藤以外の男があたしから目を逸らすのも、顔面蒼白になるのも、お前のせいだったか、やっぱり。
うん、うっすらと気づいてたけどね。
優太の危ない発言を流してヘラッと笑った後、また歩き出した。
「…っきゃん!」
べしゃ、ばさばさ、ごん……
振り返ると女の子が倒れていた。
周囲に荷物をぶちまけて。
「……笙子、関わったらダメ」
優太の心配そうな声がしたけど、放っておけなかった。
「大丈夫?」
駆け寄って手を差し出す。
緩い二本のおさげ、黒縁の眼鏡、指定通りに着た制服。
座り込んでいた子があたしの声に驚いたように顔を上げる。
どっかで見たような、顔だ。
そう思ったのは一瞬。
ぼんっという音が聞こえそうなくらい一気に真っ赤になった子が慌てだす。
「ああああああああああああ」
「ちょっと落ち着いて」
「あの、あの、あの、あたし」
「…落ち着け」
べし。
思わず彼女の頭を叩いてしまった。
「ほら、片付けようね」
ぼんやりしてる彼女の荷物を鞄に仕舞い込んで、渡してやった。
「す、すみません。ありがとうございます」
真っ赤になってお礼を言う姿は、なんか可愛かった。
「このお礼は今度必ず…あたし、遠野凪っていいます」
凪!?
凪って、あの、凪かしら!?
金髪、メイクばっちりで、合コン三昧かと思いきや、いちずに優太が大好きで、優太に近づくためにあたしに近づいて、裏切ったあの凪?
前回と全く違う変貌ぶりに眩暈がした。




