12
「笙子、顔が……」
「……優太、あたしはもうだめだ」
すごい顔をしていたんだろう。
部活が終わって、外のベンチ。
野球部のユニフォームを着たままの優太があたしの顔を見た途端引きつった笑顔になった。
「おい、笙子?とりあえず帰ろう。話聞くから」
手を引いて立たせてくれる。
三年間で伸びた身長は、見上げないと優太の顔が見れないくらい。
大きくなった手。
ちょっとゴツゴツし始めた手に年月がたったことを感じる。
「今日パート決めるミーティングだったんだろ?落ち込んでるのはそれか?」
それです。
「なんだ、古屋に負けたのか?」
頭を振って、違うとつぶやく。
「勝ったなら、喜べ。ほれ、笑え!」
ぐいー。
「ひたたたたた」
ほっぺた引っ張られた。
古屋君になんでか敵対されてること、優太に言ったことがある。
優太は真剣に話を聞いてくれる。
須藤には軽く流された。
むしろ「逢えただけ良かったんじゃね」って言われて終わった。
「なにすんのよ!」
べし。
頭に衝撃。
「悲しいなら、泣いとけ」
どうして、あそこまで嫌われてるか分からない。
古屋君ファンの同じ部活の子は笑って見てるし、あたしの味方だっているけど、理由がわからないから助けようがないって言われる。
やめたいって思ったこともあるけど、少しでも話せるのが嬉しいって思えたから。
もう、絶対仲良くなんかなれないだろうな。
手を引く優太の背。
周りが、滲んで見えた。
「笙子はこの頃おとなしいよね」
もっと、怒っていいんだよ。
手に力がこもった。
「だから、何回言えばわかるの。バカ?」
イラッ
「そこは、違うでしょう。後輩の見本にもなれないの?」
カチン
「もっとみんなをまとめてくれないと、困るんだけど」
……
「古屋君」
「え?」
むかつく。
なにこいつ。
こんなに精神を削り取るような言葉、先生は言わなかった。
美化してるって思うけど、これはもう、絶対別物。
嫌われたくなくて、にこにこしてきたけど、もう限界。
「……ちょっと話があるんだけど」
黙り込む後輩たちのびくびくした顔をみて、ため息をつく。
音楽室の外に連れ出す。
「後輩の前であんな言葉はないんじゃないの。チームワーク乱れて最悪なんだけど。皆の顔ちゃんと見てる?あんたがなんか言うたびにびくびくしてるよ」
「……それは、…君が」
「そうね、しっかりしないからでしょう?少し黙って様子見ててくれないかな。あたしの言うことをすべて潰すことがセカンドの役割じゃないでしょ」
黙り込んでしまった彼を見て、ちょっとやりすぎかと反省する。
普段静かな人が怒ると怖いよね。
「さ、戻ろう。時間なくなる」
笑ったのに。
我慢して笑顔作ったのに。
慌てて顔をそらされた。
イラッとした。




